fragment (霊喰い霊と死神さん)
「ああああっ……って、あれ? ここどこだよ?」
事故ったと思ったらいきなりどこかわからない場所にいた。暗い。しかもなんか石造りだし。
「……なんだ? 何か見覚えがあるんだが……んん?」
この建築様式、壁の構造にはどこか見覚えがある……見覚えと言っても、記憶の中にある建物、どこか遺跡的なそういうものではなく……と、そこまで考えて思い出した。
「あ、ゲームとかで見たことあるのか……って、ここは現実だよな? ゲーム? なわけないよな……VRとか未来技術なわけないし。今のVRじゃここまでのものでもないし? ってか、VRなら……事故? あ、事故った、ああああああああああ! そうだ! 事故ったんだ! 信号無視してきたオープンカーに事故られたんだった! くそっ、ったく…………医療機関のVRによる何か? んなわけねーよな……」
思い出した。ここにいる前にどこで何やってたかっていうと青信号になった横断歩道渡ってたら信号無視した車に撥ねられたんだった。まあ、撥ねられた記憶はほとんどない。痛みとか感じたのは……まあ、ぶつかった直後に一瞬、みたいな感じか? ぶっちゃけ事故った時の記憶って痛みとかよりも衝撃とかのせいでかなりあいまいになるよな。気が付いたら倒れていた、痛い、みたいな。まあ、さすがにちょっと前だから覚えてるっちゃ覚えてるけど。
「…………これはもしかして最近流行りの異世界転生ってやつ? 現実になったら笑えないっつの」
なんか漫画とかラノベとかになってる異世界転生的なあれかな。と、思うには思うが。現実的ではないというか、そんなファンタジーなことが起きるかって思いたくはなる。だけど目の前の景色は現実だ。
「とりあえず……外に出てみたい。ってかここどこだよ?」
今更だが、今自分がいる場所もわからん。とりあえず外に出て、せめて人のいるところに行きたい。
「……あ。そうだよ、ここがもしかしてゲームとかでよくある迷宮なら……お約束なら、モンスターとかいるよな……やべ、どうしよ」
今の俺は武器も何もない。っていうか事故る前に持ってたものもないし。と、やばいと思いつつどうしたらいいか考えていたら、モンスターは近づいてきて……まるで俺がいないかのように、俺を通り過ぎて行った。近づいてくるのを見たまま固まっていた俺を、俺の中を、素通りした。
「……は?」
今、モンスターが俺の体を通り抜けた。それはつまり俺の体がないってことか? 反応しないってことは見えないってことか? え、いや、確かに俺の体、透けてるけど……っておい!?
「は、はははは……もしかして事故って死んで、それで異世界にぶっ飛ばされたわけ……?」
異世界転生どころじゃなくて、もっと別の何かだった。まさか幽霊になってこんなところに来ることになるなんて……生身で来るよりもマシだったか?
「うえ。死体だ。グロっ、気持ち悪っ!」
死体を見つけた。まだ人間じゃないだけマシかとも思うがキモいのはキモい。
「……しっかし、やっぱ触ることはできないか、ん?」
死体でもっていうかそもそも物に物理的に触ることはできない。壁がだめだからわかるが、死体とかそういうのでもダメっぽいな。でもなんか、死体に触るとこう、ふわふわした何かがあるのがわかる。しかも触るとこう、体の内側に入り込むような。
「おお? 何か吸収できる? あれか、死体だから? 俺幽霊で死んだやつから霊的何かを吸える的な?」
面白い話だ。しかし、こういうのってあれだよな。幽霊食う幽霊的な? まあ、向こう幽霊でもないけどな。ふーむ。これはあれか、食事みたいなものか? それとも回収して強くなる的なあれとか? どんどん蓄積して強くなる的な。あるいは経験値みたいなもんでもいいか。ぶっちゃけなにかはわからんが、なんとなーくこれをとっていくのがいいかなと思うぜ。ってか他にやることもねーし?
「や、やっと見つけたー!!」
「んお? 誰だ?」
声が聞こえた。今まで人の声は会話している様子は見えても聞こえることはなかったんだが。まあ体がないから音が拾えないんだろう。空気の振動だしな、音って。耳がない、物理的に存在しないから聞こえないと。じゃあいま聞こえてるこれって何だろうな?
「あんた誰?」
黒い外套、大きな鎌。可愛い女の子だが見た目が凶悪すぎるぜ? ってーか、これってよく漫画とかゲームとかアニメとかいろんな作品で出てくるような死神じゃないか。まあ今更死神程度では驚かんが。俺は幽霊だしなあ。
「私は死神です…………担当する魂がどこかに行ってしまって、それを探して……ここまで来て……はー、本当に疲れましたよー?」
「それはご苦労さん。で、魂とやらは見つけたのか?」
「あなたですよあなた! なんでこんなところに! ここ元々の世界じゃない異世界ですよー!?」
「知らんがな。俺に聞くなよ。俺が事故った原因の車運転してたやつに聞けよ。俺のせいじゃねーし」
「そんなこと言われても……」
「ってか死神なら俺が死ぬこと知ってたんじゃないの?」
よくある人が死ぬのは運命的に決まってる的なあれがあるよな。ってかお迎えってそういうの知ってないとできねーよな? なんでこいつそういうことしなかったの?
「うちは通知式なんです。担当する人が死んだらその人が死んだって報告が来て、その人の所まで行って連れて行くんです……それがなんでこんなところに! 異世界とか大変で一時的に私全担当から解雇されてる状態なんですよ!? 異世界に行く場合元の世界からはしばらく外れますから! お給料出ないんです!」
「死神って給料制だったのか」
初めて知った事実だ。うん。
「それじゃあ行きますよ」
「え? やだよ」
「はあ? 何言ってるんです? 死んだ魂は輪廻に運ばれて転生するのがお約束です」
「やだよ。死んだけどまだ生きてるし」
「いえ、死んでますからね!?」
誰が好んで輪廻転生するんだ。わりと幽霊で好き勝手自由に生きられるのにさ。誰かに迷惑かけたいとかは思わないけど、死にたくない消えたくないってのはある。目の前のこの死神には悪いが俺は俺でいたい。輪廻転生で魂は残るとしても、だ。魂さえ無事ならいいってわけでもねえし。
「……いうこと聞かないなら、無理やり連れて行きます!」
「おい! 武器構えんな危ない!」
「問答無用!」
「なんでそんなに強いのー!」
死神弱い。いや、弱くはないのか? こっちの方が動きが良くて、相手の動きが遅くて、武器も受け止めることができて……力の差か。
「そんなこと言われても知らん」
「うう……一応死神は神の一種、普通の人間が敵うはずないのに……よくみれば密度が、霊体の密度がやばいじゃないですかこれ? あれ? どこからその霊体を構成する要素を確保したんです?」
「ん? ああ、死体から吸ってたあれか?」
「…………ま、まさか死んだ相手から霊体を吸収していたんですか!? それが原因でここまで強く……はっ! こ、これはやばいです! 報告に行かないと!」
「あ! 待て!」
報告とかなんかやばそうだ。とりあえず捕まえようあるぜんちんばっくぶりーかー?
「痛いです! うう、腕ひしぎとかやめてー!」
「あ、これ腕ひしぎっていうのか?」
「知りません! てきとーです!」
「あ、そう」
あるぜんちんばっくぶりーかーも適当に言ってるだけだし、結局これは何だろうな。単に関節技でいいのか?
「は、放してください!」
「放したら帰って報告とかするんだろう? 残念だけど俺は殺されたくないから」
「もう死んでます!」
「生きているってのは命だけじゃなくて意思もまた言うんだぜ? 俺が消えるイコール俺が死ぬ。わかったか?」
「わかりました! 放してください!」
「でもなあ……戻って話される困るし? いっそここで殺して……」
「ひい! なんで殺すとか言えるんです!? あなた普通の日本人ですよね!?」
「ここ異世界だし」
「人殺し!」
「あんた人じゃないじゃん……死神じゃん……おお、神殺し。わくわくする単語だな?」
「やめてくださいー!!」
とりあえずこいつどうしよう? 天の羽衣……とりあえず外套と大鎌を奪ってみるか。それでダメなら別の手段を探ってみよう。ダメならダメで最終手段、殺人……いや、殺神だな。




