第84話 十階層を目指して
ルグリアで家を借りた翌日。
「忘れ物ない?」
「大丈夫。」
「ミャ!」
『だいじょうぶ』
「ミケは何も持ってないだろ。」
「ミャ。」
『もってる』
「何を?」
「ミャ!」
ミケが自分の首輪を前足で触る。
「首輪?」
『もってる』
「それは装備してるって言うんだよ。」
「ふふっ。」
アイリが笑う。
「ちゃんと自分のものって分かってるんだね。」
「まあ、間違ってはないか。」
グレンは装備を確認する。
ミスリルソード、ミスリルバックラー、ミスリルアーマー。
アイリもグリムゾンティア、ミスリルバックラー、ミスリルライトアーマーを装備している。
「じゃあ行くか。」
「うん。」
目標はルグリアの塔、十階層。
◇
塔へ到着すると、入口にある転移陣へ向かう。
「五階。」
光が三人を包み、一瞬で景色が変わる。
五階層。
階層主を倒した部屋。
「じゃあ、ここからだな。」
「うん。」
「ミャ!」
三人は六階層へ続く階段を上がった。
六階層の景色は荒野。
乾いた地面に岩が点在し、遠くまで見渡せる。
「見通しはいいな。」
「魔物は?」
「いる。」
グレンが気配察知と魔力感知を使う。
「前方。六体。」
「多いね。」
「ああ。」
現れたのはオーク。
「またオーク?」
「いや。」
グレンが一体を見る。
他より身体が大きく、武器も違う。
「鑑定。」
オークウォリアー。
「上位種か。」
「強そう?」
「普通のオークよりは。」
六体のうち、オークが四体、オークウォリアーが二体。
「私から?」
「頼む。」
アイリがグリムゾンティアを向ける。
「エアーカッター!」
広範囲へ放たれた風刃が、オークたちへ襲いかかる。
「グォォッ!」
二体が倒れ、残りは四体。
「行く。」
グレンが駆ける。
身体強化。
クイック。
そして、新しく覚えた剛力。
「……速い。」
アイリが呟く。
グレンは一気に距離を詰める。
「グォッ!」
オークウォリアーが大剣を振り下ろす。
グレンはバックラーで受け流し、そのまま剣を振るう。
「パワースラッシュ!」
ミスリルソードが胴体へ叩き込まれる。
ズバッ!
「グォォッ!?」
オークウォリアーが大きく吹き飛ぶ。
「……。」
その威力には、グレン自身も少し驚いた。
「前より威力上がってるな。」
「剛力?」
「たぶん。」
今までなら、ここまで大きくオークウォリアーを吹き飛ばすことはなかった。
「これはいい。」
二体目のオークウォリアーが迫る。
「グォォォッ!」
「遅い。」
グレンは踏み込み、剣を振るう。
「連続斬り!」
一撃、二撃と斬りつけ、オークウォリアーを倒す。
残ったオークの一体へ、アイリがグリムゾンティアを向ける。
「アイスランス!」
氷の槍が放たれ、一体を貫く。
「あと一体。」
「ミャ!」
『ミケ!』
「……。」
グレンが最後のオークを見る。
「じゃあ、ミケ。」
「ミャ!」
『やる!』
「任せる。」
「ミャア!」
アイリの腕からミケが飛び降り、小さな身体をオークへ向ける。
「グォォッ!」
オークがミケへ向かおうとする。
「ミャ!」
バチィィィッ!
雷撃が放たれる。
サンダーチェイン。
ただし、敵は一体。
雷撃はそのままオークを撃ち抜いた。
「グォ……。」
オークが倒れる。
「……。」
「……。」
「ミャ!」
『たおした!』
「倒したな。」
「すごいね、ミケ。」
「ミャー!」
アイリがミケを抱き上げる。
「よしよし。」
「ミャ。」
『できる』
「はいはい。強い強い。」
「ミャー。」
ミケは満足そうだ。
「完全に子供だな。」
「まだ幼体だもん。」
「そうだった。」
◇
七階層は湿地だった。
「足場悪いな。」
「滑りそう。」
「気をつけて。」
グレンが罠察知、気配察知、魔力感知を使いながら進む。
「右。」
「何かいる?」
「ああ。」
泥の中で何かが動く。
「来る。」
バシャッ!
飛び出したのは巨大なトカゲ。
「鑑定。」
ポイズンリザード。
「毒持ち。」
「毒耐性。」
アイリが言う。
「覚えなくてよかった?」
「まだ一体見ただけだろ。」
「ふふっ。」
「それに。」
グレンが剣を構える。
「食らわなければいい。」
「それはそう。」
三体のポイズンリザードが姿を現す。
「シャァァッ!」
一体が口から紫色の液体を吐き出す。
「毒!」
グレンが横へ避けると、毒液が地面へ落ちた。
「直接触らない方がいいな。」
「私がやる?」
「一体頼む。」
「うん。」
「アイスランス!」
氷槍が一体を貫く。
グレンは残った二体へ剣を向ける。
「スマッシュウェーブ!」
衝撃波が放たれ、一体を吹き飛ばす。
残った一体が接近してくる。
「連続斬り!」
連続した斬撃で倒す。
「毒耐性なくても大丈夫だったね。」
「だから言っただろ。」
「でも上の階層で毒だらけになったら?」
「その時考える。」
「グレンらしい。」
◇
八階層は石造りの迷宮。
「今度はダンジョンらしくなったな。」
「塔なのに迷宮。」
「何でもありだな。」
狭い通路を進み、曲がり角へ差しかかる。
「前方に七体。」
「多い。」
「しかも。」
グレンが魔力感知へ意識を集中する。
「奥に少し強いのがいる。」
現れたのはスケルトン。
「アンデッド。」
「私やる?」
「二人で。」
グレンがミスリルソードを構える。
「聖光剣。」
刀身に聖属性の光が宿る。
アイリもグリムゾンティアを向けた。
「ホーリーレイ!」
広範囲へ放たれた聖なる光が、前方のスケルトンたちを包む。
ガラガラガラッ!
一気に数体が崩れる。
「相性良すぎるな。」
「アンデッドなら楽だね。」
残ったのは大きなスケルトン。
「鑑定。」
スケルトンナイト。
「こいつが強い反応か。」
盾と剣を持ち、鎧を身につけている。
「行く。」
グレンが踏み込み、聖属性の光をまとった剣を振るう。
ガァン!
だが、盾で受け止められた。
「硬いな。」
「グレン!」
「ああ。」
スケルトンナイトが剣を振るう。
グレンはバックラーで受け流し、そのまま攻撃へ移る。
「ノックバック!」
攻撃を受けたスケルトンナイトが、盾ごと体勢を崩す。
「今。」
「ホーリーレイ!」
聖なる光が直撃し、スケルトンナイトが大きく揺れる。
「終わり。」
グレンが踏み込む。
「聖光剣!」
一閃。
骨と鎧をまとめて斬る。
ガラガラッ!
スケルトンナイトが崩れ落ちた。
「まだ大丈夫?」
「ああ。」
グレンがミスリルソードを見る。
「剣も問題ない。」
「ならよかった。」
◇
九階層は森だった。
だが、二階層とは違う。
木々が巨大で、視界も悪い。
「気配が多い。」
「どれくらい?」
「……。」
グレンが集中する。
「九。」
「多いね。」
「囲もうとしてる。」
「分かるの?」
「ああ。」
左右と後方から、少しずつ近づいてくる。
「賢いな。」
「どうする?」
「囲まれる前に減らす。」
「ミャ。」
『ミケも』
「今回は頼む。」
「ミャ!」
グレン、アイリ、ミケがそれぞれ構える。
「来る!」
木々の間から複数の狼型の魔物が姿を現す。
「鑑定!」
フォレストウルフ。
九体。
「ミャア!」
最初に動いたのはミケ。
サンダーチェイン。
放たれた雷撃が一体、二体、三体と次々に連鎖する。
バチバチバチィィィッ!
「ギャウン!」
複数のフォレストウルフが倒れる。
「相変わらずすごいな。」
「ミャ!」
『まだ!』
「残りは俺たち。」
グレンが前へ出る。
「旋風斬り!」
身体を回転させながら剣を振るい、周囲の二体をまとめて斬る。
さらにアイリがグリムゾンティアを向ける。
「エアーカッター!」
風刃が残った魔物へ襲いかかる。
戦闘はすぐに終わった。
「……九体いたんだよね?」
「ああ。」
「早かったね。」
「集団戦が楽になった。」
「ミケのおかげもあるね。」
「ミャ!」
『ミケつよい』
「知ってる。」
グレンがミケの頭を撫でる。
「でも。」
「うん?」
「敵も確実に強くなってる。」
「そうだね。」
「六階から九階までは、まだ余裕がある。」
「でも五階までとは違う。」
「十階の階層主、少し楽しみ?」
「まあな。」
「グレン、顔が笑ってる。」
「冒険者だから。」
「ふふっ。」
◇
九階層の奥で、十階層へ続く階段を見つけた。
「ここだな。」
「十階。」
三人が階段を上がる。
そこには石造りの広い空間があり、その奥には巨大な扉があった。
「二体目の階層主。」
「五階より強いよね。」
「間違いなく。」
「ミャ!」
『たたかう!』
「必要ならな。」
「ミャー。」
『ぜったい』
「決めるな。」
アイリが笑う。
「今回はミケにも出番あるかもよ?」
「ミャ!」
『やる!』
「煽らない。」
「ふふっ。」
グレンが巨大な扉を見る。
「ただ。」
「うん。」
「今のところ、ミスリルソードも装備も戦い方も、まだ問題ない。」
「オリハルコンは?」
「まだストレージで寝ててもらう。」
「そうだね。」
必要になる時まで使わない。
その時が来たら、最高の一本を作ればいい。
「じゃあ。」
「ああ。」
グレンが巨大な扉へ手をかける。
「十階の階層主。」
「行ってみよう。」




