3 王都へ
「……おお、なるほど、あなたがエロデロンドロロンスットコドッコイダッタ様ですか」
その名も知らない男は、気を取り直すと言った。
「突然のことで、門番たちが失礼なことにしたと聞きおよびました。
まずは非礼をお詫びいたします」
男は、深々と頭を下げた。
あれ……、俺、そんなにヤバいわけじゃないの。
「私はこの町、ベロチューベロンベロの市長をしているモンゴリアンウォーリアとも申します」
「なんて?!」
「モンゴリアンウォーリーアです」
目の前の男をまじまじと見る。
細身。少し頬がこけ、長身。髪は長く肩ほどもあるか。
どちらかと言うとイエス·キリストですと言われたほうが納得感があった。
「えっとモンゴリアンが苗字でウォーリーアが名前ですか?」
あまりの違和感に、こちらも変なことを口走ってしまった。
モンゴリアンウォーリーアさんは、首をかしげた。
「苗字とはなんですか?」
なるほど苗字の概念はないのかもしれない。
「ああ、いいです。忘れてください。
モンゴリアンウォーリーアで名前なのですね」
長いよ。と、心の中で呟く。
「失礼ですがこの目であなた様の種族名を確認させていただきたく。身分証の開示をお願いできませんでしょうか」
「身分証?」
さっきも同じ事を言われた気がする。
しかし、そんな物は持っていない。ここは正直に言うべきだろう。もしかしたら作ってくれるかもしれない。
「ああ、すみません。自分、持っていないです。気づいた時にはなくて困っているんです」
「身分証がない?
身分証と念じても出てこないと?」
え? なに、アイデンティファイって念じる?
と、目の前にさっきの謎の掲示板が現れた。さっきと違って、薄い灰色だった。
「あれ、なんか出た」
「それです、それです。私にも見えるように、開示をお願いします」
「開示?」
すると板の地の色が灰色から薄い黄色へ変化した。
「なるほど確かにエロデロンドロロンスットコドッコイダッタ様だ」
なるほど、これが身分証なのか。
で、灰色だと自分にしか見えなくて黄色だと他の人にも見えると言うシステムなんだ。
納得した。
「できればお名前を公開していただきたいのですが」
モンゴリアンウォーリアさんが言った。
「……公開してくれと言われても……」
困った。
自分も名前が知りたいものだが、純粋にやり方がわからない。
そう思った時、宙空に浮かぶ身分証の名前の頭に□のチェックボックスがあるのに気がついた。そこにチェックが入っていない。よくよく見ると、ほかの項目にも頭のところにチェックボックスがついていた。名前の所以外のチェックボックスにはチェックがされていた。
まさかこのチェックボックスににチェックつければ見えるようになるのか。
そう思ったら、名前のチェックボックスにチェックついた。
そして……、俺は落胆のため息をついた。
名前の項目には「なし」と、なっていた。
せっかく自分の名前がわかるかと思ったけれど「なし」とはがっかりだ。
ところが、モンゴリアンウォーリアさんは、大声で唸りだした。
「おおう、『名無しのエロデロンドロロンスットコドッコイダッタ現れる時、世界には大きな災い、起きるなり
名無しのエロデロンドロロンスットコドッコイダッタの勇者、人々を導き災いを祓う』」
「な、なんですか、それ」
「私たちの国に古くから伝わる伝説です」
「な、なるほど……」
俺はそう言うと黙り込んだ。
モンゴリアンウォーリアさんも黙ったまま、こっちをじっと見つめる。
「あははははは……」
「ははははははは……」
同時に笑い、また見つめ合う。
「では、特に用事もないようなので俺はこれで」
「いや、お待ちください!
エロデロンドロロンスットコドッコイダッタの勇者様!!」
とりあえず、その場去ろうとする俺に向かってモンゴリアンウォーリア市長が土下座した。
異世界で土下座。しかも、一分の隙もない見事な土下座をかまされた。
「どうか、私たちの町を、いや、国をお守りくださいませ!!」
「ええええ……!」




