2 エロデロンドロロンスットコドッコイダッタ
「エロデロンドロロンスットコドッコイダッタ……だと?」
その名も知らない門番は一瞬呆然としたように半透明の板をみていたが、気を取り直したように、やおら持っていた槍を俺に向けてきた。
「まさかエロデロンドロロンスットコドッコイダッタだったとは!」
え?
……いや、エロドロン? エロデロン?
いや、いや、なんだ。
ダッタだったのかと言われても、今自分も初めて知ったわけで……
「エロデロンドロロンスットコドッコイダッタ……うわ、初めて見た」
「エロデロンドロロンスットコドッコイダッタ!
エロデロンドロロンスットコドッコイダッタとは、何ということだ」
「おおい! 集まれ、エロデロンドロロンスットコドッコイダッタだ!
エロデロンドロロンスットコドッコイダッタが出たぞ!」
周りにいた他の門番たちが口々に叫んだ。
ええ、まって。
エロデロンドロロンスットコドッコイダッタって、そんなヤバい存在なの?
なんで、この人たちこんな長い名前を舌も噛まずに流暢に言えるの?
などと考えているうちに周りをすっかり囲まれてしまった。
周囲から槍を突きつけられ、逃げることもできず、ただ両手を上げて降参するかなかった。
そして数人の門番に囲まれてそのまま連行されることになった。
物々しい行列は人目を引いた。
穴にあったら入ってしまいたい気持ちになりつつも、チラチラと周囲の様子を観察して歩く。
土壁の平屋建てを建物が並ぶ道。
たまに露天の店があり、果物や肉や魚、土産物売り店などか見えた。
やはり電気家電ぽいものは見当たらず、携帯電話を持ち歩く人もいなかった。
やはり、これは、ひょっとして、と思う。
つまりは『異世界転移』の文字
自分の顔を見れないのでよくわからないけど、異世界転移もしくは転生、なのかも知れない。
詳しくはないけれど、そういう小説ジャンルがあるのは知っている。
こんなことならもう少し、真剣に読んでおけば良かった、と思っているとある建物に入れと言われた。
三階建て。
この町では多分一番大きいと思われる建物だった。
建物に入ると次は部屋に連れて行かれた。
部屋に入ると後ろでドアが音を立てて閉まった。
振り向くと、もう誰もいない。
見知らぬ部屋に一人にされた。
「ふう」
まあ、いきなりひどいことにならなくて少しホッとした。
とりあえず部屋を見回してみる。
そんなに大きくはないが、小さくもない。
会社の応接室みたいだった。
真ん中にテーブルがあり、イスが6つ置かれていた。
テーブルには水差しとコップ、果物が置かれていた。
あれ? これもしかして歓迎されている?
……、いや、いや、槍突きつけられ、有無を言わず連行されたんだ。
歓迎されてるってことはないよなぁ。
しかし、あのエロデロン……えっと、何だっけ……、うんとっ、まあ、なんとかダッタ、ってなんなんだ?
種族って書いてあったから、人とかスライムとかそういう類いの分類なんだろうけど、およそ聞いたことなかった。
その手のことに詳しいわけではないから、自分が知らないだけで、知る人ぞ知る種族なのだろうか。
それとも自分の名前を思い出せないように、忘れてしまっているだけなのか……
まあ、彼らは知っているようなので、聞く機会があれば聞くことにして、待つしかないようだ。と腹をくくった。
腹をくくると、腹が減っていることや、喉が渇いていることを思い出す。
テーブルに置かれた水差しを見やる。
これ、飲んでも大丈夫だよな……
少し匂いを嗅いでみた。
特に腐っていると、飲めなさそうな匂いはしなかった。
コップに入れて、舌先で舐めてみる。
大丈夫そうだった。
ちょっと口に含んでみる。
ほのかな匂いと味がした。
レモンとかライムの感じ?
体に悪そうではない。
ゴクリ
飲んでみる。
少し待つ。
異常は無さそうだった。まあ、後でどうなるかは分からないが。理屈で考えると毒や薬を飲ませるのにこんなまどろっこしいことをする必要はない、とは思う。いや、思いたいものだ。
毒を食らえば皿まで、の精神で果物にも手を出した。
とりあえずリンゴみたいな果物を取り、一口かじってみる。
うん、見た目通り、リンゴの味がした。
次に取ったのはバナナのような果物だった。
食べてみる。
……バナナだった。
なんだろう。普通だ。想像以上に普通だった。
本当に異世界なのだろうか……そんな疑問を抱きつつ、今度は見た目イチゴのようなやつを手に取った。
ヘタの具合や、形状、表面の粒物部。どれをとってもイチゴだ。ちがうのは色が黄色ことぐらいだ。
一口かじった途端、椅子から飛び上がり、身悶えた。
「酸っぱっ!!
レモンじゃねぇか!」
騙された怒りをどこにもぶつけられず叫んだ。
と、同時にドアが音を立てて開いた。
少し年配の身なりのよい男が戸惑ったような表情で固まっていた
「あっ……、えっと……」
恥ずかしいところをばっちり目撃された。
非常に気まずかった。言葉が出てこない。
「どうも。エロデロンドロロンスットコドッコイダッタです」
驚くほど滑らかに自己紹介ができた。




