第82話 新しい家探し
ルグリアの塔。
五階層の階層主を討伐したグレンたちは。
転移陣を使って入口へ戻った。
「やっぱり便利だな。」
「まだ言ってる。」
「だって一瞬だぞ?」
「分かったって。」
「フォルンにも――」
「それはもう聞いた。」
「ミャ。」
『きいた』
「ミケにまで言われた。」
グレンは苦笑する。
「じゃあ戻るか。」
「ギルド?」
「ああ。」
「一応、五階まで攻略したって報告しておこう。」
「そのあと家?」
「そのあと家。」
「ミャ!」
『いえ!』
「お前、家好きだな。」
塔を出て。
三人はルグリアへ戻った。
◇
冒険者ギルド。
中へ入ると。
相変わらず大勢の冒険者で賑わっていた。
「エレナさんいるかな。」
「あ。」
「いた。」
昨日と同じ受付。
エレナが座っている。
「次の方。」
三人が受付へ向かう。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
エレナが顔を上げる。
「グレンさん。」
「アイリさん。」
「ミャ。」
「……。」
ミケ。
(今日も可愛い。)
「ミャ?」
(こっち見た。)
「……本日は塔の攻略ですか?」
「いや。」
「今帰ってきたところ。」
「そうでしたか。」
「どこまで進まれましたか?」
「五階。」
「階層主も倒した。」
「初回で五階まで攻略されたんですね。」
「ああ。」
「転移陣も登録できた。」
「それでしたら問題ありません。」
エレナが記録を確認する。
「五階層までの攻略記録はこちらでも確認できます。」
「ギルドでも分かるんだ?」
「塔の転移陣と冒険者証は連動していますので。」
「便利だな。」
「攻略状況の確認や、遭難した冒険者の捜索などにも利用されています。」
「なるほど。」
「階層主はいかがでしたか?」
「アーマーベアだった。」
「はい。」
「余裕だった。」
「グレン。」
「何?」
「もう少し言い方あるでしょ。」
「特に苦戦しなかった?」
「それ。」
「同じ意味じゃない?」
「言い方。」
「……。」
エレナが淡々と記録する。
「B級冒険者のお二人でしたら、五階層までは問題ないと思います。」
「やっぱり?」
「はい。」
「ただし十階層からは難易度が上がりますので、ご注意ください。」
「ああ。」
「無理するつもりはない。」
「ミャ!」
『ミケつよい』
「ミケが自分も強いって。」
「……。」
エレナがミケを見る。
「そうですか。」
(知ってます。)
(強くなくても可愛いです。)
「ミャ。」
「……。」
(撫でたい。)
だが。
仕事中。
我慢。
「それで。」
グレンが言う。
「もう一つ聞きたいんだけど。」
「はい。」
「家を借りたい。」
「賃貸住宅ですか?」
「ああ。」
「塔も問題なく攻略できそうだし。」
「しばらくルグリアを拠点にすることにした。」
「承知しました。」
「冒険者向けの家を扱ってるところ、知らない?」
「ございます。」
即答だった。
「やっぱりあるんだ。」
「ルグリアは他の街から移ってくる冒険者も多いですから。」
「なるほど。」
「ギルドと提携している不動産商会があります。」
「そこなら安心?」
「ギルドが紹介している商会ですので、少なくとも悪質な契約を結ばされる心配はありません。」
「じゃあそこがいいな。」
「ご希望はありますか?」
「え?」
「家の条件です。」
「ああ。」
グレンが考える。
「二人と一匹。」
「ミャ。」
「テイムモンスター可ですね。」
「そう。」
「ミケが走り回れるくらいの広さは欲しいかな。」
アイリが言う。
「できれば庭も。」
「庭。」
「うん。」
「ミケ、外で遊べるでしょ?」
「ミャ!」
『にわ!』
「庭がいいって。」
「……。」
エレナの視線が。
ミケへ。
(庭で遊ぶミケちゃん。)
(……見たい。)
「エレナさん?」
「はい。」
「どうしたの?」
「何も。」
「そう?」
「はい。」
いつもの無表情。
「他には?」
「工房。」
グレンが言った。
「工房ですか?」
「ああ。」
「鍛冶もするから。」
「……鍛冶?」
「上級鍛冶を持ってる。」
「上級鍛冶。」
エレナが初めて。
少し驚いた顔をした。
「冒険者ですよね?」
「そうだけど。」
「B級剣士で。」
「うん。」
「鍛冶もされるんですか?」
「する。」
「魔道具も作るよ。」
アイリが付け加える。
「……。」
「何?」
「いえ。」
エレナがグレンを見る。
「少し珍しい方だと思っただけです。」
「よく言われる。」
「フォルンでは?」
「最後の方は冒険より魔道具作ってた。」
「グレン、それ自分で言うの?」
「事実だから。」
「ふふっ。」
エレナは。
条件を書き留めていく。
「でしたら。」
「はい。」
「一般的な集合住宅ではなく、一戸建てを探された方がよろしいかと思います。」
「俺もそう思う。」
「鍛冶をされるのであれば、近隣への騒音や火の問題もあります。」
「ああ。」
「街の中心部より、少し外れた場所が適しています。」
「塔から遠くなる?」
「多少は。」
「でも転移陣あるしな。」
「塔の入口までは行かないといけないよ?」
「そうだった。」
「ふふっ。」
「まあ多少なら問題ない。」
「承知しました。」
エレナが。
一枚の紙へ簡単な地図を書く。
「こちらです。」
「ルグリア住宅商会。」
「はい。」
「ギルドからの紹介だと伝えてください。」
「分かった。」
「冒険者証を提示すれば、身元確認も簡単に済みます。」
「B級なのも有利?」
「信用面ではかなり。」
「じゃあ話は早そうだな。」
「条件に合う物件が空いていれば。」
「そこは運か。」
「はい。」
グレンが地図を受け取る。
「ありがとう。」
「いえ。」
「じゃあ行ってみる。」
「良い物件が見つかるといいですね。」
「ありがとう。」
「ミャ。」
『またね』
「ミケがまたねって。」
「……。」
「はい。」
エレナが答える。
「また。」
「……。」
三人が離れていく。
エレナは。
受付からその姿を見送る。
特に。
アイリに抱かれている。
ミケ。
「ミャ。」
尻尾が。
ゆらゆら。
「……。」
(撫でたい。)
昨日より。
少しだけ。
我慢するのが難しくなっていた。
◇
「この辺だな。」
ギルドを出て。
十分ほど。
大通りから一本入った場所。
大きな看板。
「ルグリア住宅商会。」
「ここだね。」
「ああ。」
「ミャ。」
『いえ』
「まだ決まってないぞ。」
「ミャ!」
『にわ!』
「庭もまだ。」
「ふふっ。」
アイリがミケを撫でる。
「いい家あるといいね。」
「ミャ。」
グレンは。
建物を見る。
「条件は。」
「庭。」
「工房にできる場所。」
「二人とミケで暮らせる広さ。」
「うん。」
「あと。」
「お風呂?」
「もちろん。」
「やっぱり。」
「大事だろ。」
「はいはい。」
「それと。」
グレンが考える。
「生活魔道具を置ける場所。」
「それは普通の家でも大丈夫じゃない?」
「冷蔵庫と洗濯魔道具くらいならな。」
「暖房も。」
「持ってきてる。」
「家具も。」
「ある。」
「……。」
二人が顔を見合わせる。
「家だけあれば。」
「すぐ住めるね。」
「ストレージってすごいな。」
「引っ越しが簡単すぎる。」
「ミャ!」
『いえ!』
「分かったって。」
グレンが。
商会の扉へ手をかける。
「じゃあ。」
「探すか。」
「うん。」
ルグリアで暮らす。
三人の。
新しい家を。




