8 本当に大切なものは目には見えない
「ジュゲムジュゲムゴコーノスリキレはその提案には同意でない」
「カイジャリスイギョノフウライマツも同意できない」
俺の提案、譲り合って適当な頭数で折り合いをつける、というのは長男と次男に拒否された。
三男は、黙ったままで、同意も不同意の表明がなかった。
「アルゴシープは、正当に分けられなくてはならない。それが掟だ」
と、長男は言った。
「カイジャリスイギョノフウライマツは、そもそもこの分配の方法に不服である。
カイジャリスイギョノフウライマツこそが、正当なる継承者にふさわしい。それなのに、なぜ先に生まれたというだけで、このような不当な仕打ちを受けねばならないのだ。
土地や家、財産は甘んじて受け入れたが、アルゴシープは断じて妥協するわけにはいかない。
なぜならば、アルゴシープこそはモンモン族の魂だからだ」
と、次男は言った。
俺は、三男の方へ目を向けた。長男、次男に比べて、まだまだ幼い顔立ちをしていた。
体格も小柄で、一見すると頼りなく見えた。
三男は少しの間、考えていたがやがて、言った。
「ポンポコナーノポンポコピーは質問する。折り合いがつくように分けるといったが、どうやって分けるのだろうか?」
「たとえば、まず、30頭を遺言通り、15頭、10頭、5頭と分けた後、余った5頭を1頭、2頭、2頭と分けるとか……」
「ありえぬ! 長男である、このジュゲムジュゲムゴコーノスリキレが3頭で他が1頭ずつであろう」
途端に長男が大声で叫んだ。放牧民だからか無駄に声がでかい。耳が痛くなる。
「笑止! 能力があるものが引き取るのが正しき道である。ゆえに、カイジャリスイギョノフウライマツがあまりの5頭をすべてひきうけるのが正しいであろう」
「馬鹿な、そんなことをすれば、ジュゲムジュゲムゴコーノスリキレとお前が同じアルゴシープを持つことになるではないか!」
「それこそが正しき選択だといっておる!」
長男と次男が激論を交わすと、ものすごい形相でにらみ合った。
どうでもいいけど、なんでこの人たち、自分のことを名前で呼ぶんだろう。話が長くて、かなわない。
とても決着がつくようには思えなかった。
「このままではモンモン族は分裂して、内紛になるやもしれません。
どうかお助けください。エロデロンドロロンスットコドッコイダッタ様」
エイジャナイカエイジャナイカドドンガドンが泣きついてきた。
泣きつかれても困るのだが。
「閃きました。アルゴシープじゃなくてこいつら斬っちまいましょう」
パチキカマシタローが小声で怖いこと言ってきた。
「やめろよ。人殺しだよ」
「大丈夫です。私が蘇生できます」と、シモネッタも耳元で囁いた。
「もめ事も蘇生してるよ!」
「ならば、私が魔法で長男と次男を増やすのはいかがでしょうか」
「解決になっとらん!!
ああ、ちょっと、休憩にしましょう。休憩。ちょっと頭を冷やして考えます」
俺は半ばやけくそで、そう宣言した。
「ああ、タバコ吸いたい……」
夜風に身を晒し、頭を冷やしながら、そう思った。
あたりはすっかり夜のとばりが下りていた。
それでも明かるいのは今夜が満月だからだろうか。
「なんで35頭なんだよ。36頭ならこんな面倒ごとなんて起きないのに……
うん? あれは……」
夜道を歩いていく人の姿があった。背格好、服装からそれが三男であることが遠目でもわかった。
「一体、こんな時間にどこへ行くんだろう」
少し興味がわいたので、後をつけてみることにした。
少しの間つけていくと、簡単な柵に囲われたところにたどり着いた。
三男は柵を開け、中に入った。
柵の中には、羊がいた。みな毛並みが月の光を反射してまばゆい金色に輝いていた。
「あれが噂のアルゴシープってやつか」
たしかに美しい生き物だった。たしかに一頭でも多く手に入れたいと思うのも分からなくはなかった。
「何をやっているのだろう? まさか、アルゴシープを盗んで逃げるつもりじゃ……」
じっと見ていると、三男はたくさんいるアルゴシープの体を撫でたり、蹄の調子や、耳や鼻の様子などを確認しているようだった。一頭一頭、丁寧に確認している。
「なるほど、世話をしているってことか」
「精がでますね」
俺は近づいて三男に声をかけた。三男は驚いたように俺の方を見た。そして、少し照れたように言った。
「こいつらはちょっと油断するとすぐに調子を崩すんです。なので一時も気が休まりません」
「夜遅くになっても一頭一頭確認してるのですか? それも毎日、毎夜?」
「父もやっておりました故。
まさに『草原の育て主』の名に恥じないお方でした」
「そう……、御父上のことが好きだったのですね」
「尊敬しております。みなことを考え、分け隔てなく、皆に公平になるよう心を砕いておりました。
あのような方にポンポコナーノポンポコピーもなりたいのです」
「皆に公平になるよう心を砕いていた……ですか。
御父上は計算とか得意だったのですか?」
「勿論です、父より早く、性格に暗算ができる者はおりません」
「そうですか……」
違和感があった。そんなに計算が得意な人物がこんな、割り切れないと分かり切っているような分配をするだろうか?
他の財産のことを念頭に入れて、アルゴシープの事を失念した?
いやいや、この人たちにとってアルゴシープが最も優先されるはずだ、ならばなんで……?
「ああ、そうか」
解決の糸口が見えた気がした。




