第89話 氷属性
十二階層へ上がった三人は、周囲を見回した。
「今度は岩場か。」
「十一階層とは全然違うね。」
地面には大小さまざまな岩が転がり、ところどころに背の高い岩壁が立っている。
見通しは悪くない。
だが、身を隠せる場所は多い。
「気配察知。」
グレンが周囲を探る。
「いるな。」
「何体?」
「三体。少し離れてる。」
「強そう?」
「魔力反応はそこまで大きくない。」
「じゃあ、ちょうどいいかも。」
アイリがグリムゾンティアを見る。
「氷、試してみる?」
「ああ。」
「昨日は風だったからな。」
「ミャ。」
『こおり』
「ミケも気になる?」
「ミャ!」
『みる!』
三人は慎重に進む。
やがて、岩陰から大きな魔物が姿を現した。
「サソリ?」
「でかいね。」
人間の腰ほどの高さ。
硬そうな甲殻。
巨大な鋏。
そして、長い尾の先には毒針。
「鑑定。」
グレンが確認する。
「ロックスコーピオン。」
「毒ある?」
「ああ。尾に毒。」
「硬そう。」
「甲殻もかなり硬いみたいだ。」
三体。
ロックスコーピオンがこちらへ向きを変える。
「ちょうどいい相手だな。」
「氷を試すには?」
「ああ。」
グレンが剣を抜く。
「まず俺が一体引きつける。」
「じゃあ、私は一体。」
「残りは?」
「ミケ。」
「ミャ!」
『やる!』
「アーススパイクで止めるだけな。」
「ミャ。」
『わかった』
アイリがグレンへ身体強化とクイックをかける。
「行くぞ。」
三体のロックスコーピオンが動き出す。
一体が鋏を振り上げ、グレンへ迫る。
「遅い。」
グレンが横へかわし、甲殻へ剣を振るう。
ガキン!
「やっぱり硬いな。」
「斬れない?」
「斬れないことはない。」
浅い傷。
それでもミスリルソードなら通る。
「まだ大丈夫そうだな。」
一方。
アイリの前にも一体が迫る。
「グレン。」
「ああ。」
「氷、やってみる。」
アイリがグリムゾンティアへ魔力を流す。
風属性ではなく、氷属性。
淡い青色の魔石が光る。
魔銀糸の回路を通り、冷たい魔力が刀身へ流れていく。
白い霜が、薄く刀身を覆った。
「お。」
「ちゃんと流れてる。」
「冷たい。」
「持てる?」
「柄は平気。」
「なら問題ないな。」
ロックスコーピオンが鋏を振るう。
アイリが一歩下がってかわす。
続けて尾。
毒針。
「アイリ!」
「大丈夫!」
身体をずらし、毒針を避ける。
そのまま踏み込む。
「えいっ!」
グリムゾンティアが甲殻を斬る。
ザシュッ!
「ギィッ!」
浅い傷。
だが。
次の瞬間。
パキッ。
「……。」
「グレン。」
「ああ。」
斬った場所から氷が広がっている。
甲殻の隙間。
さらに、その周囲。
パキパキッ。
ロックスコーピオンの片側の脚が凍りついた。
「動き止まった。」
「完全じゃないけど、かなり鈍ってる。」
「もう一回やってみる。」
アイリが再び踏み込む。
今度は反対側。
斬る。
ザシュッ!
再び氷が広がる。
「ギィィッ!」
両側。
脚の一部が凍りつき、ロックスコーピオンの動きがさらに鈍る。
「すごい。」
「風とは全然違うな。」
「風は切る。」
「氷は止める。」
「そんな感じだな。」
「ミャ!」
『ミケも!』
「分かった分かった。」
残りの一体へ、ミケが魔力を流す。
「ミャア!」
アーススパイク。
地面から岩棘が突き出し、ロックスコーピオンの周囲を囲む。
「ギィッ!?」
「今度はちゃんと一体だけだな。」
「前より加減できてるね。」
「ミャ!」
『できる!』
「成長早いな。」
グレンの前。
ロックスコーピオンが再び尾を振るう。
グレンがバックラーで受け流す。
「こっちも終わらせる。」
鋏が開く。
その隙。
「パワースラッシュ!」
剛力。
身体強化。
全力の一撃。
甲殻が割れる。
「ギィッ!」
さらに。
「連続斬り!」
傷ついた部分へ二撃。
ロックスコーピオンが倒れた。
「俺は終わり。」
「こっちも。」
アイリの相手は、凍結によってほとんど動けない。
グリムゾンティアを構える。
「えいっ!」
甲殻の隙間へ突き。
倒れる。
「ミケのは?」
「ミャ!」
『とめた!』
「じゃあ俺がやる。」
岩棘に拘束された一体へ近づく。
「スマッシュウェーブ!」
至近距離。
衝撃波が直撃する。
ロックスコーピオンが動かなくなった。
「終わったな。」
「うん。」
「ミャ!」
『かった!』
「三人ともお疲れ。」
素材を回収する。
グレンはその途中で、凍っていた甲殻を見る。
「結構残ってる。」
「すぐ消えないんだ。」
「ああ。」
「斬った瞬間だけじゃなく、少しの間は属性魔力が残るみたいだな。」
「それなら。」
アイリがグリムゾンティアを見る。
「強い敵ほど便利かも。」
「そうだな。」
「倒せなくても、動きを鈍らせられる。」
「特に脚とか関節を狙えば効果大きそう。」
「アイアンゴーレムにも使えたかな?」
「鉄がどこまで凍るか分からないけど。」
「関節なら効いたかもな。」
「今度、似たようなのが出たら試してみよう。」
「うん。」
グレンがグリムゾンティアを見る。
「風と氷。」
「今のところ両方使える。」
「最後の一つ、何入れたい?」
「火かな。」
「やっぱり?」
「ああ。」
「ファイアボールもあるし。」
「斬った場所が燃える可能性もある。」
「それ面白そう。」
「でも火属性魔石が手に入ってからな。」
「うん。」
「ミャ。」
『ひ』
「ミケも火欲しい?」
「ミャ!」
『ほしい!』
「何でも欲しがるな。」
「ふふっ。」
三人はさらに十二階層を進む。
その後も数度、ロックスコーピオンと遭遇した。
今度は、氷属性を使わずに戦う。
グレンのミスリルソード。
アイリのエアーカッター。
ミケのサンダーチェイン。
まだ大きな問題はない。
しばらくして。
「止まれ。」
グレンが足を止める。
「何かいる?」
「ああ。」
魔力感知。
今までより少し強い反応。
「一体。」
「ボス?」
「いや。」
「階層主じゃない。」
「でも、この階層では一番強そう。」
岩壁の向こう。
ズシン。
足音。
「来る。」
姿を現したのは、大型のトカゲ型魔物。
全身を石のような鱗が覆っている。
「鑑定。」
《ストーンリザード》
「また硬そう。」
「この階層、硬い奴ばっかりだな。」
「オリハルコン?」
「まだ。」
「ふふっ。」
「笑うな。」
ストーンリザードが突進してくる。
「グレン!」
「ああ!」
グレンが前へ出る。
横へかわす。
すれ違いざまに斬る。
ガキン!
「硬い!」
「さっきより?」
「ああ。」
ロックスコーピオンより硬い。
だが。
「まだ斬れる。」
「じゃあ私も。」
アイリが氷属性へ切り替える。
「今度は。」
「脚を狙う。」
「いいと思う。」
ストーンリザードが振り返る。
再び突進。
「今!」
アイリが横へ避ける。
後脚。
グリムゾンティア。
斬る。
ザシュッ!
パキパキッ!
「グルッ!?」
後脚が凍る。
完全ではない。
だが。
踏み込みが鈍った。
「効いてる!」
「ああ!」
グレンが一気に距離を詰める。
「パワースラッシュ!」
凍った脚。
その付け根。
全力。
ガキィン!
「グルァッ!」
体勢を崩す。
「今だ!」
「アイスランス!」
アイリが魔法を放つ。
氷の槍。
グリムゾンティアの氷属性魔石。
増幅回路。
その両方を通したアイスランスが、ストーンリザードの脇腹へ突き刺さる。
ドンッ!
「……。」
「今の。」
「普通のアイスランスより強い。」
「やっぱり魔法も増幅されてる。」
「グレン!」
「ああ!」
グレンが踏み込む。
「連続斬り!」
一撃。
二撃。
アイスランスが作った傷口へ斬撃を重ねる。
ストーンリザードが倒れた。
「……。」
「結構強かったね。」
「ああ。」
「でもまだ問題ない。」
「剣も?」
「大丈夫。」
グレンがミスリルソードを見る。
「ただ。」
「うん?」
「こういう硬い奴が増えてくるなら。」
「オリハルコン?」
「そろそろ考え始めてもいいかもしれない。」
「作る?」
「まだ。」
「やっぱり。」
「次の階層も見てから。」
「慎重だね。」
「失敗したくないからな。」
「ミャ。」
『つぎ!』
「ミケは行く気満々だな。」
「元気だからね。」
素材を回収し、再び歩き始める。
やがて。
十二階層の奥。
上へ続く階段。
「十三階層。」
「あったね。」
「ああ。」
グレンが二人を見る。
「まだ余裕ある?」
「私は大丈夫。」
「ミャ!」
『だいじょうぶ!』
「じゃあ。」
グレンが階段を見る。
「次へ行こう。」
三人は十三階層へ続く階段を上り始めた。




