fragment (モテないから拾った子を育てて嫁にする)
「はああああああああああああああああ…………」
道を歩きながら大きくため息を吐く男性。その装備は立派なもので彼の体つきも装備には見合わないがそれなりに鍛えられているように見える。周りを気にすることなく、どことなく油断しているようにも見えるが実力ある者が見れば常に周囲を警戒している……ように感じられただろう。実際には彼は全く周囲を警戒していないし、特に何かが向かってくるようなことを気にすることもしていない。ただ、彼は別にそういったことをしなくとも周囲の情報を完璧に把握する能力を持っているのである。彼は異世界転移者、この世界に来る際にこの世界に送り出した神からチートを貰った存在であった。
「はあ……」
またも小さくため息を吐く。いったい彼はなぜ溜息を吐くのか。チートを貰い様々な困難に対し容易に打ち勝てる強さを持つというのに何を気にする必要があるのだろう。それは彼の呟く言葉ですぐに理解できる。
「まーたふられた……なんでモテないんだろーなー……はあ」
ふられる、モテない。この二つの言葉からわかる通り、彼の気にしていることは女性関係である……それもモテるモテない、女性に人気であるかどうか、周りに女性が寄ってくるかどうか、女性に想われるかどうか、そういう方面での話。彼はとんでもない力を持ち、相応に様々な形で結果を残している。それでもなぜか女性にモテることがない。
「がっつぎすぎなのかねえ? うーん……」
理由としてはいろいろだが、容姿の問題であったり彼の性格の問題であったりその実力が強すぎるゆえの問題であったり。実際には彼は全くモテないというわけではない。ただ、それは彼のお眼鏡にかなわないから基本的に除外して考えている。彼の女性への基準が高い……というよりは、自分が好みに思った存在に持てなければ意味がない、ということなのかもしれない。
結局モテるモテないの問題は彼の我が儘のせいである。ふられるかどうかに関しては相手側の恋情の問題もあるだろう。既に惚れた相手がいるのにかっこいい実力があるお金があるからといって簡単にはなびいたりはしないだろう。恐らくはそういった相手ばかりに惚れているのかもしれない。流石に相手がいるのに手を出すようなことはしない。浮気相手になるつもりもない。
「ん? 煙? 焚火とかそんな感じじゃないな……何かあったか?」
少し遠くに見える煙。彼はそれを目ざとく見つけ、その原因を考察する。焚火の煙とは規模が違い、明らかに何か異変が起きたということが伺える。煙が出ているということは火が使われているということ、それは人の手によるものである可能性がある。恐らくは盗賊か何かが村などの小さな集落を襲い火付けを行った……と推測できる。まあ、魔物がそういったことを行うこともあるので何とも言えないのだが。
「とりあえず確認に行くか。生存者がいたら助けないといけないしな」
彼は力もあるし、女性にモテたがる性質を持っている。しかし基本的に悪い人間ではない。困っている人がいれば助けることもあるし、何か問題が起きて例ればその解決を行うこともある。実力ある者の役目、と言うほどではないが半ば仕事、半ば善行としてそういうことを行うものである。まあ彼にとってはあまり無茶でもない割と簡単にできるようなことであるからこそ、というのもあるかもしれない。命がけで無謀な行いをするようなタイプでもない。
と、そういった彼のことに関してはともかく、煙の発生源となる場所に彼は向かった。
「ちっ。もう終わってるか……とりあえずまずこの火を消しておかないとだめだな」
煙の発生源はそれなりに遠く、彼でも移動に時間がかかった。煙が出たのは事が終わる少し前であったのか、彼がその煙の元に到着した時にはすべてが終わっていた。村は襲われそこに住んでいた多くの人は死体となって転がっている。乱暴されかかった女性の形跡もあり、恐らくは盗賊が襲った者だろうと言う推測ができる。村の規模はそれほど大きくはないが、そこに転がっている死体の数は少なく、何人か……特に子供は攫われている可能性が高いと推測できる。
とはいえ、何が起きたかに関してはわからないが先にやるべきことは村自体に広がり始めた火の対処。
「ふっ!」
剣を抜き、一閃。突風のような剣戟が巻き起こりそれが火を浚って行く。剣閃に飲まれた火は燃えるための物を失い消え、建物から火は取り除かれた。
「こんなもんでいいか……死体も対処しておかなければいけないよな……ん? 誰かいる?」
火を消し、あとは死体の片づけ。まとめて埋めるなり焼くなりして対処し供養くらいはしておこう、そんなふうに思っているところ、彼は誰かの気配を感じる。こんな村の惨状でまだ生き残っている者がいるのか、あるいは村に居残った盗賊の一味か。感じる限りでは恐らく彼は前者であるだろうと推測づける。理由はその気配の大きさ、強さだ。子供の気配であったゆえに。
「……おーい! 大丈夫か!」
返事はない。しかし、その建物に子供がいることはわかっている。
「……入るぞ!」
建物の中に入る。見渡す限りでは子供がいるように見えない。しかし、その隠れている気配を彼は感じていた。
「……大丈夫か?」
「っ!」
隠れている場所まで行き、その子供を隠している隠れ蓑を取り払う。泣いている、しかし声は出さずに耐えていた女の子だ。小さい、まだ幼い女の子。将来的に恐らく美人となる……発見した彼にとっては恐らくかなり好みな女性になるだろう資質を備える女の子。思わず心の中でもっと成長していれば、と不謹慎にもこの場の状況で思ってしまうくらいには。
「大丈夫か? 村を襲っていたやつらはいなくなったみたいだ。えーっと、俺は一応助けに来たんだが……来た時にはもう全部終わっててな。死体の供養とか色々しようと思っていたところにお前を見つけたんだが」
「………………そう、なんだ」
女の子の表情はかなり暗い。まあ、村が襲われ、既に襲ったものがいないということは襲った者がやるべきことが終わったということ。殺し、犯し、奪い、壊す。やりつくした結果これ以上得るものはないと去っていった。ならば残っているものはないということだ。この女の子の親、家族ももういない。
「…………」
「どうする? とりあえず村の人間の死体くらいは片づけておくか? いや、手伝えってわけじゃないんだけどな。一応ここの生き残りだろう? 角煮くらいはとっておいた方がいいかと思うし、宗教的なのもわかるんじゃないかと思ってな」
「………………うん。わかった」
女の子もただここにいてもしかたがない。そんなことを思ったようで、男性に対し色々と話をする。そんな中、この女の子を見つけた彼は思う。この女の子はかなり自分にとっては好みな存在である。年の問題はあるが、逆に言えばそれは年数の経過でどうにかなることである。ならば……この女の子は今身寄りもいない状態だろう。それなら自分が預かることにしてもいいのでは? 自分好みの、自分にとって都合のいい存在にしてもいいのでは? そんなふうに彼は考えた。
「光源氏計画だったか……?」
「……?」
女の子は彼の呟きを理解できない。この世界に光源氏はいない。彼の世界にあった、とある書物、物語におけるお話の中に出てくる登場人物が行った事柄。その計画を呟いても、その内容は理解できるはずもないだろう。その彼の計画がうまくいくかどうかに関しては女の子がどういう行動を選択するか次第である。
なお、拾われた子は実は王族が行きずりに孕ませた落胤という設定があったりする。




