center 『三』
「現在クリスティナを治める機構として存在する『協会』ですがー、これはもともと教会、ある宗教における施設、仕組みを模倣した物でありー、かつては魔を排斥する組織として在りましたー。その実、上層部における存在には魔を含んでいたり、もっと性質的には異常ともいえる存在を含んでいたりするわけですがー、現在ではフォズ・フィリアス・クリアロードを頂点とした支配機構が極めて安定しているため、統治機構としては何ら問題ないものでありー」
この世界における国の総数はおおおよそ十数程度。厳密にいうと国でも幾らか地域で分裂していたり、国として分けられているがもっと大きな範囲であったり、そもそも大陸でも国として機能していない、統治されていない場所も珍しくはない。
クリスティナはそれなりに大きな島国である。一応小さな国が近くにあったり、特殊な都市もあったりと単純にそれ一国という荷は問題が大きいのだが、きちんと国として成立しているものである。かつては大きな統治機構の問題があったのだが、現在ではその統治機構も安定しておりかなり国における問題は殆ど無い。
「かつてのこの国を含めた周辺諸国は結構な混迷状態にありましたがー、今ではその当時活躍した人たちが王となったり統治機構に所属したりとしておりー、おかげで問題なくなっていますー。彼等も極端に実力が高いと言うわけではなくー、多くは運命に翻弄された物ばかりですがー」
クリスティナ方面はこの世界に速い段階で生まれた国であり、歴史も結構ある地域である。特にフォズ・フィリアス・クリアロードはその能力の特殊性や存在としての特殊性、また統治機構である協会の長であることから色々と触れられることも多い。特に能力である<伝承紙片>に関しては、珍しい<紙片>の能力であることや、その内容、伝承と呼ばれる部分に該当する聖なる武器を扱える性質における聖なる武器の判定基準など、色々と調べたい人間は多い。彼女が協会の長でなければいろいろと引っ張りだこだっただろう。
現在でも、彼女は忙しい。現状安定しているとはいえ、彼女がまとめている協会は元々二分されていた。住人の使徒ともいえるような上位者たちが存在するのだが、それらは一から十、十人おり、一、二、六、八が敵対、三、四、五、七が味方、九、十が別口のやばい存在というとんでもなめんどうな事態に陥っていたのである。今では九と十の双子は欠番、滅ぼされているが、その能力は<全適性>という万能性質と、<始原>と<終焉>の二種。下手をすればこの世界を滅びに導くような存在であったのである。彼等もまたそのように行動していたのがまた面倒な話だった。
とはいえ、この事案に関してはすでに歴史となっているように終わった事態である。現在では全員が指揮下に入っている。とはいえ、一と二の使徒に関してはかなり問題を抱えており、今でもまだ反目するところがあるので絶対に安全とは言えないのである。
そんな、歴史の話。
本日の歴史の授業を終え、いつもの通り質問を聞きその内容に答えるという者を行う教師。その内容は少々奇妙な物であった。
「縁起のいい数字ですかー?」
「うん! おとーさんが誕生日で、何かプレゼントしたいから!」
「なるほど」
縁起のいい数字。この世界でも暦と呼べるものは存在するし、数字もアラビア数字を用いられている。もちろん漢数字も。進法も十進法であり、このあたりは基準世界を元にした数字基準であるから当然と言えば当然である。
さて、数字に関して色々と神話から伝説、何が良いか何が悪いかと言った話は多い。
「そうですねー、それでは数字に関しての色々を話しましょうかー」
縁起がいい、といっても単純にこれが縁起がいいとはっきり言うのは難しい。何故ならその内容に宗教から個人的あれこれが関わることもあるからである。だからあくまで彼女が話すのは数字に関しての話である。
「まず、数字と言うのは何が縁起がいいい、何が縁起が悪いと言うのが難しいものです。そうですねー、例を出しますとー、四と九はあまり良くないと言う話があります。これらは『し』と『く』、つまり死ぬことと苦しむことに繋がるから、ということになりますがー、どうしてそうなるかというと音が同じになるから、ですねー。ですがー、『よん』や『きゅう』としか言わない人にその意見は難しいです。それに、『ふぉー』や『ないん』と言う場合は? この世界では世界が自動で翻訳を行うので意味合いとしては問題がありませんがー、単純に音だけをとっても国によって違うと言うことはままあります。また、十三が縁起が悪い、とされることもありますがー、こちらは宗教的なものが絡みます。ある宗教において、十三は偉人の死や、裏切り者が現れた数字とされ、そのせいで縁起が悪いと言うことになるのでしょう」
縁起が悪い、と言う点においては悪いことが起きた事案や悪いことに繋がる事案を説明すればかなり容易いこと。しかし、その逆はまた難しい。
「では縁起がいいものはどうなのかー、というと、これは結構難しいものです。なぜなら、悪いことを探すほうがいいことを探すよりも簡単だからですー。先ほども言いましたが、縁起の悪いものはこじつけやすくもあるので、どうしても作りやすいんですねー。ですがー、逆に縁起が悪いものを転化することで縁起がいい者とする例もあります」
悪いことの反対は良いこと。悪いことを乗り越えればよいことにつながるとされることは珍しくない。
「たとえばー、先ほど話した十三ですがー、この次の十四は良いものとされることがありますー。悪いことの先を乗り越えれば福となるということですがー、これは他にも六の次の七がいいとされる例もありますねー。これは獣の数字として六六六がありー、その先にある七がいい数字とされることにつながるのですがー、まあ七はラッキーセブンともいうことがありますしー、その影響性かもしれませんがー、ああ、これでだから七は縁起がいい、と単純に言える物ではありません。まあ、七福神など七が関わる良いことはないわけではないですがー、またなんとも言えません。それはこの世界での話とは言いづらいもの事ですので―」
世界変われば事変わる、国が変われば事変わる。ある場所でいいとされていることが全ての場所でいいと言うわけではない。だからこそ、こういったことは単純に一つの事例を教えるわけにはいかない。面倒なことに。
「まあ、一つ縁起が悪い……正確にはこういった縁起がいいことに関わらない数字としては零が例としてあげれられますねー。正確に言えば零は数字ではないともいえますからー」
零は十や百などでも使われるものであるが、そもそも零を数として扱わないことはそれなりにある。
「何故かと言うと、零と言うのは無いことを示すものだからですー。数字と言うのは有るもの示すものであり、無いことを示すものではないのが本来の在り方です。まあ、零という数字はないことを示すことを形として示せなければいけないので作らざるを得なかったものではないかとも言われますがー……まあ、こういう話は研究者にでもなって語りつくしてくださいー。そもそもこんな話は話しても仕方がないことですー」
歴史とは極端なことを言えば、その場にいて直接考案した人間に話を聞かなければその意図が分からないことである。遥か未来にいくらああだこうだ、ああでもないこうでもないと語ったところで、恐らくはこういう考えの元こうしたのだ、という自分たちの推測の意見しか出せないものである。そういった思案は面白い者であるのかもしれないが、ただ結局のところ自分たちで納得できる答えを導き出すための物でしかない。極端な話になるのだろうけれど。
「そういう意味では、一というのは有ることを示すものであり、いい数字、縁起がいい数字とされる可能性はありますー。ですが、逆に数として最小であると言うのもまた事実でありー、一は個を示すものであり、百は全を示すもの。これはパーセンテージでもそうですねー」
一割十割、一パーセント百パーセント。数字において整数としては、一、十、百などの進数的に切りがいい数字を使われることは多い。やはり区切りであると言ことは重要なことなのだろう。
「よく一人殺せば殺人鬼、百人殺せば英雄と言う言葉がありますがー、これは単純に数の意味合いではなく、相手を滅ぼすことができる、相手のすべてを倒し尽くせる者を示しているのでは? とも考えられていますー。まあ、戦場において単独で百人殺せれば英雄の資質はあるかもしれませんねー。世の中一騎当千もいますけどー」
極端な話だが、百人殺したところでただ殺すのであれば殺人鬼でしかない。百人とは一つの舞台で百人ということなのかもしれないし、百とは全員を示すものであり、滅ぼし尽くしたからこそ英雄である、ということなのかもしれない。とりあえず、人殺しは良くないことであるのでそういうことは基本的にしないように、と注意される。基本的にと言うのは、この世界では能力が存在するので対人間における危険が大きいからである。悪人は少ない者の、人間同士の殺し合いはないものではない。
「さてー、それでは数字に関しての妙について話しましょうかー。例えばですがー、四の数字に関して。これは季節や方向など、もしくは四天王と呼ばれるようなものもありますねー。四天王に関してはもともとは方向から根付いたものですが―。なぜ四なのか、それは二つの線を重ねた時に分割される数だからですねー。一つの線では二つ、二つの戦では四つ。二は二元論などでも使われますがー、そういう関係では四の数字はそれなりに使われることが多いのではないでしょうかー。まあ、実際のところは知りませんがー」
実際明確にこれと言って使われるケースを彼女が知っているわけではない。あくまで彼女の知っている知識においての色々な話、がこの内容だ。その正確性について彼女はまったく考慮していない。
「五に関して、十の半分と言うのがあるでしょう。十という区切りがいい数字の半分だから使われるケースですねー。さっきも話した六に関しては、獣の数字の六、完全数としての六、色々と六が関わるものはあるのでしょう。同時に六の関わりから七に繋がるものもあります。八や九はまた少し別物になるでしょう。そのあたりはあまり使うケースが私の知る限りは見当たらないものではありますがー」
さて、ここまで彼女の説明の中で意図的に省かれている数字がある。今回において彼女の話として重要視されるもの。
「さて、縁起のいい数字ですがー、実はこれが縁起がいいのでは、とされる数字が一つあるのです。これに関しては宗教とかそういう物……とは少し違うのですがー、この世界、正確に言えばこの全ての世界における創造に関わる話となります」
例を挙げるなら、この世界の層構造。上中下の三層、中層の世界群の数、様々な内容がある。
「この世界で縁起がいいとされる数字はー、創造主が主として意識される数字、三ですー。これに関しては個々の関係性や宗教的なもの、関係なく創造主がいいと思う数字なのでいいとされるというパターンです」
この世界において縁起がいい数字。それは『三』である。
三と言う数字が示すものはそれなりにある。例えば物質の形態は固体液体気体の三体、世界の構造として空、海、陸の三構造、また天地人であったり、善悪中庸なども三つの性質に含まれる。二が明確に二つに分けるなら、その中間を含めることで三態とすることができるわけである。
しかし、この世界において三が最もいい数字とされる理由においては、<三王姫>、創造主がもっとも望ましいとされる能力が影響しているのだろう。
「<三王姫>と呼ばれる能力は創造主の持つ最大の権能です。一つは単純な力、物理的な攻撃能力と防御能力を有する絶大な力、一つは魔術などの異能技術、あらゆる世界の法に関わることのできる絶大な特殊能力、一つはそれらに含まれない特殊性質、補助に関わるもの。まあ、この三つの能力は物理、魔法、補助の三性質を極めたものを意味するものであるらしいですねー。ちょっと最後はかなり大雑把な区分わけなのでまた問題だと私は思いますがー。この三能力ですが、一般的に知られるものとしては<守護魔竜>、<桜>の象徴を持つ<マリュー>、<魔導記憶書>、<月>の象徴を持つ<ユーニティ>、<能力存在起源>、<空>の象徴を持つ<パーティキュラー>のことです。創造主はこれ以外にも、武器である<天ノ風>や防具として機能する<魔衣>、双翼と呼ばれる能力に<蒼空>とよばれる種眼などを持つとされますがー、創造主が明確にどのように己を変質させても、この能力は消えないと言う三能力が<三王姫>なのです。ゆえに三は良い数字、創造主が維持する数として明確に選んでいるものであるがゆえに良い者と言う認識がされるわけですねー」
要は偉い人がこれはいいものである、と言っているからいいものであると認識しているわけである。
「それ以外にも、異性関係における三角、三人の恋人はバランスがいいとされます。ただし、それはあくまでこの世界での話ですし、そもそも女性関係で複数人と関係持つ異性が許されるものではないと思いますが。まあ、ハーレムにおける基準として、三人まではそうではないとされますし、この世界においては男性数よりも女性の数が多いので、女性全員が異性と恋愛するのであれば、複数人との恋人関係は必須になりますが、それがいいとは決して言えないのです。ええ、女性としては当然ですが一対一の関係が望ましいのですよ? 偉い人がいいと言っているから複数人と関係を持ってもいい、などと気軽に適当に言っていいことではないですよ? 自分を好いてくれる女性全員を幸福にしたいから、と言う理由でハーレム状態になる人もいますが、そういうのは本当にレアケースですからね? いいですね、女性に対しては誠実に、真面目にお付き合いすることを望みます。ええ、私は女性ですから当然そういうのは意見の押し付けに近いでしょう。ですが、安易に法律がいいと言っているからじゃあいいや、ってならないようにしてくださいね? わかりましたか?」
じわりと殺気を含んだ威圧が教室内に染み出している。この世界における社会観はどちらかというと男性上位の社会観である。別に女性の扱いが殊更悪いとか、女性の立場が低いとか、そういうわけではない。ただ、性質的に女性の数が多く、男性の方が立場的に強い価値観が根強いということもあり、男性上位の社会観となっているのである。創造主が男性性質が強いと言うのも理由だろう。
しかし、どこの世界でも女性は強い。そして恐ろしい。なんだかんだで、男性側の強い、上位の社会観であろうとも、女性の立場が完全に弱者になると言うことは少ない。男性だろうと女性だろうと、強い者は強いのである。
「それでは、少し早いですがー、この辺りで話を終っておきます。いいですかー、男女のお付き合いは誠実に真面目で、一対一の関係を心がけてくださいねー。安易に二股をかけたり、つまみ食いみたいにちょっと手を出して次に移る、なんてチャラいことはしないように。あまり酷いことやりすぎると神様が殺しに来ますからねー? 裏切り者には死を。そういう神様もいますからー」
そんなふうに、色々と男子に釘を刺して彼女は教室を出て行った。最初に質問された縁起のいい数字の話は何処に行ったのだろう、と思う締めであった。




