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アラフォー冒険者、今日も嫁のために頑張ります  作者: 榊紅丸
第二章 冒険者都市ルグリア編
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第91話 ヴァリアント

 十三階層から帰還した翌日。


 グレンは借りた家の庭に立っていた。


「ここなら大丈夫か。」


「何が?」


 後ろからアイリが覗き込む。


「炉。」


「やっぱり作るんだ。」


「ああ。」


 これまでは必要なかった。


 簡単な装備の改造なら、手持ちの道具でもなんとかなっていた。


 だが、今回は違う。


 オリハルコン。


 初めて扱う金属だ。


「さすがにオリハルコンを加工するなら、ちゃんとした炉が欲しい。」


「庭で大丈夫?」


「家から離して作る。」


「借家だから壊さないでね?」


「壊さない。」


「昨日も聞いた気がする。」


「ミケと一緒にするな。」


「ミャ?」


『ミケ?』


「呼んでない。」


「ミャ。」


 グレンはストレージから必要な素材を取り出す。


 耐火性の高い煉瓦。


 鉄材。


 そして、火属性の魔石。


「それも作るの?」


「ああ。」


「買わないんだ。」


「魔道具作成があるからな。」


「便利だね。」


「便利すぎて、最近冒険者なのか分からなくなってきた。」


「冒険者だよ。」


「一応な。」


「また一応って言った。」


「ミャ!」


『いちおう!』


「ミケ、変な言葉覚えるな。」


「ふふっ。」


 作業を始める。


 炉の土台を作り、耐火煉瓦を積み上げる。


 内部には火属性の魔石を組み込み、魔力を流すための回路を作る。


 さらに、温度を調節できるよう魔道具として加工していく。


 数時間後。


「……できた。」


 庭の一角に、小型の炉が完成していた。


「思ってたよりちゃんとしてる。」


「ちゃんと作ったからな。」


「使える?」


「試す。」


 グレンが炉へ魔力を流す。


 火属性魔石が赤く光る。


 ゴォッ!


 炉の中で炎が燃え上がった。


「熱っ。」


「アイリ、少し離れてろ。」


「うん。」


「ミャ。」


『あつい』


「ミケはもっと離れろ。」


「ミャ。」


 アイリがミケを抱いて距離を取る。


 グレンは炎の状態を確認する。


「これならいけそうだ。」


「じゃあ。」


「ああ。」


 グレンがストレージを開く。


 取り出したのは、これまで使わずに保管していたオリハルコンインゴット。


 手に持つ。


「……。」


「どうしたの?」


「いや。」


 グレンはインゴットを見る。


「やっと使うんだなと思って。」


「ずっと取ってたもんね。」


「ああ。」


 手に入れた時は、使い道を決めていなかった。


 ミスリル装備で十分だったこともある。


 希少な素材だからこそ、必要になるまで残しておきたかった。


 だが、今は違う。


「剣にする。」


「うん。」


 グレンはオリハルコンインゴットを炉へ入れた。


 しばらく待つ。


「……。」


「どう?」


「まだだ。」


「やっぱりミスリルより時間かかる?」


「ああ。」


 温度を上げる。


 炉の炎がさらに強くなる。


「これでもまだか。」


「そんなに?」


「さすがオリハルコンだな。」


 さらに魔力を流す。


 ゴォォォッ!


 熱気が周囲へ広がる。


「グレン、大丈夫?」


「ああ。」


 やがて。


「……来た。」


 オリハルコンが赤く輝き始める。


 グレンは慎重に取り出し、金床へ置いた。


 ハンマーを握る。


「上級鍛冶。」


 スキルを発動する。


 初めて扱うオリハルコン。


 それでも、熱する温度、叩く場所、力加減が感覚として伝わってくる。


「……なるほど。」


「分かるの?」


「ああ。」


 グレンがオリハルコンを見る。


「上級って付くだけはあるな。」


 ハンマーを振り下ろす。


 カァン!


 一撃。


「……硬っ。」


「大丈夫?」


「ああ。」


 もう一度。


 カァン!


 わずかに形が変わる。


「いける。」


 だが、ミスリルとは明らかに違う。


 硬い。


 加工しにくい。


 それでも上級鍛冶のスキルが、次にどうすればいいのかをグレンへ伝えてくれる。


 熱する。


 叩く。


 再び熱する。


 また叩く。


 何度も繰り返す。


 少しずつ、オリハルコンが剣の形へ変わっていく。


 アイリとミケは少し離れた場所から見ていた。


「ミャ。」


『まだ?』


「まだみたい。」


「ミャ。」


『ながい』


「初めてだからね。」


 カァン!


 カァン!


 カァン!


 金属音が庭へ響く。


 時間をかけて、少しずつ剣の形が作られていく。


 やがてグレンが手を止めた。


「……よし。」


「できた?」


「まだ。」


「まだなんだ。」


「形ができただけ。」


 グレンは刃を整え、柄を作る。


 重心を確認しながら細かく調整していく。


 上級鍛冶のおかげで、初めて扱う素材でも何をすればいいのかは分かる。


 だが、それでも簡単ではない。


 オリハルコンという素材そのものが、それだけ扱いの難しい金属だった。


 そして最後に研ぎを終える。


「今度こそ。」


 グレンが完成した剣を持ち上げた。


「できた。」


「見せて。」


 アイリが近づいてくる。


「綺麗……。」


「ああ。」


 ミスリルソードとは違う。


 淡い金色を帯びた刀身が、光を受けるたびにわずかに輝いて見える。


 グレンが軽く振る。


 ヒュン。


「重くない?」


「少し重い。」


「大丈夫?」


「ああ。剛力もあるし、これくらいなら問題ない。」


 もう一度振る。


「むしろ、ちょうどいい。」


「強そう。」


「試してみるか。」


 グレンが庭の端を見る。


「……。」


「やめてね。」


「まだ何も言ってない。」


「顔で分かるよ。」


「……塔で試す。」


「それがいいと思う。」


「ミャ!」


『とう!』


 グレンが苦笑する。


 そして改めて剣を見る。


「鑑定。」


《オリハルコンソード》


 オリハルコンを主素材として作られた剣。


 非常に高い硬度と耐久性を持ち、優れた魔力伝導性を備える。


「ちゃんとできてる。」


「よかったね。」


「ああ。」


 グレンが鞘を用意し、剣を収めようとする。


「待って。」


「何だ?」


「名前。」


「名前?」


「私のはグリムゾンティアって付けたでしょ?」


「……そうだったな。」


 グレンはもう一度剣を抜いた。


 初めて作ったオリハルコンの剣。


 これから自分が前に立つための武器。


 少し考える。


「ヴァリアント。」


「ヴァリアント?」


「ああ。」


「どういう意味?」


「英語で『勇敢な』とか『勇気ある』って意味だったはず。」


「だったはずなんだ。」


「英語得意だったわけじゃないからな。」


「ふふっ。」


「でも。」


 グレンが剣を見る。


「俺が前に立つための剣だから。」


 魔物を倒すためだけではない。


 自分の後ろには、アイリとミケがいる。


「これくらいでいいだろ。」


「うん。」


 アイリが笑う。


「グレンらしいと思う。」


「ミャ?」


『ばりあんと?』


「ヴァリアント。」


「ミャ!」


『ばりあんと!』


「……まあ、ミケはそれでいいか。」


「ミャー!」


 グレンが剣を鞘へ収める。


「ヴァリアントか。」


「気に入った?」


「ああ。」


「私も。」


「ミャ!」


『ミケも!』


「そりゃよかった。」


 グレンは腰にヴァリアントを装備する。


 今まで使っていたミスリルソードより少し重い。


 だが、不思議としっくりくる。


「これで。」


「十四階層?」


「ああ。」


 十三階層で感じた、魔物たちの耐久力の上昇。


 まだ苦戦するほどではなかった。


 だからこそ、余裕があるうちに準備した。


「次はこいつを試す。」


「楽しみだね。」


「俺もな。」


「ミャ!」


『ばりあんと!』


「覚えたな。」


「ミャー。」


 初めて作ったオリハルコンの剣。


 ヴァリアント。


 次の塔攻略から、グレンの新しい相棒になる。

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