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アラフォー冒険者、今日も嫁のために頑張ります  作者: 榊紅丸
第二章 冒険者都市ルグリア編
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第87話 魔力増幅回路

 冒険者ギルドから帰った午後。


 グレンは居間のテーブルに、いくつかの素材を並べていた。


「何するの?」


 アイリが隣から覗き込む。


「ちょっと思いついた。」


「また魔道具?」


「今回は自分たちで使うやつ。」


「誰も何も言ってないよ?」


「……そうだった。」


「ふふっ。」


 テーブルの上には、十階層の宝箱から手に入れた二つの中級魔石が並んでいる。


 雷属性と土属性。


 そして、八階層の隠し部屋で手に入れた魔銀糸。


「ミケと同じ属性だね。」


「ああ。」


 グレンが雷属性の魔石を手に取る。


「これを使って、ミケの魔法を強くできないかと思って。」


「魔石で?」


「それと魔銀糸。」


「どうするの?」


 グレンが紙を取り出す。


「ミケが雷魔法を使う。」


「うん。」


「その魔力を雷属性の魔石へ通して、魔銀糸で作った回路を通す。」


「それで?」


「同じ属性の魔力を増幅できないかなって。」


「……できるの?」


「分からない。」


「分からないんだ。」


「だから試す。」


「グレンらしいね。」


「ミャ?」


『ミケの?』


 アイリが笑う。


「ミケの魔法を強くするんだって。」


「ミャ!」


『やる!』


「本人も乗り気だな。」


「お願いしていい?」


「ああ。」


 まず、グレンは魔石を加工する。


 首輪へ取り付けても負担にならないよう、小さく削っていく。


 雷属性と土属性の二つ。


 魔石は小さくすれば、蓄えられる魔力量も減る。


 だが今回は、魔石そのものを動力源として使うわけではない。


 ミケ自身の魔力を通す。


 重要なのは属性と、魔力を増幅するための回路だった。


「次はこれか。」


 魔銀糸。


 裁縫を覚えたことで、ようやく扱える。


 グレンが一本を手に取る。


 細い。


 だが、普通の糸とは比べものにならないほど丈夫だった。


 さらに、少量の魔力を流してみる。


「……すごいな。」


「どう?」


「かなり魔力を通しやすい。」


「魔道具にも使えそう?」


「むしろ相性いいかもしれない。」


 グレンが首輪へ魔銀糸を縫い込んでいく。


 ただ補強するだけではない。


 糸そのものを魔力回路として使う。


「裁縫と魔道具作成を一緒に使ってる。」


「そうなるな。」


「鍛冶もできるし。」


「何でも屋みたいになってきたな。」


「冒険者でしょ?」


「一応。」


「一応なんだ。」


 しばらくして。


「できた。」


 グレンが首輪を持ち上げる。


 見た目は以前と大きく変わらない。


 位置確認用と意思疎通用の魔石。


 そこへ新たに、雷属性と土属性の二つの小さな魔石が組み込まれている。


「重くない?」


 アイリが受け取る。


「大丈夫そう。」


「ミケ。」


「ミャ。」


 首輪を装着する。


「どう?」


「ミャ。」


『へいき』


「重くない?」


『へいき』


「なら大丈夫だな。」


「試す?」


「ああ。」


 三人は庭へ出た。


 グレンは庭の端に、練習用に用意した木材を三本並べる。


「借家なんだから壊さないでね。」


「分かってる。」


「ミケにも言ってる。」


「ミャ。」


『わかった』


「本当に分かってる?」


「ミャ!」


『わかった!』


「じゃあ。」


 グレンが木材を指差す。


「まず雷。」


「いつも通りでいい。」


「ミャ!」


 ミケが構える。


 グレンが魔力感知を使う。


「……来た。」


「何が?」


「ミケの魔力が首輪へ流れてる。」


 雷属性の魔力が雷属性魔石へ流れ、そこから魔銀糸で作った回路へ伝わっていく。


「ちゃんと動いてる。」


「成功?」


「まだ分からない。」


 次の瞬間。


「ミャア!」


 サンダーチェイン。


 バヂィィィィィン!


「!?」


「きゃっ!」


 一体目へ直撃。


 さらに二体目、三体目へと雷撃が連鎖する。


 バヂィィン!


 最後に。


 ドォン!


 三本の木材がまとめて吹き飛んだ。


「……。」


「……。」


「ミャ!」


『できた!』


 グレンが吹き飛んだ木材を見る。


「思ってたより強いな。」


「強いどころじゃないと思う。」


「……だよな。」


 木材の一部は黒く焦げている。


「ミケ、大丈夫?」


 アイリがすぐに抱き上げる。


「ミャ?」


『へいき』


「疲れてない?」


「ミャ。」


『へいき』


 グレンも魔力感知でミケの魔力を確認する。


「問題なさそうだ。」


「魔力は?」


「いつもと大きく変わらないと思う。」


「じゃあ、同じくらいの魔力で威力だけ上がったの?」


「たぶん。」


 グレンがミケの首輪を見る。


「増幅っていうより、魔力を効率よく使えるようになったのかもしれない。」


「どっちにしてもすごいね。」


「ミャ!」


『つよい!』


「本人も満足してる。」


 アイリが笑う。


「土も試してみる?」


「……。」


 グレンが庭を見る。


 アーススパイク。


「やめよう。」


「だよね。」


「地面から岩棘が出るんだぞ。」


「しかも今の見たあとだもんね。」


「塔で試そう。」


「ミャ。」


『わかった』


 グレンは改めて首輪を見る。


 雷と土。


 同じ属性の魔石。


 魔銀糸。


 そして魔力回路。


「……。」


「どうしたの?」


「これ。」


「うん?」


「ミケだけじゃないな。」


「どういうこと?」


 グレンの視線がアイリの腰へ向く。


 グリムゾンティア。


「それ、貸して。」


「グリムゾンティア?」


「ああ。」


 アイリが鞘ごと渡す。


 グレンが抜く。


 ミスリル製の短く細身の刀身。


 そして、鍔と柄頭には風属性の魔石が取り付けられている。


「これにも魔石が付いてる。」


「あ。」


「風属性。」


「エアーカッターを強くするために付けたやつ。」


「ああ。」


 今までは風属性魔石そのものの効果を利用していた。


 だが、そこへ魔銀糸の増幅回路を組み込めば。


「もっと強くできる?」


「できると思う。」


「……。」


 アイリが吹き飛んだ木材を見る。


「庭では試さないよ?」


「俺もそう思ってた。」


「よかった。」


 グレンがグリムゾンティアを見る。


「せっかくだ。少し改造するか。」


「今から?」


「ああ。」


 三人は再び家へ戻る。


 グレンがグリムゾンティアの構造を確認する。


 自分で作った武器だから、どこへどう回路を通せばいいかはすべて分かっている。


「風だけ?」


「いや。せっかくなら。」


 グレンが紙へ新しい設計を書く。


「魔石を三つ付けられるようにする。」


「三つ?」


「ああ。交換できるようにしておけば、他の属性も使える。」


「今あるのは?」


「風。それと。」


 グレンがストレージから一つの魔石を取り出す。


 淡い青色。


「氷。」


「それ、冷房用?」


「ああ。」


「まだ暑くないね。」


「だろ?」


「使っちゃおうか。」


「暑くなったら別のを用意すればいい。」


「ふふっ。」


「冷房より私の武器が先になっちゃった。」


「必要になった方から使えばいい。」


 現在あるのは風と氷。


 そして、もう一つのスロットは空き。


「ここに火属性が手に入れば。」


「ファイアボールも?」


「強化できると思う。」


「いいね。」


 グレンはグリムゾンティアの鍔周辺を加工する。


 三つの小型魔石を装着できる場所を作り、さらに柄、鍔、刀身を魔銀糸の回路で繋いでいく。


「刀身まで?」


「ああ。」


「魔法を撃つだけなら、ここまで必要ないんじゃない?」


「俺も最初はそう思った。」


「じゃあ何で?」


「ミケの首輪を見て思った。」


 魔力は回路を通る。


 なら、刀身まで通せば。


「斬った時にも属性魔力が残るかもしれない。」


「……。」


「つまり?」


「氷なら、斬った場所が凍るかもしれない。」


「風なら?」


「切れ味が上がるか、斬撃そのものが強くなるか。」


「やってみないと分からない。」


「またそれ。」


「新しいもの作ってるんだから仕方ないだろ。」


「ふふっ。」


 作業を続ける。


 やがて。


「できた。」


 グレンがグリムゾンティアを持ち上げる。


 鍔周辺には三つの魔石スロット。


 一つは風。


 一つは氷。


 そして、一つは空いている。


 内部には魔銀糸による魔力増幅回路が通されていた。


「持ってみて。」


「うん。」


 アイリが受け取る。


「重さは?」


「ほとんど変わらない。」


「振れる?」


 アイリが軽く振ってみる。


「大丈夫。」


「なら成功。」


「魔法は?」


「塔で。」


「だよね。」


「庭がなくなる。」


「それは困る。」


「ミャ。」


『ミケも』


「ミケの土も塔でな。」


「ミャ!」


『やる!』


 アイリが新しくなったグリムゾンティアを見る。


「これ、まだ強くなるんだね。」


「ああ。魔石が増えれば、使い方も増える。」


「三つ全部入ったら?」


「それも試してみたい。」


「同時に使えるの?」


「分からない。」


「もし使えたら。」


 グレンが少し考える。


「属性同士が影響する可能性もある。」


「例えば?」


「火と風なら。」


「炎がさらに強くなるとか?」


「ありそうだな。」


「氷と風なら?」


「冷気が広がるかもしれない。」


「……楽しそう。」


「実験は塔でな。」


「分かってる。」


「ミャ!」


『とう!』


「ミケも楽しそうだな。」


「ふふっ。」


 ミケの首輪とグリムゾンティア。


 二つの装備に、新しい魔力回路が加わった。


 どれほどの力を発揮するのかは、まだグレンにも分からない。


 確かめる場所は決まっている。


 次は十一階層。


 そこで、新しい装備の実戦試験をすることになった。

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