fragment (肉体に霊質が固着する世界に流れ落ちた幽霊)
「…………………………ここ、どこ?」
どこかわからない、明らかに自分のしる場所ではない景色。建物もそうであるし、環境的にも彼の住んでいた日本とは明らかに違っている。形容するならば中世の西洋……ともまた少し違うだろう。彼にとってはこう形容できる。異世界、ゲームや漫画の中で見るような、と。
「…………………………うわ、ケモミミ……ここ異世界だ。まさかそういうことを確認とか現実的にどうなのか認識する前にそういうの見ちゃうなんて……夢と思うべき? でも夢にしてはなあ……現実的すぎる、というのもあるし……何よりこの体の感覚が普通でないです。え? 体透けてるっぽい? え? あれ? 俺死んでる? 幽霊? どういうことなの……」
理解が及ばない、というよりも現状が唐突すぎるゆえに理解しきれないと言った方がいいだろう。彼は何故現在の状態に陥ったのか理解できていない。そもそも完全に唐突に現在の状態になっているのだから理解できないだろう。しかし、現実は受け入れざるを得ない。今彼がいる場所が夢ではなく実際の世界、現実であること。また、彼自身の身に起きている異変、肉体の変調……いや、肉体が無くなっているということすらも、受け入れざるを得ない。それこそ自分の体だからこそわかってしまう。肉体が存在していないふわふわした霊体のような状態であるということを。
「っていうか、透けてる……人にぶつかってるはずなのにすり抜けていく……うん、ここにいると邪魔になるはずなのになー。誰にも見つかって……? いや、見つけられてる? 人は……見てないけど、ケモミミさん何か変なもの見る目でこっちを見ている……とりあえずいったん場所を変えよう」
状況的にいったん落ち着くこと、状況を理解しどうするかを考えるためにも人のいない落ち着いた場所を探しそちらへと向かう。誰もいないというよりは基本的に誰も寄り付かない場所、だ。人を焼く死の匂いのする場所。どうやらこの世界のこの近辺の文化圏では宗教的な理由があるかないかはわからないが火葬を主としているようだ。
「……人はいない、っていうかいるにはいるけど。むしろ死者を送る場面っていうのも落ち着かないな…………」
自分が幽霊のようなものだからこそそれが落ち着かない。ちなみに死者を送るために火葬を行おうとしている場面であり、その祭儀を執り行う人物もいるがその人物にも彼は見えていないようだ。ケモミミと彼が言った人間とは少し違う特徴を持つ人々には彼が見えていたようだが、一般的な人間には見えていない様子である。たとえそれが死に関する者だったとしても……もしかしたら宗教的な人物、聖人の類にも彼は見えないかもしれない。
「……火送りだな。まあ、一応俺も祈りくらいは捧げておくか。宗教的にどうなのかはわからんが」
この世界における人間の持っている宗教などは不明であり彼が下手にそういった祈りみたいな行いをするのはどうなのかと思うところではあるが、死者への想いはないよりはあったほうがいいだろう。死は生きる者には平等に訪れるもの、全ての生物が迎える終わりなのだから…………果たして彼が他の生き物と同じ師の終わりを迎えるかは謎なわけだが。
「……え? なんか……うわ、これ、俺の体みたいな何か?」
人が死に、空気中に散っていく肉体だったもの……そして同時に、その肉体に存在していた霊的な物質もまた散っていく。そしてそれは同じ霊的な物質で構成されている…………だろう、彼の体に吸収されていく。なぜそうなるのかもわからないし、散っていくものが霊的物質であるかも不明だがともかくそうなるらしい。
「…………う、うーん。これはいいのだろうか……っと、その前に俺のこととかいろいろ検証がいるか? 念のため色々調べておかないと何が良くて何が悪いのかもわからん……」
現状がわからな過ぎて不安が大きい。ゆえに、いろいろとあちこち回って調べることを彼はする様子である。
「ふむ……とりあえず、俺は人には見えないらしい。一般的な人間には幽霊らしき俺の姿は見えない。しかし、ケモミミ……獣人とかでいいのか? あっちの人種には見える、と。まあそもそも獣人はそれほど多くないし……なんか、首輪とかつけてて奴隷っぽい扱いなのですが。おかげで俺の存在を見ても何も言わないでいてくれている感じなのはありがたいな。勝手ができないのか、変なことを言ったら折檻されるのか、理由はわかんないけど」
この世界において獣人はどうやら奴隷のような扱いが強いようである。彼の知る異世界を取り扱う作品でもよくあるような、そういった雰囲気のものだ。まあそのおかげで彼はその正体、存在に関してとやかく言われないのはありがたいと感じている。とはいっても見えるのが獣人にだけなので信用されるかは怪しいのだが。
「俺の体、およびあの霊的物質っぽい何かは……謎の方が多いな。どうやらあれは肉体が焼却されるときに発生する感じだが。なんというか、この世界幽霊とかそういう存在を見ないんだよなあ。いや、そもそも見たことないんだけど? 俺みたいな存在がいないっぽいし。まあなんでもいいっちゃいいんだけど……とりあえずこれと言って問題がないってのはわかったし。っていうか、変なことできるようになったし」
霊的物質の発生は人が死んだ時、ではなく人の体が焼かれたときとなっている。これはこの世界の霊的物質……あるいは霊体が肉体に限りなく近い、付属するものという扱われ方をしているからでは……と一種の推測ができる。霊体の肉体への固着、それゆえに死んでも霊的物質は消えず肉体に残ったまま、肉体が焼かれる際に剥がれ霊的物質は維持されずに消えていくということだ。ただ、彼は少し特殊であるらしい。霊的物質のように中空に消えるということもなく、彼自身はそこに維持される。そして空気中に散っていく霊的物質を近くにいると吸収できる。
それが肉体……今の彼の体、霊体の維持に使われているのか、それとも別の何かに培われるのかは不明である。ただ、事実として彼は特殊な力を得るに至った。ただ存在しているだけでは恐らく得ることの出来なかった、焼かれた死体から散った霊的物質を吸収することで初めて得ることができただろうその力。
「……サイコ! キネシス! ふう……いや、これサイキネじゃなくて多分ポルターガイストだと思うんですけど? なんというか悪霊的なあれだよなー。今の俺は悪霊なのか単純な幽霊的なサムシングなのか……っていうか、これからどうしよ」
いきなり異世界に肉体もなく幽霊の状態でよくわかないまま来てしまった彼はこれからどうしようか迷う。と言うよりも困る、困っている。やることもできることもなく、目標も目的もなく、生きる意味も死ぬ意味もない。幽霊と言う生きる者でもなく、死んでいる者でもない中途半端な状態。これからどうしようか、と彼は迷うのであった。




