4 謁見
ガタゴトと揺れる馬車の中に、俺はいた。
なんでそんなところにいるのかと言うと、俺が、名無しのエロデロンドロロンスットコドッコイダッタだからだ。まあ、そんなものになった覚えは一ミリもないのだが……
とにかく、
名無しのエロデロンドロロンスットコドッコイダッタの俺は、ベロチューベロンベロのモンゴリアンウォーリア市長に土下座され、ウーンマンダムン王国(と言われた!)の王様に会うための旅の途中だ。
……、なんだこの文章。
「そろそろ王都チャブダイカエシが見えてきました」
王都チャブダイカエシ……、初めて見る王都に胸が高鳴らなくてはならないはずなのにまるで高鳴らない。むしろ、嫌な予感しかしない。それでも、とりあえず馬車の窓から外を見てみた。
馬車はちょうど丘を登りきったところだった。
高台から王都を一望できた。
一目見ただけで繁栄した街並みが、扇状に広がる視界いっぱいに並んでいた。
まるでミニチュアの箱庭のようだ。
町を越えた先にはさらに広大な青い海が広がっていて、町の港に出入りする帆船がゆっくりと動いているのが見えた。
「ほう……」
名前はさておき、その絶景にさすが王都と呼ばれるだけだ、と感心した。
街の中央には白と青の美しい城が見えた。
あれが今回の目的地だ。
窓から顔を引っ込め、席に座りなおした。
名前はともかく(しつこい)、さすがに緊張感が高まってきた。
果たして、俺はこれからどうなるのだろう。
馬車はやがて町を囲う城壁へと到着した。そこで手続きをすませて中へ入った。
町並みも住む人もベロチューベロンベロと変わらなかった。ただ、ここの方が活気がある感じがした。
馬車は進み、やがて城へと到着した。
中庭のようなところに馬車を停めた。
赤い絨毯が敷き詰められた長い廊下を進むと、見上げるほど大きな観音開きの扉の前に案内された。
扉が開く。
脳内でチャチャチャラチャーンとBGMがかかりそうな荘厳な広間が目の前に姿を現した。
そこが王の間だった。
正面に玉座があり王冠を被った男が座っていた。
黒髪の短髪。顎髭をたくわえて年配に見えたが肌艶は若々しく年齢不詳だった。
だが王様なのは間違いなさそうだった。
「名もなきエロデロンドロロンスットコドッコイダッタよ。
いや、エロデロンドロロンスットコドッコイダッタの勇者と云うべきか。
とにかくよく参られた。
私は、ウーンマンダムン王国の王、ロンゲチャパツ3世である」
俺は王様を2度見した。
どこが茶髪やねん!
思わず大阪弁でツッコミを入れてみた。
もちろん心の中でだ。
「勇者殿よ、そなたが現れた以上、この国に災厄が訪れるのは必定。そして、その災厄に対処するためにもそなたの力が必要となる。
協力してもらえるな?」
お前のせいだから、協力しないとはいわせんぞ、こら!(意訳)
理不尽な話である。
口調は落ち着いていたが、眼力がすごかった。理不尽な要求も通す力があった。これが王族というものか、と小市民な自分は思う。
「も、もちろんです。
しかし、その災厄と言うのは何なのでしょうか?」
「ふむ。災厄か、それは……」
「それは……」
「わからん!」
ガックシきた。
「わ、わからない?
今、なにか起きている訳ではないのですか?」
「そうじゃ、なんと言っても、お主が現れてから振りかかる、となっておるからな、まだなんじゃろう。
幸いなことに王国は至って平和だ。
しばらくはゆるりとこの城で過ごせば良かろう」
「は、はぁ……」
なんとも拍子抜けだ。
ちょっと気が抜けた。なのでちょっと、聞いてみることにした。
「あの、恐れながら申し上げます。
もしも、分かるなら教えていただきたいのですが、エロデロンドロロンスットコドッコイダッタとはどういう種族なのでしょうか?」
「なにぃ〜! お主は自分がなんなのか分からぬと申すか!!」
ロンゲチャパツ王は、身を乗り出すと大声で叫んだ。
「わぁ、ごめんなさい。ごめんなさい。
記憶が少し飛んでおまして、その辺のことがとんと思い出せません!
申し訳ないです」
「何ということだ。自分のことも分からないとは困ったものじゃ!
良いか、よく聞くがよい。
エロデロンドロロンスットコドッコイダッタとは……」
「エロデロンドロロンスットコドッコイダッタとは……」
「良く分からん」
ずっこけた。
「はい?分からない?」
「うむ、エロデロンドロロンスットコドッコイダッタが現れたのは三百年ぶりくらいじゃからな。
誰も詳しいことは知らん。お主に教えてもらうつもりじゃった」
俺の問いにロンゲチャパツ三世は威厳を保ちつつ、しれっと言ってのける。
すげー、他力本願……
ま、人のことは言えないけれど。
「……いや、でも……、しかし、では、なぜ、名無しのエロデロンドロロンスットコドッコイダッタが現れると災厄が訪れるなどと?」
「うむ、予言書にそう書かれている」
「予言書?」
「その昔、西の賢者が書いたという予言書に書かれている」
「その予言書に、エロデロンドロロンスットコドッコイダッタについて書かれていると?
他にどのようなことが書かれているのでしょうか?
エロデロンドロロンスットコドッコイダッタについて何か書かれていませんか?」
「詳しいことは知らぬ。予言の研究をしている者に聞け。
では、おって指示をするまで、この城から出ていかぬよう、命じる。よいな」
こうして、王との初めての謁見は無事に終わった。
……無事?




