第7話突然の対決
「No plan survives first contact with the enemy.」
いかなる計画も、敵との初接触を生き残ることはできない。
——フォン・モルトケ
「ところで学校、なんで夕会なんか開くんだよ。日曜だってのに、夜もゆっくり休ませてくれないのか」
夏恋は両手を腰に当て、講堂へ向かう道すがら瞬と話していた。
「校長が大事な話があるんだってよ」
「スティーブン校長も長話が好きそうな人には見えなかったけどな、なんで急にこんなことやるんだ?」
「さあな。俺は学校が何か仕掛けるつもりだと思う」
学校講堂内。
「はははははははは!諸君、こんばんは。日曜の夜にわざわざ集めてもらってすまない。だが、ここに集まってもらったのには、重要な発表があるからだ——」
スティーブン校長が一呼吸置いた。
「来週の月曜日から、6日間にわたって『特別対決』を実施する。クラス単位、個人単位で行う、自選対決だ。対決は『発起側』と『選択側』に分かれる。発起側は対決する相手を選び、選ばれた側が選択側となる。選択側は『理論筆記試験』『魔法実践』『体術対抗』の3つから一つを選んで発起側と対決する。各自の初期ポイントは600点。対決に勝てば+100点、負ければ−100点。クラスとしては、クラス内の誰かが勝つごとにクラス点が1点加算される。対決は毎日午後、17時まで。終了後、個人とクラスのランキングを発表する。最終的に個人ポイントに応じて奨学金が支給される。もし全ポイントを失った場合——つまり6日間全敗した者は退学となる。そしてクラス点は最終的にクラス積分に換算される。月曜日の発起側はA、B、C、Dの4クラス全員だ。その他の詳細は各担任がクラスのグループに送る。それでは——皆、頑張ってくれ!退学者が出ないことを願っているぞ、はははははははは!」
「学校、正気か?入学してまだ一週間だぞ」
「全敗したら退学だって!終わった、俺はどれも得意じゃない…」
「ポイントが貰えれば奨学金だ。たくさんもらえたらゲーム機が買える!」
(やっぱりこれが学校からの最初の打撃か。でもまさかこんなに早いとは思わなかった。まだ入学して一週間だ…全敗したら退学ってことは、一回勝てばいいだけだが、最悪のケースもあり得る…)
「ねえ、これが橘先輩の言ってた『血風吹き荒れる戦い』の始まりなんじゃないか?」
夏恋が手で頭を支えながら考え込んだ。
「ああ、そうだろう。学校が隠し実力の任務を出したのは、目くらましのためだ。最初の発起側は目立たない生徒を選ぶだろうが、その中には実力者の隠れた生徒がたくさんいる。多くの奴が痛い目を見るはずだ」
「じゃあ、早くクラスメイトに情報を共有しないと」
「そうだ。クラス間の闘いでもある以上、同クラス同士で助け合うべきだ。少なくともクラスから退学者を出さないようにしないとな」
月曜日。
「イリスさんの人気が一番高いんだって。やっぱりクラスメイトは彼女を代理委員長に選んだみたいだね」
夏恋は背もたれに寄りかかりながらつぶやいた。
「小伊は能力も高いし、代理委員長の責任は果たせると思う」
「あんた、彼女のこと呼び捨てで呼ぶんだな」
夏恋が瞬の胸を拳で叩いた。
「いてて!痛いよ。お前、いつも殴るなよ…」
その時、イリスが歩いてきた。
「瞬、風祭さん、こんにちは」
「お、小伊、来たか」
「うん。情報も大体まとめたよ。A組の九条四郎、C組の現在の中心人物はアルフォード。彼はもう理論魔法学を先取りして学んでるらしい。D組の代表は朝倉翔子、全国テコンドーチャンピオン。E組で有名なのは猫種の半獣人・猫宮夜。彼女は半獣人ってだけで特に特徴はないけど、人気は高い。F組の星野七海は現役高校生アイドルで、影響力は大きい。G組の冬月理人は飛び級生で、今年まだ13歳。最後にH組の小倉愛未、小倉グループのお嬢様だ」
「ご苦労、小伊。表向きだけでも強い奴がこんなにいる。それに闇に隠れた奴らもいる。相手の実力を知らずに対決するのは、発起側にとって完全に罠だ」
「クラスメイトには注意喚起するよ。代理委員長として責任を果たさなきゃ」
「でも相手の具体的な実力はわからないよね。瞬、何か策はある?」
「正直、俺にも方法はない。実力を隠してる奴がいるのはわかっても、具体的に誰なのか見極めるのは難しい」
「クラス内の生徒なら聞けるけど、他のクラスはわからない…」
「でも、まずは他のクラスの表向きの強者から狙うのがいいと思う。それに、相手も自分と同じ得意分野を選ぶだろう。選択権は相手にあるからな」
夏恋が手を挙げた。
「私は勉強も魔法も普通だけど、体術は結構自信あるよ」
「でもE、F、G、Hの代表には体術得意なのがいないな」
「じゃあ、なんか体格の良さそうな奴に挑むよ」
「俺は勉強だけはそこそこできる…中学の時、コンテストで賞を取ったことがある」
「F、G、Hはアイドル、飛び級、お嬢様か。冬月理は手強いかもしれないけど、小倉愛未の実力はよくわからない。ただ、お嬢様育ちなら悪くはないはずだ。星野七海は一番有名だけど、公演で勉強が疎かになってるだろうから、三部門で一番弱いかもしれない」
「冬月理に勝てる自信はないな。星野七海は他のクラスメイトに任せるとして、俺は小倉愛未と対決しよう」
「じゃあ、俺に残されたのは猫宮夜か。彼女は一番簡単そうに見えるけど、何か隠し球があるかもしれない」
懐重宝者、以て夜行せず。大功を任する者は、以て軽敵せず。
——『戦国策』趙策二
「俺が協力できるのは筆記と魔法実践だけだ。その二つは知識と力を貸せるが、体術はお前自身の力だ」
白夜が瞬の隣を歩いていた。彼女はもうあの魔女の服は着ておらず、グリンフィットの制服に変わっていた。
「お前、制服姿も結構似合ってるな」
白夜が髪をかき上げた。
「どう?あんたの同級生の女の子より、俺の方がずっと可愛いだろ?」
「ところで、猫宮夜は勉強も魔法も特に目立ってない。獣人は一般人より体術が強いと言われてるが、猫種獣人は現代社会では普通の人間と戦闘力は変わらない。しかも彼女は女の子だ」
「一応言っておくけど、『驕る者は必ず敗れる』ぞ」
そう言い終わると、白夜は姿を消した。
(白夜の奴、いつも急に消えるな。まあいいや、もうすぐE組だ)
E組の教室の前に来ると、瞬は猫耳の女生徒が他の二人の生徒と楽しそうに話しているのを見かけた。
「こんにちは、猫宮夜さんですか?」
猫耳の女生徒が振り返った。
「そうだけど、何か用?」
「B組の高橋瞬です。発起側として、あなたと対決したいと思います」
「いいよ。じゃあ、早速会場に行こう」
猫宮夜は隣の生徒に別れを告げ、瞬と一緒に外へ向かった。
「先に言っておくけど、私は体術対決を選ぶからね」
(体術?まさか格闘技の経験者?でも見た感じそうは見えないけど…)
「わかった、体術会場に行こう」
体術会場に着くと、いくつかの八角形のリング(オクタゴン)があり、そのうちのいくつかではすでに生徒が対決していた。
申込書を記入し、二人はオクタゴンの中に入った。
「発起側、高橋瞬」
「選択側、猫宮夜」
「私が本対決の審判だ。対決は3ラウンド制、2勝先取。ラウンドに時間制限はなし。相手が10秒間ダウンしたらラウンド勝利。棄権も可能。魔法・武器の使用禁止。禁止行為:目への攻撃、噛みつき、金的、後頭部・背骨への打撃、ダウンした相手の頭部への蹴り、頭突きなどの悪質な行為。双方とも了解したか?」
「了解」
二人同時に答えた。
「では、第1ラウンド、準備——始め!」
ベルが鳴ると、二人は構えを取った。
瞬と猫宮夜は最初、オクタゴンの両側で静止し、相手の隙を待っていた。
汗が一滴ずつ瞬の額から流れ落ちる。
突然、猫宮夜が両手を高速で振り回しながら突進してきた。
瞬は慌ててガードを固めた。
しかし猫宮夜の速度は速く、何とか防げる程度だった。
(爪が鋭い!)
猫宮夜は両手で素早く瞬の腕を引っかき、瞬が反応する前に腕には何本もの血痕が残された。
「猫爪攻撃!どう?」
猫宮夜が距離を取ると、瞬は腕が焼けるように痛むのを感じた。
(くそっ、あの爪、なんでこんなに鋭いんだ)
瞬は両手を引き、猫宮夜に向かって突進し、間合いに入ったところで右拳を猫宮夜の脇腹に打ち込もうとした。
「遅すぎ!」
猫宮夜が左に避け、瞬のパンチは空を切った。
「猫猫足払い!」
猫宮夜が左手を床につき、右足を右から左へ素早く払い、瞬を転ばせた。
猫宮夜が素早く瞬の上に覆いかぶさった。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、第1ラウンド、猫宮夜の勝ち」
二人が立ち上がった。
「素直に降参したほうがいいよ。また痛い目見る前に」
(反応が速すぎる。爪も刃物みたいに鋭いし、体も柔らかい)
「第2ラウンド、準備——始め!」
ラウンド開始と同時に、猫宮夜はオクタゴンの中を走り回り始めた。
瞬はその場で向きを変えながら、猫宮夜が走ってくるタイミングを見計らって前に出て体をぶつけようとした。
「猫猫鉄拳!」
猫宮夜の拳が瞬の胸に当たった。瞬はその勢いを利用して猫宮夜の服を掴み、後ろに数歩よろめきながら強く引っ張った。猫宮夜はそのまま倒れた。
(今だ!)
しかし瞬が覆いかぶさろうとした瞬間、猫宮夜はバック宙で跳び上がった。
「猫猫体当たり!」
猫宮夜は両手を伸ばし、爪を瞬の腕に突き立て、彼をオクタゴンの端へと押し込んだ。
瞬はオクタゴンの壁に押し付けられ、猫宮夜は拳を連続で瞬の顔に打ち込んだ。
「降参しなよ」
「まだ…諦められない…」
瞬の顔は腫れ上がり、鼻血が頬を伝って首まで流れ、口元も血で濡れていた。
「それなら!これで最後だ!」
瞬は気を失った。
瞬が再び目を覚ますと、自分は保健室のベッドに横たわっていた。
ベッドのそばに座っていたのは風祭夏恋で、白夜は枕元に立っていた。
「瞬、やっと起きたか」
夏恋が近づいた。
「俺…負けた…ごめん」
「気にすんな、無事でよかった」
瞬が体を起こした。
「俺の傷…」
「保健室の先生が治癒魔法で治してくれたよ」
「どうだ、あの猫娘に負けた感想は?」
白夜がニヤニヤしながら言った。
(本当に勝てなかった…奴は速いし、鋭い爪も持ってるし…)
「そもそもお前に勝てるとは思ってなかったよ。いい教訓になっただろ」
その時、イリスが入ってきた。
「起きたんだね、良かった」
イリスは微笑んだが、すぐに顔を曇らせた。
「今日の結果はあまり良くないんだ。今、全ての対決が終わったけど、うちのクラスは6人しか勝てなかった。他の24人は全敗だ。つまり、第一ラウンドで我々が得たクラス点はたったの6点で、順位は下から2番目だ」
瞬は苦笑した。
「どうやら俺たちが集めた情報は、何のアドバンテージにもならなかったってことだな」




