第79話 ルグリア冒険者ギルド
ルグリアへ到着したグレンたちは。
まず冒険者ギルドへ向かうことにした。
「大きいね。」
「ああ。」
目の前にあるのは。
三階建ての大きな建物。
フォルンの冒険者ギルドと比べても。
かなり大きい。
「さすが冒険者都市。」
「ミャ。」
『ひといっぱい』
「中も多そうだな。」
三人は扉を開ける。
「……。」
広い。
まず。
それがグレンの感想だった。
いくつもの受付。
巨大な依頼掲示板。
食事を取れるスペースまである。
そして。
冒険者の数。
「フォルンとは全然違うな。」
「うん。」
装備を整えた冒険者たちが。
何組も行き交っている。
グレンたちと同じ。
B級らしい冒険者も珍しくない。
「とりあえず受付だな。」
「うん。」
「ミャ。」
三人は。
比較的空いている受付へ向かった。
「次の方。」
女性の声。
「どうぞ。」
受付に座っていたのは。
二十代半ばほどの女性だった。
長い髪を綺麗にまとめ。
姿勢もいい。
整った顔立ち。
だが。
表情はほとんど動かない。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
グレンとアイリが受付へ立つ。
「本日はどのようなご用件でしょうか。」
「今日、フォルンから来たんだけど。」
「フォルンから。」
「しばらくルグリアを拠点にしようと思ってる。」
「承知しました。」
「冒険者証を確認しても?」
「ああ。」
二人が冒険者証を差し出す。
女性が確認する。
「グレンさん。」
「はい。」
「アイリさん。」
「はい。」
「お二人ともB級冒険者ですね。」
「ああ。」
「問題ありません。」
淡々としている。
B級冒険者を見ても。
特に反応はない。
フォルンなら。
多少は注目されるようになっていたが。
ここでは。
それほど珍しくないのだろう。
「私は受付担当のエレナです。」
「よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「ミャ。」
エレナの視線が。
止まった。
「……。」
アイリの腕。
そこにいる。
小さな魔獣。
「ミャ?」
「……。」
(可愛い。)
だが。
表情は変わらない。
「そちらはテイムモンスターですか?」
「はい。」
「登録証を確認してもよろしいでしょうか。」
「もちろん。」
アイリがミケの首輪を見せる。
エレナが確認する。
「ミケ。」
「はい。」
「種族……ラグナリンクス。」
「そうみたいです。」
「……。」
エレナが少しだけ眉を動かす。
「珍しい種族ですね。」
「知ってるんですか?」
「名前だけです。」
古い資料で。
見たことがある。
その程度。
「かなり希少な魔獣だったと記憶しています。」
「やっぱりそうなんだ。」
「ミャ。」
(鳴いた。)
エレナは。
平静を保つ。
「登録に問題はありません。」
「ありがとうございます。」
「ミャ。」
『このひときれい』
「ミケ。」
アイリが笑う。
「どうした?」
「エレナさんのこと、綺麗って。」
「……。」
エレナが止まった。
「そうなんですか?」
「うん。」
「ミケとは意思疎通できるんです。」
「……そうですか。」
エレナはミケを見る。
「ありがとうございます。」
「ミャ。」
(私を見てる。)
(可愛い。)
「……。」
表情は。
変わらない。
「ところで。」
グレンが切り替える。
「塔について聞きたいんだけど。」
「はい。」
「俺たち、あの塔を目的に来たんだ。」
「でしたら、最初に基本的な説明をしておきます。」
「頼む。」
エレナが一枚の資料を取り出す。
「ルグリアの塔は全三十階層。」
「やっぱり三十か。」
「はい。」
「五階層ごとに階層主が存在します。」
「五、十、十五、二十、二十五、三十?」
「その通りです。」
エレナが頷く。
「階層主を討伐すると、その階層にある転移陣が使用可能になります。」
「転移陣?」
「はい。」
「一度解放すれば、次回から入口より攻略済みの階層へ転移できます。」
「……。」
グレンがアイリを見る。
「便利だな。」
「うん。」
「フォルンにも欲しかった。」
「本当にね。」
十階層とはいえ。
毎回。
一階層から進む必要があった。
「ただし。」
エレナが続ける。
「転移できるのは、階層主を討伐して転移陣を解放した者だけです。」
「他人が倒した転移陣は使えない?」
「はい。」
「なるほど。」
「パーティで討伐した場合は?」
「その場に参加していた全員が登録されます。」
「ミケも?」
「……。」
エレナがミケを見る。
「テイムモンスターも対象です。」
「ミャ。」
(この子も塔に入るんですね。)
「他に注意点は?」
「十階層を超えたあたりから魔物の強さが大きく上がります。」
「なるほど。」
「B級冒険者であれば十階層までは十分攻略可能とされていますが、それより上はパーティ構成や装備によって難易度が変わります。」
「十五階以降は?」
「B級でも撤退するパーティは珍しくありません。」
「二十階以降。」
「A級冒険者を中心としたパーティが主です。」
「二十五階から上は?」
エレナが一拍置く。
「現在も攻略の最前線です。」
「……。」
グレンの表情が変わる。
「三十階は?」
「完全攻略されていません。」
「やっぱりか。」
全三十階層。
そして。
未攻略。
「面白そうだな。」
「グレン。」
「何?」
「顔。」
「どんな顔?」
「冒険者の顔してる。」
「冒険者だからな。」
「ふふっ。」
「ただ。」
グレンが言う。
「いきなり無茶するつもりはない。」
「それを推奨します。」
「まず低層を見て。」
「はい。」
「俺たちで問題なく進めそうなら、ルグリアを拠点にする。」
「承知しました。」
「それで。」
「はい。」
「しばらく泊まれる宿を探してるんだけど、おすすめある?」
「ご希望は?」
「清潔。」
「はい。」
「飯が美味い。」
「はい。」
「あと風呂。」
「……。」
「風呂あるところ。」
「グレン、そこ大事なんだ。」
「大事。」
「でしたら。」
エレナが即答する。
「《銀の鹿亭》をおすすめします。」
「風呂ある?」
「あります。」
「そこにする。」
「早いね。」
「条件満たしてる。」
「まだ値段聞いてないよ?」
「……。」
グレンがエレナを見る。
「高い?」
「一般的な冒険者向け宿より少し高めです。」
「どれくらい?」
金額を聞く。
「それなら問題ない。」
「じゃあ決まりだね。」
「ああ。」
「場所は?」
エレナが簡単な地図を出してくれる。
「ギルドを出て大通りを東へ。」
「ここか。」
「徒歩で十分ほどです。」
「塔へは?」
「銀の鹿亭からでしたら、塔へ向かう街門にも比較的近いです。」
「それは助かる。」
「長期滞在される冒険者も多い宿です。」
「いや。」
グレンが首を振る。
「長くても数日かな。」
「数日?」
「一度塔に入ってみて。」
「問題なく攻略できそうなら家を借りる。」
「なるほど。」
「宿暮らしより家の方が楽だからな。」
「そうだね。」
アイリも頷く。
「家ならミケも自由にできるし。」
「ミャ。」
『いえ』
「家がいいって。」
「まだ借りるって決めてないぞ。」
「ミャ。」
『いえ』
「二回言った。」
「分かった分かった。」
エレナが。
じっとミケを見る。
(家がいいんですね。)
(可愛い。)
「……。」
「エレナさん?」
「はい。」
一瞬で。
いつもの無表情。
「何か?」
「いや。」
「何でもないです。」
「そう?」
「はい。」
グレンは地図を受け取る。
「じゃあ。」
「今日は宿に行くよ。」
「はい。」
「明日か明後日には塔へ行ってみる。」
「初回でしたら、まず五階層の階層主討伐を目標にされるとよいかと思います。」
「五階か。」
「無理はせず。」
「危険を感じたら撤退してください。」
「ああ。」
「それが俺たちのやり方だから。」
「承知しました。」
「ありがとう。」
「ありがとうございました。」
「ミャ。」
アイリの腕の中から。
ミケがエレナを見る。
『またね』
「ミケがまたねって。」
「……。」
エレナは。
ほんの少しだけ。
口元を緩めた。
「はい。」
「またお待ちしております。」
三人が受付を離れる。
エレナは。
その後ろ姿を見送った。
「……。」
特に。
アイリの腕の中。
揺れる尻尾。
(……可愛い。)
触りたい。
撫でたい。
できれば。
抱いてみたい。
「……。」
エレナは静かに息を吐く。
「次の方。」
いつもの。
冷静な受付嬢へ戻った。
◇
「ここだな。」
しばらくして。
三人は《銀の鹿亭》へ到着した。
三階建て。
大きすぎず。
小さすぎず。
建物も綺麗に手入れされている。
「良さそう。」
「うん。」
「ミャ。」
『ごはん』
「お前はそればっかりだな。」
中へ入り。
部屋を取る。
まずは三泊。
塔へ一度入るには。
それで十分だろう。
荷物は。
ほとんどストレージとマジックバッグの中。
部屋へ入っても。
片付けるものはほとんどない。
「引っ越しって感じしないね。」
「ストレージが便利すぎる。」
「フォルンの家で使ってたものも全部入ってるもんね。」
「ああ。」
冷蔵庫。
洗濯魔道具。
暖房魔道具。
家具や生活用品。
使えるものは。
旅立つ前にほとんど収納してきた。
「家借りたら楽だな。」
「出すだけだね。」
「引っ越し業者いらず。」
「前世より便利。」
「間違いない。」
「ミャ!」
『ごはん!』
「……。」
グレンがミケを見る。
「分かったよ。」
「ミケ、お腹空いたんだよね。」
「ミャア!」
「食堂行くか。」
「うん。」
まずは。
ルグリアでの最初の食事。
そして。
明日は。
三十階層の巨大な塔。
「とりあえず五階。」
「うん。」
「どんな場所か見てみよう。」
「ミャ!」
二人と一匹の。
ルグリアでの生活が。
いよいよ始まった。




