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第9話 今日はお肉

 その日の探索も、大きな怪我なく終わった。


 ノックバックとスマッシュウェーブを組み合わせた戦い方は、グレンの予想以上に相性が良かった。


 接近された魔物を吹き飛ばし、距離が空いたところへスマッシュウェーブを放つ。


 危険な間合いにいる時間が大幅に減り、二人は今まで以上に余裕を持って戦えるようになっていた。


「五十体か。」


 グレンは討伐証明の牙が入った袋を持ち上げる。


「本当に五十体倒しちゃったね。」


 アイリも苦笑した。


「さすがに疲れたけど。」


「でも、前みたいにボロボロじゃない。」


「ああ。」


 これまでは依頼の五体を倒せば、その日はもう十分だった。


 体力にも精神的にも余裕がなく、それ以上潜るのは危険だった。


 今日は違う。


 まだ余力を残したまま帰ることができた。


「やっぱり安全に戦えるって大きいな。」


「うん。」


 二人はフォルンへ戻り、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


「お帰りなさい!」


 ミーナが笑顔で迎える。


「依頼達成だ。」


「確認しますね。」


 机の上へ牙を並べていく。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 ミーナは途中で数えるのをやめ、もう一度最初から数え始めた。


「えっと……。」


 二十。


 三十。


 四十。


 五十。


「……五十体?」


 ミーナが目を丸くした。


「ああ。」


「ご、五体討伐の依頼ですよね?」


「途中で余裕があったから、そのまま狩ってきた。」


「余裕で五十体になるんですか!?」


 思わず大きな声が出る。


 周囲の冒険者たちも何事かとこちらを見た。


「しーっ。」


 グレンが苦笑する。


「静かにな。」


「す、すみません!」


 ミーナは慌てて頭を下げた。


 それでも驚きは隠せない。


「最近のお二人……。」


「はい?」


「何だか急に強くなってませんか?」


 グレンとアイリは一瞬だけ顔を見合わせる。


 すぐにグレンが笑った。


「戦い方を少し工夫してみたんだ。」


「戦い方……ですか?」


「ああ。」


「長く冒険者をやってると、色々覚えることもある。」


「なるほど……。」


 ミーナは納得したような、していないような表情で頷いた。


「報酬はこちらになります。」


 受け取った革袋は、今までよりずっしりと重い。


 五十体分の討伐報酬だ。


「ありがとうございます。」


 二人はギルドをあとにした。


「よし。」


 ギルドを出た瞬間、グレンは歩き出す。


「帰ろう。」


「待って。」


 アイリが袖を引っ張った。


「ん?」


「市場。」


「あとでいいだろ?」


「ダメ。」


「いや、早く帰って合成を――」


「グレン。」


 アイリがじっと見つめる。


「……はい。」


「昨日もお肉買わなかったよね?」


「そうだっけ?」


「そう。」


「今日は五十体も頑張ったんだから。」


 アイリは少しだけ頬を膨らませる。


「今日はお肉!」


 グレンは苦笑した。


「でも、合成の続きが気になってさ。」


「合成は逃げない。」


「うっ。」


「でも、お肉は売れちゃうかもしれないよ?」


「……それは困る。」


「でしょ?」


 アイリはにっこり笑った。


「今日は美味しいご飯にしよう?」


 その笑顔を見たグレンは肩をすくめる。


「分かった。」


「今日はアイリの勝ちだ。」


「やった。」


 二人は市場へ向かった。


 肉屋には、焼きたての串肉や新鮮な肉が並んでいる。


「今日はどれにしようかな。」


 嬉しそうに眺めるアイリ。


 一方のグレンは。


「二段斬りと足払いなら……。」


「いや、探索と集中の別の組み合わせも……。」


 一人でぶつぶつ考え込んでいた。


「グレン。」


「ん?」


「聞いてる?」


「……え?」


「もう。」


 アイリは思わず吹き出した。


「今、完全に合成のこと考えてたでしょ。」


「……少しだけ。」


「少しじゃないよ。」


 アイリは笑いながら串肉を一本手に取る。


「今日は研究はお休み。」


「ご飯を食べて、お風呂に入って、それから。」


「そのあとなら、好きなだけ付き合ってあげる。」


「本当か?」


 グレンの表情がぱっと明るくなる。


「その代わり。」


 アイリは人差し指を立てた。


「今日は美味しいって十回言ってね。」


「十回で足りるか?」


「え?」


「百回でも言う。」


 アイリは照れくさそうに笑った。


「……もう。」


 市場を歩く二人の足取りは軽い。


 報酬が増えたからではない。


 少しずつ未来が明るくなっている。


 そんな実感が、二人の心を温かくしていた。

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