第98話 ヴァルキリーの初陣
翌日。
グレンたちは再び塔を訪れていた。
「今日は十六階層からだね。」
「ああ。」
「ミャ!」
『いく!』
グレンの腰にはヴァリアント。
アイリの手には、薙刀へ姿を変えたグリムゾンティア。
「やっぱり目立つな。」
「そう?」
「ああ。」
以前の細身の剣とは違う。
長い柄。
その先に、緩やかに反ったミスリルの刃。
風属性と氷属性の魔石。
そして、空いている三つ目のスロット。
「でも使いやすいよ。」
「ヴァルキリーの適性もあるからな。」
「長柄武器術も。」
「無理はするなよ。」
「分かってるって。」
「昨日から何回言った?」
「覚えてない。」
「言いすぎ。」
「安全第一。」
「はいはい。」
「ミャ。」
『あんぜん』
「ミケまで覚えた。」
「ふふっ。」
三人は塔へ入る。
転移装置。
新たに十五階層が登録されている。
「十五階層。」
グレンが触れる。
淡い光が三人を包み、景色が変わった。
十五階層。
すでに倒した階層主の部屋。
「楽になったね。」
「ああ。」
「次に二十階層を登録できれば、もっと楽になる。」
「その前に十六から十九だね。」
「そういうこと。」
三人は十六階層へ続く階段を上る。
十六階層。
目の前に広がっていたのは、深い森だった。
「また森か。」
「十一階層より暗いね。」
木々はさらに大きく、枝葉が頭上を覆っている。
光は届いているものの、視界は悪い。
「気配察知。」
グレンが周囲を探る。
「いる。」
「何体?」
「六体。」
「近い?」
「ああ。」
続けて魔力感知。
「左右に分かれてる。」
「挟むつもりかな。」
「可能性はある。」
「ミャ。」
『くる』
「ミケも分かったって。」
「なら準備する。」
アイリがグレンへ魔法をかける。
「身体強化。」
「クイック。」
「ありがとう。」
さらに、自分自身にも身体強化とクイックを付与する。
「今日は最初から前に出る?」
「俺より前には出るな。」
「分かってる。」
アイリがグリムゾンティアを構える。
「でも。」
「何?」
「今までよりは前に出るよ。」
「……まあ、それは仕方ない。」
「ヴァルキリーだからね。」
「それでも俺より後ろ。」
「はいはい。」
木々の間から影が飛び出した。
「来る!」
六体。
狼型の魔物。
だが、これまでの狼より大きい。
「鑑定。」
《シャドウウルフ》
暗い森に生息する狼型魔物。
高い敏捷性を持ち、気配を薄くして獲物へ接近する。
「速そうだな。」
「じゃあ。」
アイリが一歩前へ出る。
「私からやってみる。」
「無理するなよ。」
「分かってる。」
二体のシャドウウルフが同時に迫る。
アイリがグリムゾンティアを横へ構えた。
「薙ぎ払い!」
ブォン!
長い刃が広い範囲を薙ぐ。
ザシュッ!
「ギャン!」
「ギャウッ!」
二体が同時に斬られ、吹き飛ぶ。
「……。」
グレンが少し驚く。
「どう?」
「思ったより広い。」
「私も。」
剣だった頃より、明らかに攻撃範囲が広い。
「これなら複数相手でも使いやすいね。」
「ああ。」
だが、残りのシャドウウルフは止まらない。
一体がグレンへ飛びかかる。
「スマッシュウェーブ!」
衝撃波。
直撃。
「ギャン!」
さらに一体。
ミケへ向かう。
「ミャ!」
サンダーチェイン。
バヂィィィン!
二体へ雷撃が連鎖する。
「残り!」
一体のシャドウウルフがアイリへ回り込む。
「アイリ!」
「大丈夫!」
シャドウウルフが飛びかかる。
アイリはグリムゾンティアを構え直す。
「三段突き!」
シュッ!
一撃目。
胸。
シュッ!
二撃目。
肩。
シュッ!
三撃目。
首元。
「ギャウン!」
シャドウウルフが倒れる。
「……。」
「できた。」
「速いな。」
「スキル使うと勝手に身体が動く感じ。」
「長柄武器適性も効いてるんだろうな。」
「たぶん。」
「ミャ!」
『つよい!』
「アイリも強くなったな。」
「でしょ?」
「でも近づかれすぎるな。」
「またそれ。」
「大事だからな。」
素材を回収し、探索を続ける。
しばらく進むと、今度は前方から複数の魔力反応。
「止まれ。」
「何?」
「前に四体。」
グレンが目を凝らす。
木々の間。
人型の影。
「来る。」
現れたのは、弓を構えた魔物。
「フォレストゴブリン?」
「違う。」
グレンが鑑定する。
《エルダーゴブリンアーチャー》
弓術に優れたゴブリン系上位種。
通常の矢だけでなく、魔力を込めた矢を放つ。
「遠距離か。」
四体が一斉に弓を引く。
「アイリ、下がれ!」
「待って。」
「何?」
「試したい。」
アイリがグリムゾンティアを両手で握る。
「まさか。」
「うん。」
四本の矢。
放たれる。
「旋風防陣!」
アイリがグリムゾンティアを高速で旋回させる。
ブォォン!
長い柄と刃が円を描く。
カン!
一本。
カカン!
二本、三本。
最後の一本も弾き飛ばす。
「……。」
「……。」
「ミャ!」
『すごい!』
アイリが回転を止める。
「全部弾けた。」
「本当に弾くのか。」
「スキルだからね。」
「いや、分かってたけど。」
グレンが弾かれた矢を見る。
「これはいい。」
「グレン、嬉しそう。」
「防御手段が増えたからな。」
「やっぱりそこ。」
「ああ。」
「じゃあ今度は攻撃。」
アイリがグリムゾンティアへ風属性の魔力を流す。
魔銀糸の増幅回路。
刀身へ風が集まる。
「エアーカッター!」
放たれた風刃が、弓兵たちへ襲いかかる。
「ギャッ!」
複数が体勢を崩す。
「行く。」
グレンがヴァリアントを抜く。
「旋風斬り!」
近づいた二体をまとめて斬る。
残り。
「ミャア!」
ミケのサンダーチェイン。
バヂィィィン!
戦闘はすぐに終わった。
「……。」
静かになる。
「かなり変わったな。」
「私?」
「ああ。」
以前のアイリは、後方から回復と支援。
必要に応じて攻撃魔法。
敵が近づけばグリムゾンティアで自衛する。
それが今は。
長柄武器で間合いを取る。
複数へ薙ぎ払い。
単体には三段突き。
飛び道具には旋風防陣。
さらに魔法も使える。
「完全に後衛じゃなくなったな。」
「ヴァルキリーだからね。」
「半分前衛か。」
「半分?」
「全部前衛になるなよ。」
「ならないよ。」
「本当か?」
「グレンより前には出ない。」
「それならいい。」
「ふふっ。」
「ミャ。」
『ミケもまえ』
「ミケはアイリのそば。」
「ミャー。」
『まえ』
「ダメ。」
「ミャ……。」
アイリがミケを抱き上げる。
「ミケは無理しなくていいの。」
「ミャ。」
『つよい』
「強いのは知ってるよ。」
「ミャー。」
三人はさらに十六階層を進む。
魔物は十五階層までより確実に強い。
それでも。
ヴァリアント。
新しくなったグリムゾンティア。
ミケの増幅首輪。
三人の戦力も大きく上がっている。
やがて、階層の奥に上へ続く階段を見つけた。
「十七階層。」
「今日はまだ行ける?」
「ああ。」
「ミャ!」
『いく!』
グレンが階段を見る。
「じゃあ次だ。」
三人は十七階層へ続く階段を上り始めた。




