第7話 次に欲しいもの
家へ帰ったグレンは、木箱を机の上へ置いた。
中から今日拾ったスキルブックを取り出し、一冊ずつ並べていく。
「今日は五冊か。」
「昨日より多いね。」
アイリも隣へ座った。
並んだのはすべて白いスキルブックだった。
『二段斬り』
『足払い』
『探索』
『集中』
『衝撃』
「前なら全部売ってたんだよね。」
「ああ。」
グレンは苦笑した。
「今見ると宝の山だ。」
「人って変わるね。」
「ユニークスキル一つで、ここまで価値が変わるとは思わなかった。」
二人はしばらくスキルブックを眺める。
やがてアイリが口を開いた。
「今日は何を作るの?」
「その前に考えよう。」
「考える?」
「ああ。」
グレンは一本ずつ指でなぞっていく。
「昨日は攻撃スキルができた。」
「スマッシュウェーブだね。」
「あれは大当たりだった。」
グレンは頷く。
あのスキルのおかげで、今までなら依頼分の五体で帰っていた二人が、二十五体も討伐できた。
危険も少なく。
疲労も少なく。
結果として収入まで増えた。
「でも。」
グレンは真剣な表情になる。
「次に欲しいのは攻撃じゃない。」
「え?」
「俺たちの目的は強くなることじゃない。」
アイリは黙って耳を傾ける。
「安全に帰ってくることだ。」
その言葉に、アイリは優しく微笑んだ。
「うん。」
「だから、戦闘より探索だ。」
「探索系?」
「ああ。」
グレンはダンジョンで命を落とした冒険者たちを思い出す。
「魔物にやられる奴もいる。」
「でも。」
「罠で死ぬ奴も、本当に多い。」
アイリも表情を引き締めた。
冒険者ギルドでは珍しい話ではない。
落とし穴。
毒針。
爆発。
宝箱に仕掛けられた罠。
魔物よりも理不尽に命を奪うこともある。
「もし罠が分かれば。」
グレンは静かに言う。
「かなり安全になる。」
「確かに。」
「今はまだ五階層だから少ないけど、深い階層ほど罠は増える。」
「その前に覚えられたら安心だね。」
「ああ。」
グレンはスキルブックを見比べる。
「探索……。」
「集中……。」
「この二つなら。」
アイリも頷いた。
「何か探索系になりそう。」
「俺もそんな気がする。」
もちろん確証はない。
合成結果はランダムだ。
だが、素材によって方向性は決まる。
それだけは、最初の合成で分かっていた。
「やってみる。」
グレンは『探索』と『集中』のスキルブックを重ねる。
次の瞬間。
淡い光が部屋を包んだ。
二冊が宙へ浮かび、ゆっくりと溶けていく。
やがて光が一つへ集まり、新しい一冊のスキルブックが姿を現した。
緑色。
「できた……。」
グレンはそっと手に取る。
ゆっくりと表紙を見る。
「……罠察知。」
二人とも目を見開いた。
「本当に?」
アイリが思わず立ち上がる。
グレンは説明を読む。
『一定範囲内に存在する罠を感知する。』
短い説明だった。
だが、それだけで十分だった。
「当たりだ。」
グレンは自然と笑みを浮かべる。
「うん!」
アイリも嬉しそうに笑う。
「これなら安心して探索できるね!」
「ああ。」
グレンは力強く頷いた。
「スマッシュウェーブで戦闘は楽になった。」
「今度は罠だ。」
「これでまた一歩、安全に近付ける。」
「覚えよう。」
アイリが迷いなく言う。
グレンも異論はなかった。
「ああ。」
緑色のスキルブックを開く。
淡い光がグレンの身体を包み込んだ。
しばらくすると光は消え、スキルブックも跡形なく消滅する。
頭の中へ、新しい感覚が流れ込んできた。
視界が変わったわけではない。
耳が良くなったわけでもない。
それでも――。
「分かる。」
「何が?」
「近くに罠があると……たぶん分かる。」
「試してみたいね。」
「明日だな。」
グレンは笑う。
「ダンジョンで試そう。」
「楽しみ。」
アイリも笑顔を返した。
スマッシュウェーブ。
そして罠察知。
派手な力ではない。
だが二人にとっては、どちらも命を守るための大切な力だった。
「次は。」
アイリが木箱を覗き込む。
「何を目指す?」
グレンも残ったスキルブックへ目を向ける。
「焦らないさ。」
「一つずつ、安全に。」
「俺たちらしくな。」
二人は顔を見合わせ、笑い合った。
強さではなく、安全を積み重ねる。
それこそが、グレンとアイリが目指す冒険者の姿だった。




