第93話 ヴァリアントの初陣
冒険者ギルドへ報告した翌日。
グレンたちは再び塔へ来ていた。
「今日は十四階層だね。」
「ああ。」
「新しい剣、楽しみ?」
「まあな。」
「昨日から何回も見てたもんね。」
「……見てない。」
「見てたよ?」
「ミャ。」
『みてた』
「ミケまで。」
「ふふっ。」
グレンの腰には、完成したばかりのヴァリアント。
初めてオリハルコンから作った剣だ。
まだ実戦では一度も使っていない。
「早く試したいんでしょ?」
「否定はしない。」
「素直。」
「うるさい。」
三人は塔へ入り、転移装置の前に立つ。
表示されている転移先は、一階層、五階層、十階層。
「十階層でいいね。」
「ああ。」
グレンが転移装置へ触れる。
淡い光が三人を包み、景色が変わる。
十階層。
そこから十一、十二、十三階層を抜ける。
すでに攻略した場所だ。
魔物との戦闘を必要最低限に抑えながら進み、十四階層へ続く階段へ到着した。
「ここからだな。」
「うん。」
「ミャ!」
『いく!』
三人は階段を上った。
十四階層。
「……今度は洞窟か。」
「暗いね。」
岩壁に囲まれた広い洞窟。
天井や壁には淡く光る鉱石が点在しており、完全な暗闇ではない。
だが、これまでの階層より視界は悪い。
「気をつけろ。」
「うん。」
グレンが気配察知と魔力感知を使う。
「前方に三体。」
「近い?」
「近づいてきてる。」
岩陰から足音が聞こえる。
やがて姿を現したのは、人型の魔物だった。
「オーク?」
「いや。」
オークより少し大きい。
灰色の皮膚。
太い腕。
手には棍棒。
「鑑定。」
《ハイオーク》
「オークの上位種だ。」
「強そう。」
「ああ。」
三体のハイオークがこちらを見る。
「グォォォッ!」
「来るぞ。」
グレンがヴァリアントを抜く。
淡い金色を帯びた刀身。
「身体強化。」
アイリの支援魔法がグレンを包む。
「クイック。」
「ありがとう。」
一体のハイオークが棍棒を振り上げる。
グレンが前へ出る。
「グォッ!」
振り下ろされる棍棒を横へかわし、そのままヴァリアントを振るう。
ザンッ!
「グォッ!?」
ハイオークの胴体へ深い傷が入る。
「……。」
「グレン?」
「いや。」
ハイオークが再び棍棒を振るう。
グレンはバックラーで受け流し、そのまま踏み込む。
「連続斬り!」
一撃、二撃。
ザシュッ!
ザンッ!
「グォォ……。」
ハイオークが倒れる。
グレンがヴァリアントを見る。
「どう?」
「斬れる。」
「それは見れば分かるよ。」
「違う。」
グレンが倒れたハイオークを見る。
「十三階層の魔物より、明らかに強いはずだ。」
「うん。」
「なのに、ミスリルソードよりずっと簡単に刃が入った。」
「やっぱりオリハルコン?」
「ああ。」
残り二体のハイオークが迫る。
「試すのは後!」
「分かってる。」
「ミャ!」
『ミケも!』
「一体頼む。」
「ミャア!」
ミケがアーススパイクを発動する。
地面が揺れ、複数の岩棘が一体のハイオークを囲む。
「グォッ!?」
「よし。」
グレンはもう一体へ向かう。
ハイオークが棍棒を横薙ぎに振るう。
グレンが身を低くしてかわす。
「今度は。」
ヴァリアントを構える。
「パワースラッシュ!」
剛力と身体強化。
そこへ剣技が重なる。
ザンッ!
「グォォッ!?」
ヴァリアントがハイオークの身体を深く斬り裂き、そのまま巨体が倒れた。
「……切れすぎだろ。」
「強いね。」
「ああ。」
グレン自身が一番驚いていた。
「これなら、魔物が硬くなってきても大丈夫そう?」
「少なくとも今はな。」
「戻って作って正解だったね。」
「ああ。」
「ミャ!」
『まだ!』
「分かってる。」
岩棘に囲まれた最後のハイオークが暴れている。
グレンが近づこうとすると、アイリがグリムゾンティアを抜いた。
「待って。」
「アイリ?」
「私がやっていい?」
「ああ。」
「じゃあ氷、試してみるね。」
グリムゾンティアへ魔力を流す。
氷属性魔石が淡く光り、魔銀糸の回路を通って刀身へ冷気が集まる。
「行くね。」
アイリが駆ける。
ハイオークが岩棘を一本砕いた。
「グォォッ!」
棍棒が振り下ろされる。
アイリは横へかわし、脚を斬る。
ザシュッ!
パキパキッ!
「グォッ!?」
傷口から氷が広がり、片脚が凍りつく。
「やっぱり残った!」
「ああ。」
グレンも確認する。
「刀身に通した氷属性の魔力が、斬った場所に残ってる。」
「じゃあ、もう一回。」
アイリが踏み込み、今度は胴体を斬る。
ザシュッ!
傷口から再び氷が広がる。
「グォォ……。」
ハイオークが倒れた。
「倒せた。」
「かなり使えるな。」
「うん。」
アイリがグリムゾンティアを見る。
「風だけじゃなくて、氷もいいね。」
「敵によって使い分けられる。」
「あと一つ空いてるんだよね?」
「ああ。」
「火属性の魔石が手に入ったら試したいな。」
「その時だな。」
「ミャ!」
『ミケも!』
「ミケのも十分強くなってるだろ。」
「ミャー。」
三人は素材を回収し、十四階層の探索を続ける。
洞窟は複雑に入り組んでいた。
途中、何度かハイオークと遭遇する。
さらに奥では、大型の蜘蛛型魔物も現れた。
「来る。」
岩壁を這っていた三体の魔物が一斉に動く。
「鑑定。」
《ケイブスパイダー》
洞窟に生息する大型の蜘蛛型魔物。
強靭な糸を吐き、獲物の動きを封じる。
「うわ……。」
「苦手?」
「大きい蜘蛛はちょっと。」
「俺が前に出る。」
「お願い。」
一体のケイブスパイダーが糸を吐く。
グレンが横へかわす。
ベチャッ!
岩壁へ白い糸が張りついた。
「捕まると面倒そうだな。」
もう一体が天井から飛びかかる。
「遅い。」
グレンがヴァリアントを振るう。
ザンッ!
「ギィッ!」
硬い外殻。
だが、オリハルコンの刃は止まらない。
そのまま深く斬り裂く。
「やっぱりすごいな。」
「ヴァリアント?」
「ああ。」
十三階層で感じ始めていた、剣が通りにくくなる感覚がない。
「武器だけでこんなに変わるんだね。」
「素材の差が大きいんだろうな。」
残り二体。
「エアーカッター!」
アイリが風刃を放ち、一体を壁から叩き落とす。
「ミャア!」
そこへミケのサンダーチェイン。
バヂィィィン!
「ギィィッ!」
二体へ雷撃が連鎖する。
「今!」
グレンが駆ける。
「旋風斬り!」
ヴァリアントを振り抜き、二体のケイブスパイダーをまとめて斬り裂いた。
「……問題ないな。」
グレンがヴァリアントの刃を確認する。
「傷もない?」
「ああ。」
刃こぼれどころか、傷一つ見当たらない。
「オリハルコンにしてよかったね。」
「ああ。」
「ミャ。」
『ばりあんとつよい』
「強いな。」
「ミャ!」
『ミケもつよい!』
「ミケも強い。」
「ミャー!」
「今日は素直に褒めたね。」
「毎回怒られるからな。」
「怒ってないよ。」
「似たようなもんだ。」
「ふふっ。」
三人はさらに奥へ進む。
何度か戦闘を繰り返したが、ヴァリアントのおかげでグレンの負担は明らかに減っていた。
アイリも強化されたグリムゾンティアで遠距離と近距離を使い分ける。
ミケの首輪も問題なく機能している。
やがて、十四階層の奥に上へ続く階段を見つけた。
「あった。」
「十五階層だね。」
「ああ。」
三人は階段を上る。
十五階層。
広い石造りの空間。
その奥には巨大な扉があった。
「三体目の階層主。」
「五階、十階、その次だね。」
「ミャ!」
『たたかう!』
「待て。」
「ミャ?」
グレンが時間を確認する。
「まだ時間はある。」
「じゃあ戦う?」
「ああ。ただし、その前に休む。」
「休憩?」
「十四階層をずっと探索してきたからな。」
体力にはまだ余裕がある。
アイリとミケの魔力も残っている。
だが、これから戦うのは階層主だ。
「余裕があるからって、そのまま行く必要はない。」
「万全にしてから?」
「ああ。」
「賛成。」
グレンがストレージから結界魔道具を取り出す。
「ここで使うんだね。」
「ああ。」
床へ設置する。
魔力を流すと、淡い光が三人を囲むように広がった。
「反応なし。」
「近くに強い魔物はいない?」
「ああ。」
弱い魔物なら結界へ近づけない。
それを突破するほどの魔物が近づけば、警報が鳴る。
「これなら休める。」
「じゃあご飯にしよっか。」
「ミャ!」
『ごはん!』
「やっぱり一番元気だな。」
「ミャー!」
アイリが笑いながら食事を用意する。
三人で簡単に食事を済ませると、グレンは壁際へ座った。
「少し寝る。」
「私も。」
「ミャ。」
ミケはアイリの隣で丸くなる。
「どれくらい?」
「一時間くらいでいいだろ。」
「うん。」
グレンが巨大な扉を見る。
その向こうには、十五階層の階層主がいる。
「起きたら。」
「うん。」
「あいつを倒す。」
「ミャ。」
『たおす』
「今は寝ろ。」
「ミャー。」
結界に守られた静かな空間。
三人は十五階層主との戦いに備え、身体を休めることにした。




