第94話 十五階層主
一時間後。
「……そろそろか。」
グレンが目を開ける。
身体を起こし、軽く肩を回す。
「ん……。」
隣ではアイリも目を覚ましていた。
「よく寝た?」
「ああ。」
「私も。」
「ミャー。」
ミケが身体を伸ばす。
『おきた』
「ミケも寝てただろ。」
「ミャ。」
『ねた』
「よし。」
グレンが立ち上がる。
身体は軽い。
十四階層を探索した疲れも、ほとんど残っていない。
「魔力は?」
「大丈夫。」
アイリが答える。
「かなり回復したよ。」
「ミケは?」
「ミャ!」
『だいじょうぶ!』
「元気そうだな。」
グレンは結界魔道具を停止させ、ストレージへ収納する。
そして巨大な扉を見る。
「じゃあ行くか。」
「うん。」
「ミャ!」
『たたかう!』
三人が扉の前へ立つ。
グレンがヴァリアントを抜く。
アイリもグリムゾンティアへ手を添える。
「開けるぞ。」
「うん。」
グレンが扉を押す。
ゴゴゴゴゴ……。
重い音を立てながら、巨大な扉が開いていく。
その先には、広大な石造りの空間が広がっていた。
「……いる。」
中央。
一体の魔物が立っている。
「大きいね。」
「ああ。」
二メートルを大きく超える巨体。
灰色の皮膚。
盛り上がった筋肉。
頭には二本の角。
手には巨大な戦斧。
「オーガ?」
「似てるな。」
グレンが鑑定を使う。
《オーガジェネラル》
オーガの上位種。
非常に高い筋力と耐久力を持ち、巨大な武器を自在に扱う。
通常のオーガを大きく上回る戦闘能力を持つ。
「やっぱり上位種か。」
「強そう。」
「ああ。」
オーガジェネラルがこちらを見る。
「グオォォォォォッ!」
咆哮。
空気が震える。
「ミャ!」
ミケがアイリの腕の中で身構える。
「大丈夫。」
アイリがミケを撫で、そのまま地面へ下ろす。
「最初から三人でいこう。」
「そうだな。」
アイリが杖代わりのグリムゾンティアをグレンへ向ける。
「身体強化。」
光がグレンを包む。
「クイック。」
身体が軽くなる。
「防御強化。」
「ありがとう。」
「私にもかけておくね。」
アイリ自身にも身体強化とクイック。
「準備できた。」
「ああ。」
オーガジェネラルが動く。
巨体からは想像できないほど速い。
「来る!」
戦斧が振り下ろされる。
グレンが横へ跳ぶ。
ドゴォォン!
石床が砕ける。
「十階のゴーレム並みだな。」
「でも速いよ!」
「ああ。」
オーガジェネラルが戦斧を持ち上げ、そのまま横薙ぎに振るう。
「グレン!」
「分かってる!」
グレンが後方へ跳ぶ。
ブォン!
巨大な刃が目の前を通過する。
「受けるのはやめた方がよさそうだ。」
「お願い。」
「ミャ!」
『ミケ!』
「頼む!」
「ミャア!」
ミケの魔力が首輪へ流れる。
土属性魔石。
魔銀糸の増幅回路。
地面が揺れる。
ゴゴゴゴゴッ!
複数の岩棘がオーガジェネラルの足元から突き出した。
「グオッ!?」
オーガジェネラルが動きを止める。
「今!」
グレンが一気に距離を詰める。
「パワースラッシュ!」
剛力。
身体強化。
ヴァリアント。
すべてを乗せた一撃。
ザンッ!
「グオォッ!」
オーガジェネラルの胴体が大きく斬れる。
「通る!」
十三階層で使っていたミスリルソードなら、ここまで深くは入らなかったかもしれない。
だが、ヴァリアントなら違う。
「グオォォォッ!」
オーガジェネラルが力任せに脚を動かす。
バキッ!
岩棘が砕ける。
「もう抜けるぞ!」
「分かってる!」
アイリがグリムゾンティアを向ける。
「アイスランス!」
氷属性魔石が光る。
魔銀糸の回路を通った魔力が増幅される。
巨大な氷槍。
オーガジェネラルの肩へ直撃する。
ドォン!
「グオォッ!」
肩が凍りつく。
「効いてる!」
「ああ!」
だが、止まらない。
オーガジェネラルが戦斧を振るう。
凍った肩。
動きは少し鈍い。
「そこだ!」
グレンが懐へ入る。
「連続斬り!」
一撃。
二撃。
ヴァリアントが胴体を斬り裂く。
「グオォォォッ!」
オーガジェネラルが腕を振るう。
「っ!」
グレンがバックラーを構える。
ガァン!
「ぐっ!」
受け流しきれない。
身体ごと後方へ押される。
「グレン!」
「大丈夫!」
足で踏ん張る。
「やっぱり力は強いな。」
「無理に受けないで!」
「分かってる。」
オーガジェネラルがグレンへ向かう。
その横。
アイリが動いた。
「こっち!」
「グオッ!」
オーガジェネラルが振り向く。
「アイリ!」
「大丈夫!」
アイリがグリムゾンティアへ氷属性の魔力を流す。
刀身が冷気を纏う。
オーガジェネラルが戦斧を振り上げる。
アイリは距離を詰めすぎない。
振り下ろされる直前に横へかわし、その脚を斬る。
ザシュッ!
パキパキッ!
「グオッ!?」
傷口から氷が広がる。
「今!」
「ああ!」
グレンが駆ける。
凍りついた脚。
「パワースラッシュ!」
ザンッ!
「グオォォッ!」
オーガジェネラルが膝をつく。
「ミャ!」
『ミケも!』
雷。
首輪の増幅回路。
「ミャア!」
サンダーチェイン。
バヂィィィィン!
「グオォォォォッ!」
雷撃が巨体を駆け抜ける。
動きが止まる。
「終わりだ!」
グレンが踏み込む。
ヴァリアント。
首。
「パワースラッシュ!」
一閃。
ザンッ!
オーガジェネラルの巨体が傾く。
ズズン!
そのまま石床へ倒れた。
「……。」
静かになる。
「倒した?」
「ああ。」
グレンが息を吐く。
「倒した。」
「ミャ!」
『かった!』
「勝ったね。」
アイリがミケを抱き上げる。
「ミャー!」
『ミケつよい!』
「今回はちゃんと三人で倒したな。」
「ミャ!」
『みんなつよい!』
「お。」
グレンがミケを見る。
「今日は分かってるじゃないか。」
「ミャー。」
「ふふっ。」
グレンはヴァリアントを見る。
刃に問題はない。
「どう?」
「問題なし。」
「よかった。」
「ああ。」
十五階層主。
十分に強かった。
それでも、ヴァリアントなら攻撃を通せた。
「やっぱり作って正解だった。」
「安全に戦えたもんね。」
「ああ。」
グレンがアイリを見る。
「グリムゾンティアもな。」
「氷、便利だね。」
「動きを鈍らせられるのは大きい。」
「もっと上手く使えるようにしないと。」
「十分だろ。」
「まだまだ。」
「そうか。」
「うん。」
やがてオーガジェネラルの身体が光へ変わり、消えていく。
残ったのは大きな魔石。
「回収。」
グレンがストレージへ収納する。
そして。
「出たね。」
「ああ。」
部屋の中央。
宝箱。
「十五階層だから期待していいかな?」
「十階層より上だからな。」
「ミャ!」
『あける!』
「ミケは待て。」
「ミャー。」
グレンが罠察知を使う。
「反応なし。」
「じゃあ開けよう。」
「ああ。」
宝箱を開く。
「……ん?」
「何が入ってる?」
「まずこれ。」
グレンが取り出したのは、一つの球体。
透明な球の内部に、淡い光が揺れている。
「魔石?」
「違うみたいだ。」
鑑定。
《転職オーブ》
使用者の能力や適性に応じた上位職への転職を可能にする特殊な魔道具。
「……転職?」
「ジョブを変えられるの?」
「みたいだな。」
グレンとアイリが顔を見合わせる。
「こんなのあるんだ。」
「初めて見た。」
「使ってみる?」
「待て。」
グレンが転職オーブを見る。
「一個しかない。」
「あ。」
「それに、何が出るかも分からない。」
「じゃあ持って帰る?」
「ああ。」
「使うなら、もう少し調べてからだ。」
「そうだね。」
転職オーブをストレージへ収納する。
「次。」
青いスキルブック。
「鑑定。」
《長柄武器術》
「長柄武器術?」
「槍とか?」
「たぶんな。」
説明を確認する。
槍や薙刀など、長い柄を持つ武器を扱う技術を補助するスキル。
「今は使わないね。」
「ああ。」
「これも保管?」
「そうする。」
青いスキルブックもストレージへ。
さらに宝箱の中には金貨が入っていた。
「結構あるね。」
「十五階層だからかな。」
「これならまたしばらく困らないね。」
「ああ。」
すべて回収する。
すると部屋の奥に淡い光が現れた。
「転移装置。」
「十五階層も登録だね。」
三人が近づく。
光が身体を包む。
「これで次から十五階層まで直接来られる。」
「かなり楽になるね。」
「ああ。」
「ミャ。」
『かえる?』
「今日は帰る。」
「ミャ!」
『ごはん!』
「さっき食っただろ。」
「ミャ。」
『またたべる』
「育ち盛りだね。」
「限度はあるぞ。」
「ふふっ。」
グレンはもう一度、ストレージの中を確認する。
転職オーブ。
そして長柄武器術。
「転職か……。」
「気になる?」
「そりゃな。」
「私も。」
「帰ったら調べるか。」
「うん。」
十五階層。
攻略完了。
新しい武器の力も確認できた。
そして、新たに手に入れた転職オーブ。
それが二人の戦い方を大きく変えることになるとは、まだグレンもアイリも知らなかった。




