第8話 同じ素材でも
罠察知を習得したグレンは、木箱の中へもう一度視線を落とした。
まだ何冊ものスキルブックが残っている。
今日ダンジョンで拾ったものと、以前から保管していたものだ。
「まだ試してみる?」
アイリが尋ねる。
「ああ。」
グレンは頷いた。
「一つ気になることがある。」
「気になること?」
「同じ素材で、同じスキルができるのかどうかだ。」
そう言うと、木箱の中から『二段斬り』と『衝撃』のスキルブックを取り出した。
「この組み合わせは、一度スマッシュウェーブになった。」
「そうだったね。」
「もし毎回同じ結果になるなら……。」
グレンは少し笑う。
「緑のスキルブックを量産できる。」
アイリもすぐに意味を理解した。
「あっ!」
「白いスキルブックより、ずっと高く売れるよね!」
「ああ。」
グレンは頷く。
「毎回スマッシュウェーブになるなら、生活はかなり楽になる。」
「冬までに新しい家へ引っ越せるかも。」
「そこまでは分からないけどな。」
二人は笑い合う。
それでも夢が膨らむ。
ユニークスキルは、自分たちが思っている以上にすごい力なのかもしれない。
「やってみよう。」
「うん。」
グレンは二冊のスキルブックを重ねる。
淡い光が部屋を包み込む。
二冊は宙へ浮かび、ゆっくりと溶け合っていく。
やがて、一冊の緑色のスキルブックが姿を現した。
「また緑だ。」
グレンは慎重に手に取る。
「今度もスマッシュウェーブかな?」
アイリが期待した表情で見つめる。
グレンはゆっくりと表紙を確認した。
「……ノックバック。」
「えっ?」
アイリが目を丸くする。
「違うの?」
「ああ。」
説明へ目を通す。
『攻撃した対象を後方へ吹き飛ばす。』
二人は顔を見合わせた。
「同じ素材なのに……。」
「違うスキルになったな。」
グレンは静かに頷く。
「でも。」
アイリが説明を見つめる。
「衝撃を使うスキルではあるね。」
「ああ。」
「どうやら素材で方向性は決まる。」
「でも、完成するスキルは毎回違うらしい。」
グレンは机の上へ紙を置いた。
炭筆を取り、記録を書き始める。
『二段斬り+衝撃』
一回目 スマッシュウェーブ
二回目 ノックバック
「ちゃんと記録するんだ。」
「忘れたら研究にならないからな。」
「グレンらしい。」
アイリが微笑む。
その時だった。
「でも……。」
アイリがノックバックのスキルブックを見つめる。
「これ、売る?」
グレンは少し考え込んだ。
スマッシュウェーブではなかった。
少しだけ残念な気持ちもある。
だが、説明をもう一度読み返す。
『攻撃した対象を後方へ吹き飛ばす。』
しばらく黙っていたグレンは、小さく笑った。
「いや。」
「え?」
「これ、結構いいかもしれない。」
アイリが首を傾げる。
「どういうこと?」
「例えば。」
グレンは机の上へ指を置きながら説明する。
「オークに接近されたとする。」
「うん。」
「そこでノックバック。」
「吹き飛ばす。」
「ああ。」
「距離が空く。」
アイリはそこで気付いた。
「あっ!」
グレンも頷く。
「そのままスマッシュウェーブ。」
「追撃できる!」
「ああ。」
グレンの頭の中では、すでに戦闘の流れが組み立てられていた。
接近されたら押し返す。
距離を確保する。
そして安全な位置からスマッシュウェーブを放つ。
危険な接近戦を続ける必要がない。
「これなら。」
グレンは静かに笑う。
「今までよりもっと安全に戦える。」
アイリも嬉しそうに頷いた。
「私たちらしい戦い方だね。」
「ああ。」
「派手じゃない。」
「でも、安全だ。」
その一言だけで十分だった。
グレンにとって一番大切なのは、強さではない。
アイリと一緒に、生きて帰ること。
そのための力なら、迷う理由はなかった。
「覚えよう。」
「うん。」
グレンはノックバックのスキルブックを開く。
緑色の光が身体を包み込み、新たな力が身体へ刻み込まれていく。
やがて光は静かに消え、スキルブックも跡形なく消滅した。
頭の中には、新しい技の使い方が自然と刻まれている。
「どう?」
アイリが期待した表情で尋ねる。
グレンは小さく頷いた。
「ああ。」
「また一つ、安全に戦える。」
その言葉に、アイリも安心したように笑った。
派手な必殺技ではない。
しかし、グレンとアイリにとっては、何より頼もしい一冊だった。




