第3話生徒会長
「ああ、この退屈極まりない魔法陣学の授業がようやく終わった。リリス先生はなかなか面白いけど、こんな純粋な理論授業は本当に耐えられない」
「お前をあの島から戻してくれたのが何か忘れたのか」
(まあいいや、お前がいるんだろ。全知全能のお前が)
「そう言われればそうだけど……なんでお前はこんな時に俺に頼るんだよ……」
「ねえ、高橋くん、私との約束忘れてないよね?」
「そんなわけないだろ、まだ数時間しか経ってないし、金魚の脳みそじゃないんだから」
「それならいいけど。行こう」
「この食堂、メニューめっちゃ豊富だな」
「ねえ、あんた何食べる?」
「俺はオムライスかな」
「私はラーメンが食べたい。それと、あそこの期間限定・数量限定の魔法食品を食べてみたい」
「どれどれ……魔晶石パン、紅焼ドラゴンフィッシュ、氷のメロンの和え物……これって何だよ。普通、魔法植物や魔法動物は料理に使うことが少ないんだぞ。処理が難しいし、量も多くないし」
「それもグリンフィットの特徴の一つだよ」
「こんなに行列ができてるって、そんなに美味しいのか?うちの母さんが作った魔法料理はどれもまずかったけど」
「それはあんたの母さんだろ。ここのプロの料理人と比べるなよ、バカ」
「いただきます」
「ねえ、この魔晶石パン食べてみて。意外とすごく美味しいから」
「え?この石なんで柔らかいんだ?」
「軟化魔法を使ってるんだよ。この魔法は料理にもよく使われるんだ」
(白夜、お前がこれを食べられないのは残念だな。魔晶石のパンはまるで特別なジャムみたいで、豊かな味わいがあるんだ。ほんのり塩味と甘い果物の香りがする)
「チッ、俺は何だって味わったことがある。人間の食べ物なんて、もう俺の舌には物足りないよ」
「おやおや、これはこれは大天才の高橋くんじゃないか。彼女とデート中か?さすがだな、入学初日で彼女を見つけるなんて」
「私は彼女なんかじゃない!」
夏恋が顔を赤くして立ち上がった。
「はあ……このジュリアン、やっぱり絡んできたか。さっきの授業でずっと歯を食いしばって睨んでたぞ」
「え?今の聞こえた?高橋くん、彼女に振られたってよ」
「おい、ジュリアン、一体何がしたいんだ!私は高橋くんの彼女じゃないって言っただろ!」
夏恋がジュリアンの肩を掴んだ。
「あああ!高橋くんの元彼女が暴力を振るった!」
ジュリアンが突然地面に倒れ、大声を上げた。
「暴力だ暴力だ!」
彼の取り巻きも叫び始めた。
「もう十分だ。君たち、ここで騒ぐんじゃない。私は生徒会長の橘真白だ。どちらが手を出そうと、大声を上げるのはやめてくれ。ここは食堂で、公共の場だ」
黒いタイツを履いた黒髪の女生徒が歩いてきた。
(彼女が生徒会長か……すごくクールな感じだな。いわゆる「クールな先輩」タイプか)
ジュリアンが立ち上がった。
「運が良かったな。後で覚えとけよ」
そう言い残して、取り巻きを連れて立ち去った。
「関係のない者はここに集まらないでくれ」
見物していた人たちが徐々に散っていった。
「橘先輩、助けていただき感謝します。ありがとうございました」
夏恋が瞬を連れてお辞儀をした。
(こいつ、こんなときは礼儀正しいんだな)
「いいえ、大したことじゃない。一部始終は見ていた。これは生徒会長として当然のことをしたまでだ。お二人は一年生だね」
「はい、私は風祭夏恋です。こちらは高橋瞬くんです」
「高橋くん、よろしく」
会長は二人と握手を交わした。
「会長、午後はお時間がありますか?お礼にコーヒーをご馳走させてください」
「あら、ちょうど今日の午後は授業がないの。それなら後でカフェに行きましょうか」
瞬は夏恋を横に引き寄せて、小声で言った。
「何を企んでるんだ?なんで彼女をコーヒーに誘うんだ?」
「バカね。彼女は生徒会長よ。私たちは入学したばかりで、こういう人と関係を築けるチャンスを逃すわけにはいかないでしょ」
「わかったよ」
「では橘先輩、早速ですが、すぐに出発しましょう」
「ご注文はお決まりですか?」
「アイスアメリカーノを一杯」
(あの乱暴者がこんな苦いものを飲むのか)
「私はカフェラテを」
「私はオレンジジュースでいいです」
「瞬はコーヒーや紅茶は飲まないの?」
(好きじゃないんだ)
「私たち魔女はこういうもののほうが好きなのよね。ところでこの娘、なかなか野心家だな」
「改めて橘先輩、助けていただきありがとうございました。もし先輩がいなければ、噂が学校中に広まっていたかもしれません」
「気にしないで。言ったでしょ、これが私の役目なんだから」
「お飲み物です」
「ありがとう」
会長がコーヒーを一口すする。
「ここのコーヒーは相変わらず美味しいわね」
「会長、カフェには久しぶりに来たんですか?」
瞬が尋ねた。
「そうね、夏休みは飲む機会がなかったから」
「お前はバカかよ、夏休みどこに行ってたんだよ」
(これはわざと隙を見せたんだ)
「なんだか頭脳戦みたいになってるな」
(生徒会長みたいな人物との会話は、それ自体が知恵比べなんだよ。俺は一つ上の段階でやってるんだ)
「なんでお前は急に厨二病になったんだ。俺はいつも力で解決してきたぞ」
「橘先輩は三年生ですか?」
「そうよ、よく当てたわね」
会長は両手を組んで胸の前に置いた。
「それで、高橋くん。半日過ごしてみて、うちの学校をどう思う?」
「先生方は熱心ですし、先輩方も親切で、食堂も美味しいと思います」
「うん、でもね——
この学校は、見かけほど単純じゃないわよ」
「橘先輩、それはどういう意味ですか?」
「風祭さん、一年生が1ヶ月後に中間試験を受けるって知ってる?」
「はい、佐藤先生がおっしゃってました」
会長は一瞬間を置いた。
「それなら話は早いわね。あの試験、ただの試験じゃないのよ」
「試験の難易度ということですか?」
「いいえ、難易度だけじゃない。お前たちが今まで一度も経験したことのない困難な挑戦が待っている。具体的に何かは言えないけど、その時になればわかるわ。心の準備だけはしておいてね」
(どうやら普通の試験とは全く形式が違うようだ)
「それから、入学式に出たわよね?」
「はい」
「スティーブン校長がいつもニコニコしているからといって、騙されちゃダメよ。あの人が怒ったら止められる者はいないから。それにグリンフィットの先生たちもみんなただ者じゃない。この学校の採用基準は、魔法大学の中でも厳しいものより厳しいんだから」
(その点は俺も気づいてた。あの時佐藤先生の反応は異常に冷静で、背筋が凍る感じがした)
「生徒たちも要注意よ。グリンフィットに入れるってことは、何かしら特別ってこと。優秀なのか、それとも隠された素質があるのか。どんな同級生でも軽く見ちゃダメよ。それが私からの忠告」
「橘先輩、ご助言ありがとうございます」
「まもなく、一年生全員が血風吹き荒れる戦いに巻き込まれることになる。お前たちがいつその始まりに気づけるか——」
会長は残りのコーヒーを一気に飲み干した。
「私はこれくらいにしておくわ。最初の壁を乗り越えられるかどうかは……お前たち次第よ」
会長は席を立ち、カフェを去っていった。
「確かに大事なヒントだったな。風祭、どう思う?」
「最初の壁って何だろう……最初の壁があるなら第二の壁もあるってこと?それに先輩はなんでこんなにたくさん教えてくれたんだろう」
「わからない。でも、クラスメイト同士が必ず協力関係にあると思うか?」
「どういう意味?」
「最悪のケースで考えるなら、この“血風吹き荒れる戦い”ってのはクラス間の競争だけじゃないかもしれない。まず佐藤先生が試験がクラスの競争だって示唆してた。もし一年生全体が混乱するほどのものなら、それだけじゃ収まらないだろう」
「はあ……よくわかんない」
「今の高校はそんなに闇深いのか?俺が高校の頃はみんな純粋だったぞ」
(魔女の高校時代って言ったら、何年前だよ!)
「でもそうなったら、瞬、お前はあのいわゆる“平凡な生活”を送りたいのか?」
(無理だな、俺はきっと平凡な生活なんて送れない)
「高橋くん、これから一緒にこの“最初の壁”について調査しよう!」
「ああ、現状では、俺たちだけが互いに信頼できる相手だな」
「それで高橋くんは、皆の魔法レベルについてどう思う?」
「うーん……午前中に、多くの人が火柱術を成功させられなかったな」
「私は誰かがわざと実力を隠してると思う」
(でもそれはなぜだ?まさか俺と同じで平凡な生活を送りたいってことか?それじゃああまりにも変だ)
「確かに、全国から優秀な生徒を集めたグリンフィットで、新入生のレベルがこれだけってのは……何かありそうだ」
「今は他のクラスの状況がまだはっきりわからない。A、B、C、D、E、F、G、Hの8クラスだ。もしかしたら、レベルごとにクラス分けされてる可能性もある」
(レベルごとのクラス分け……俺が魔女の力を手に入れたのはクラス分けの後だ。確かにその可能性はある)
「それにアルファベット順が実力順とは限らない」
「唯一の疑問は、グリンフィットの下位の新入生の実力に参考例がないことだ」
夏恋は眉をひそめた。
「瞬、もし知恵比べをするなら、正直俺は得意じゃない。俺にできるのは知識と力を貸すことだけだ」
「この全てを裏で操ってるのは学校しかない」
「そうだね、でもそれだからこそ、私たちには手の出しようがない」
「初日は特に怪しい点もなかった。まずはクラスメイトの観察から始めよう。誰が実力を隠してるか見極めるんだ」
「うん、今日はこれで終わりにしよう」
「また明日」
寮に戻り、瞬はベッドに横たわり、これからの行動について考え込んだ。
(なぜこんなに多くの人が実力を隠しているんだ?仮説の一つではあるけど、どうしても説明がつかない。必ず理由があるはずだ)
「もしかしたら暗黙のルールがあるのかもしれない」
「白夜、教えてくれ」
「例えば、目立つなとか、注目を浴びるなとか、俺たちの知らない暗黙のルールがあるかもしれない」
「それってルール系の都市伝説みたいな話だな。もし生徒同士で自然にできたルールだとしたら、新入生が入学したばかりでそれを守るってのは、ちょっと先見の明がありすぎる気がする」
「瞬、会長がどんな生徒でも軽く見るなって言ってたのを覚えてるか?」
「もちろん」
「あれは、誰かが実力を隠してるって暗に示してるんだと思う」
「でも理由が全くわからない……くそっ」
「わからないなら、一旦考えるのはやめろ。俺がお前に魔法を教えるって言っただろ」
「ああ」
「俺はお前の意識の中に、魔法を学ぶための空間を作り出せる。そこで覚えれば現実でも使えるようになる。これで寮の中で威力の高い魔法の練習もできるぞ」
「そんなにすごいのか」
「お前はどんな魔法を学びたい?透視魔法?それとも透明化魔法?他人を好きにさせる魔法?それとも相手の服を変える魔法……?」
「えっと……それって何の魔法だ?お前はサキュバスか?」
「じゃあお前は何が学びたいんだ?」
「今の状況に役立つ魔法……未来予知!」
「予知魔法か……残念だが、お前の今の実力じゃ複雑な魔法陣や魔道具が必要だ。俺が力を貸しても無理だ」
「じゃあ今の状況に役立つのは何だと思う?」
「今一番大事なのは情報収集だ。それにお前の今の実力じゃ高度な魔法は扱えない。だから聴覚強化の魔法を教えてやろう。この魔法は魔力を多く注ぐほど、聴力が強くなる」
「わかった」




