fragment (流れ着いた神の剣)
「はあ…………」
迷宮の中を歩きながらため息を吐く。理由は簡単だ。自分の立ち位置が悪いからだ。
「おい! 速く来やがれ!」
「は、はーい!」
僕の迷宮を探索する冒険者のパーティーとしての立ち位置は荷物持ちだ。最初は魔法使いかと思われて誘われたのだが……僕は魔力は高いと判定されたけど魔法は使えないと判定されてしまった。高魔力の冒険者は自動的に魔法使いとして割り振られ、また成長も魔力寄りのものとなってしまう。おかげでろくに戦うこともできない、魔法も使えず武器を持って戦うのも向かない戦闘能力となってしまった。
その結果、今のパーティーに誘われたはいいが実力のない冒険者として荷物持ちを仕事として割り振られた。力はないが体力はそこまで大きな差がない。荷物を持つ分にはまだ少しは役に立つ、という判断だろう。追い出されなかった分マシと言えるが、本当にマシかどうかも怪しい。わからない。不安。まあ、大人しく従うしかないだろう。この先ずっと同じパーティーとも限らないし、何か機会があれば魔法も使えるようになるかもしれない。今は荷物持ちを精一杯頑張ろう。
「だ、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。それよりついていった方がいいんじゃないの?」
「私も……戦闘じゃ役に立たないから」
僕が前を進む冒険者仲間についていく中、同じ後方にまで下がってきた女の子の冒険者。彼女はミーア、このパーティーのヒーラーだ。彼女はヒーラーとして回復薬としては極めて優秀な冒険者だ。その代わり彼女は戦闘を行うこと自体ができないらしい。理屈はわからないがそういうものらしい。戦闘になると彼女は攻撃そのものができないため一方的に嬲られることになる、ということみたいだ。
戦闘には役に立たないがそのヒーラー能力の高さは確かな物、その点で冒険者パーティーとしてはありがたいのだが、戦闘に参加できないため戦いになった場合後方へと下げなければならないということのようだ。僕よりは断然役に立つ存在である。心配されるのはありがたいんだけど、変に他の冒険者から嫉妬されかねないのであまり話しかけないでほしいと思う。一応可愛い若い女の子だから人気も需要もあるだろう。こんな役立たずが下手に関わると面倒なことになりかねない。
そんな感じで僕らは迷宮を探索していた。奥へ、奥へ。まだ僕を含めそこまで実力のある冒険者というわけじゃない。僕に比べれば他の仲間は実力があると言えるが、そもそもの比較対象が問題だろう。僕らはまだ冒険者となって日が浅い。一月も冒険者業をやってきていない。そんな冒険者だから、ひたすら強くなるために、実力を得るために、評価されるように先を目指す。
しかし、あまりに焦りすぎたせいだろう。一日目は問題なく進み迷宮の中で夜営した。そしてそのまままた進む。戻ることはしない。そんなふうに進んでいたせいだろうか。僕らでは勝てないような、そんな魔物がいる場所まで来てしまったのは。
「うわっ! やべ! 徘徊モンスターだ!」
「げっ、あいつら強いだろっ!? おい、逃げるぞっ!」
迷宮を徘徊する強力な魔物、徘徊モンスター。単純な名前だがその強さは確かなもので危険度は高い。凶暴で出会えば確実に襲ってくる、どちらかが死ぬまで戦い続けなければならず、狙われれば逃げ切るのは難しい。
「逃げろ逃げろ!」
「あっ!」
そうして逃げていると、ミーアが足を縺れさせて倒れる。そんなミーアを皆は無視する。助けている余裕はない、と。
「今の内だ! 今なら囮がいる!」
「っ」
「囮になったのがミーアなのは残念だけどな! 命あっての物種だぜ!」
辛辣な言葉だ。しかし、彼らの言うことも理解できないわけではない。この迷宮を探索する冒険者にとって命以上の大事な物はない。しかし、僕はそれがすべてであるとは思えなかった。命は確かに大事だ。だけど、命以外にも大事な物だってある。たとえ死んだとしても、それを通す必要がある。そう思った。
「あ、おい!」
「ちっ! 荷物持ちだろうがお前!」
「大分使ったし大事なものは持ってねえ! それよりも逃げるぞ! 構ってる暇はねえ!」
「あ、ああ!」
幸いなことに僕が逃走から外れても彼らはそれを咎めはするが僕に関わるつもりはないようだ。実際荷物の大部分は良くて二日持つ、くらいのもので夜営で多くは使ってしまった。回収した荷物に関しても本当に価値のある物は僕には持たせていなかった。僕が持ち逃げする可能性も考えてあったのかもしれない。まあ、それは僕にはどうでもいい話だ。
「ミーア!」
「あ……ベリルさん」
「早く! 立って! 逃げるよ!」
「は、はい! ありがとうございます……ごめんなさい」
逃走に遅れた自分に僕を巻き込んだことを辛いと感じているのだろう。謝られた。それはしかたのないことだが、僕はあまり気にしてはいない。其れよりも逃げることを優先しないと。
「荷物は……いらないな!」
「あ。いいんですか?」
「足止めにもならないかもしれないけど。どうせ僕がここに残っている時点でなくなったものだとみんな思ってるさ!」
ミーアの手を取って走る。迷宮の正確なマップは覚えていない。このまま進んだところで道に迷うんじゃないかと思う。でも、今は徘徊モンスターから逃げないと!
かなりの距離を逃げたと思う。でも、徘徊モンスターは……多分まだ追ってきている。っていうか僕たちの方に狙いをつけたようで先に逃げた仲間の方へ行っていないようだ。気配がびんびんに感じられる。
「はあっ、はあっ」
「はあ……はあ……つ、疲れ、ました…………」
「走れない!?」
「は、走れません……」
「っ」
流石に足を止めて無事でいられるはずがない……どうしたらいいだろう。疲労を少しでも除くために壁に背をつける……と、ずるりとずれ込むような動きが。
「えっ?」
「へっ?」
僕は隠し部屋へと流れ込んでしまった。
「うわっ、たあ……」
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫……だけど、ここは?」
迷宮の隠し部屋。時々あるらしいけど、こんな浅い階層にもあるとは思わなかった。盗賊の人とかが見つけてるものかと思うんだけど。
「……剣?」
「剣ですね」
中に入り、そこにあったものを見る。剣が台座に突き立てられていた。
「…………抜いても大丈夫かな?」
「呪いとかそういうのはなさそうだけど……でも、剣が安全かはちょっとわかりません」
「そっか。って、そんなことしている場合じゃない!?」
今もまだ徘徊モンスターが追いかけてきている。そんな状態で悠長にできるはずがない……って、さすがにこの場所から出て逃げるにしても、もう間に合わないんじゃ……?
「あ! で、でも、逃げられる……?」
「流石にこの状況じゃ……」
「じゃ、じゃあ隠れないと!」
「……隠れられるとも思えないけど」
部屋はそこそこ広い。入口はまだ比較的狭いからそこを封鎖できればある程度時間は稼げるかもしれない。だけど逃げることはたぶん無理だ。それに封鎖したところで突破されるだろう。徘徊モンスターは逃げても逃げても迷宮を脱出しきるまで追ってくると言われるくらいにしつこい。この部屋に逃げ込んだ程度では追ってくるのは間違いない。どうしたら……
『そこの魔法使い』
「え?」
「へ?」
『はあ、ようやく人と遭遇出来た。しかし、あまり肉体的には期待できそうにないが……その魔力は中々大きい。それに何やら危機に陥っているようだな?』
どこからか声が聞こえる。声の主は見えない……そもそも、この声自体が異質だった。何故ならそれは耳で聞いた音ではないから。
「だ、誰です!?」
「…………そこの剣、なのかな?」
『ほう。中々判断が早いな。まあ、厳密にいれば俺はこの剣そのものじゃない。この剣に同居しているだけの存在だ。この剣はメルシオーネ。ちょっと特殊な剣だ。今は本来のこの剣の霊は眠ってる。力が足りずにな。おかげでほとんど囚われの俺が変わりをしないといけない状態だ。と、そのあたりの話はあまり関係のないことだな。さて、お前たち、今困っているんだろう? 何かの危機で』
「……そうだ」
剣の言っていることはいまいちわからないことも多い。しかし、今困っているというのは事実だ。この剣はわざわざそんな僕らに話しかけてきている……であれば何かの目的があるということだろう。それが何かはわからないが、何か今の状況の打開策になるかもしれない。
『それが何かは知らないが……解決を手伝ってやろう。少なくとも荒事なら解決は容易だ』
「…………ベリルさん」
「わかった。その提案、受けるよ」
『話が早い……まあ、それだけ危機に瀕しているということかな。さて、まずは……剣を抜け。魔法使い。俺……いや、この剣を使う。そうすることでようやく戦える。俺を抜かなければ話は進まないからな? その間に死んでも俺は知らない』
剣にどんな問題があるかもわからない。でも、剣は僕を名指ししている。わかった。剣を抜こう。それがこの今を解決する手段になり得るなら。
とある作品の神剣とその所有者。憑装による一体化後の剣の行き先。




