fragment (不老不死な種の魔法使い)
「はーい! 工藤三樹弥君ねー!」
「うおっ!? あれ……確か俺は教室にいたと思うんだけど……?」
白い空間……光も見えない、影も見えない、床も空も何も見えない白い空間。そんな中に二つの人影が足場もなく立っていた。一人は実体があいまいな、うっすらとその存在が見えるような見えないような姿のはっきりしない何者か。もう一人は黒髪黒目のごく普通の一般高校生に見える人物であった。姿のはっきりしない何者かは最初からこの場所に存在し、女性の声と喋り方をしている。恐らくは性別は女性なのだろうと言う推測ができるくらいの情報くらいしか存在しない。
「そうよー! あなたはね、私が殺したのよ!」
「なんだってー!!!」
「あ、もちろん事故よ? ほら、間違ってデスノートに名前書いちゃったてきな?」
「故意じゃねーか!?」
「あ、うん、たとえ悪かったわー! えーっと、そう、運命のろうそくとか? 寿命であるろうそくが尽きるまで生きていられるけど、火を消しちゃったら死んじゃうてきなそういうの。それをね、こう、くしゃみで"くちゅんっ"ってやっちゃったてきな?」
「そんな可愛いくしゃみで火を消せるんです?」
「例えなのよー! もー!」
正確な話はされてはいないが、つまりはこの何者か……女性である誰かが工藤三樹弥と呼ばれた高校男児の生死の運命を弄ってしまった結果、彼が死んでしまったということであるらしい。しかしそれは理解できるとしても、何故からはここにいるのだろうか? そこは理解の及ばない範囲だろう。
「それでねー! あなたを殺したのは私のミスだからそれに関して帳消しにする代替条件が必要になるのよー!」
「……生き返らせるとかは?」
「私の世界に対する干渉・支配能力だと時間停止できないのー! だからもうお葬式とかやっちゃったのよー! 時間の巻き戻しもできないのー! だからあなたにできるのは今後のケアってことになるわけ―! おわかりー!?」
「……わかったけど、いちいち叫んでるのはなんで?」
「キャラクターに特徴があったほうがわかりやすいでしょう? 神様もね、八百万って言ってたくさんいるからそれぞれキャラ付けしないと他の神様に紛れて目立たなくなっちゃうのよ……一部の神様と違って私みたいな有象無象の名前もないような神は特にねー。だ! か! ら! こういう話し方なのよー!」
「あ、はい」
神様業界も色々とつらいものがある。とある神話の神様は萌えキャラにされて本来の宇宙的恐怖が薄まっていたり、とある神話の神様はレイプ魔、クソ神とか言われて一部が良心とか言われるようなことになったり。キャラクター的にインパクトのない神はどの神話でも忘れ去られるようになり、インパクトがあってもあまりに酷い神は散々な言われようで後世まで伝わることになる。ちょっと語尾が強い程度ではどの程度印象に残ることになるだろう……と、そんな不安もなくはないが、ともかく彼女の喋り方にはそういう理由がある。
と、本題とは別方向に話が発展しているが、彼女が三樹弥に対して提案しているのは今後の彼のケアである。死後どうするかに関しては現時点においては彼女にどうすることができるかの権限がある状態である。この世界では冥界の類がないため死後に関しては通常は神の干渉がないが、今回は神の干渉によって死んでしまったためそういうことができる。ともかく、今後のことに関して彼女は何らかのお詫びをしてくれるようだ。
「それでねー! ケアなんだけどねー! 基本的にどこの神様もだいたいよくやってる異世界転生か異世界転移ってことになるのよー!」
「ええー? いや、ダメとは言わないけど……なんで?」
「自分の世界での問題を自分の世界に残すとねー! こう、昔の過ちを見てしまうことになるー的な……そんな感じだから異世界に送ってあとはその送った人物に今後を任せるのよー。そのほうがいろいろな意味で楽なの」
「……さいですか」
「管理する神のいない異世界への転移や転生は比較的楽、やりやすいしねー。まあ事前に許可をもらっておかないとダメなんだどー。いずれ機会があればやろうかなーと許可だけはとってたからよかったわー」
神様の世界も色々と大変らしい。この世界には<世役所>と呼ばれる神様がいろいろな手続きを行う世界があったりするのでそういう点はいろいろと厳しいのである。特にそこの管理神、二言の神と呼ばれる存在が大層厳しいというのもあって。
「それでどっち選ぶのー!?」
「……い、あ、待て! その前に! 異世界転生とか転移とかはいいんだけど、何か特殊な凄い力を与えられるてきなサムシングはないのか!?」
「あるわよー!! ふっふっふっー!!」
はっきりと見えない状態だが神を名乗った女性、女神っぽい女性がドヤ顔をしているのはわかる。そんなに調子に乗るようなことでもない気がするが。
「さあ! あなたの望みを言いなさい! なんでも! なんでも! 私にできることならなんでもかなえてあげましょう!」
「……いまなんでもって」
「言ったからなに? あ、ちなみにえっちいこととかそういうことは望んでもいいけど最初の一回だけで後は異世界に放り込むから何ももらえなくなるわよー!」
神様に貞操観念を期待しても仕方がない。そもそも場合によっては肉体を自由に取り換えることができたりもするので意外とそういう部分は平気な神も多い。もちろん精神的な部分ではあれだが、本当にそういうのがだめならば事前にダメなものはダメと言っている。つまりこの女神の場合そういうことは大丈夫……ということなのだが。そういうことをしたとして、その場合その行為が対価になるため異世界転移、あるいは転生自体はできるが特殊な力の恩恵無しになる。
「…………不老不死で!」
「あ、異世界転移ね! わかったわ! でも三樹弥ちゃん! 不老不死なんてありきたりでイケてないと思わない! それはそれでいいから別の能力も要求しなさい! 不老不死なんてみんな求めることが多くてつまんないじゃないの!」
意外とガチの不老不死を求める異世界転移者、転生者の類は少ないと思われる。まあ転生者の場合はまず不老不死が成立しえないので仕方ないだろう。転移者でも不老不死自体は悪いものではないが、不老不死の地獄性を知っているとどうにも、と言ったところだろう。
「あ、不老不死は寿命による死がないと言うだけで殺されれば死ぬから。それは先に言っておくわね!」
「不老不死じゃないじゃん!?」
完全な意味での不老不死は流石に成立できない。そういうのができるのは神の系列のみ、そんな神でも上位の神の権限で消されることもあるのだから不老不死も世知辛いものである。
「……………………よし! どんな性質をもつ植物を育てることのできる種を作る能力で!」
「妙な能力ねー! いろんな意味で渋いわー!」
「何が渋いのか……」
妙な能力、という点では間違いなく妙だろう。しかし悪い能力ではない。応用力は高いし色々な形で利用価値の高い能力である。食物的な問題においてもかなり優秀だ。
「それじゃその能力を付与して異世界に送るわー! ちょちょーい!」
「へっ? うわあああああああああああああっ!?」
ぼんっ、と黒い渦が三樹弥の位置に現れ三樹弥を飲み込んだ。これで異世界転移、能力の付与を同時に行ったようだ。馬鹿そうに見えても神様は神様、己の領域ではとんでもない力を発揮できるようである。
「おー……ここは森か?」
ギャーギャーと何かの鳥の鳴き声がする森の中に三樹弥はいた。
「……安全がやばい。なんとか脱出して安全な所に出ないといけないのでは? でもまず出れないよな……」
地平の先は見えず、深い深い森の中。空は見えるがここはどこかもわからない。そして森には獣に虫、危険がいっぱいである。異世界転移はいいがさてその場所から脱出できるのか?
「……そうだ! 結界的な植物が生える種を作ればいい! 成長時間を早く、枯れるまでの期間を長く……あるいは一時的にでいいから作って、そこから結界代わりになる長寿の植物を作る種を作るのもありか。急いでやらないと俺の安全がマッハで危険だからな……!」
とりあえず三樹弥は当面の安全を確保するために行動し始めた。これが後々かなり未来まで森の中で過ごす羽目になる始まりであり、将来的に人寂しさに精霊を宿す木の種を作るようになるような長い長い森生活につながるのであった。
異世界転移、異世界転生は世界の管理を行う役所の許可が必須。送り先に神がいる場合そちらの神との連絡が必須。神様がいない世界には転生や転移は行いやすいらしい。




