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第76話 五冊の紫

 翌朝。


「行ってくる。」


「頑張ってね。」


「……アイリは?」


「家にいるよ?」


「なんで?」


「だって、私が行っても合成できないし。」


「ミャ。」


『できない』


「ミケまで。」


 グレンは玄関で二人を見る。


 アイリ。


 その足元にはミケ。


「三百冊だぞ?」


「うん。」


「一人で?」


「うん。」


「……。」


「お昼ご飯作って待ってるね。」


「それ言われたら何も言えないな。」


「いってらっしゃい。」


「ミャ。」


『がんばって』


「はいはい。」


 グレンは家を出た。


 向かうのは。


 冒険者ギルド。


 扉を開ける。


「おはようございます!」


 ミーナ。


「おはよう。」


「逃げませんでしたね!」


「逃げようか?」


「ダメです!」


「冗談だよ。」


「昨日のスキルブック、準備してあります!」


「見たくない。」


「こっちです!」


「聞いてる?」


 案内されたのは。


 ギルドの奥にある倉庫。


 机。


 椅子。


 そして。


 大量の白いスキルブック。


「……。」


「三百冊です!」


「改めて見ると多いな。」


「お願いします!」


「ミーナは?」


「受付がありますので。」


「ガレスは?」


「ギルド長のお仕事があります。」


「俺だけ?」


「グレンさんにしかできませんから!」


「それを言われると弱いんだよな。」


 ミーナが笑う。


「お昼くらいには様子を見に来ますね。」


「その時は差し入れよろしく。」


「分かりました!」


 ミーナが出ていく。


「さて。」


 グレンは椅子に座った。


 目の前。


 白いスキルブック。


 二冊。


「スキルブック合成。」


 光。


 二冊が一冊へ。


 緑。


「次。」


 二冊。


「スキルブック合成。」


 光。


 緑。


「……。」


 これを。


 百五十回。


「先長いな。」


 だが。


 やるしかない。


 合成。


 合成。


 合成。


 ひたすら。


 合成。


 最初は一冊ずつ確認していたが。


 途中から。


 完全な作業になった。


「スキルブック合成。」


 光。


「次。」


 光。


「次。」


 光。


「次。」


 光。


 そして。


 しばらくして。


「……終わった。」


 白。


 三百冊。


 全て消えた。


 目の前には。


 緑のスキルブック。


 百五十冊。


「まだ半分か。」


 グレンは天井を見る。


「帰りたい。」


 だが。


 ここから。


 さらに。


 緑二冊。


「スキルブック合成。」


 青。


「次。」


 緑二冊。


「スキルブック合成。」


 青。


 繰り返す。


 しばらくすると。


 コンコン。


「グレンさん?」


「差し入れ?」


「第一声がそれですか?」


 ミーナが入ってくる。


 手には。


 パンと飲み物。


「ちゃんと持ってきましたよ。」


「さすが。」


「どれくらい進みました?」


「見れば分かる。」


「わっ。」


 机の上。


 青いスキルブックが並んでいる。


「すごい。」


「これだけ作っても、まだある。」


「頑張ってください。」


「簡単に言うな。」


「私にはできませんから。」


「アイリと同じこと言うな。」


「奥さんは来なかったんですか?」


「家で昼飯作ってる。」


「ああ。」


 ミーナが納得する。


「それなら早く帰りたいですね。」


「分かってるじゃないか。」


「じゃあ休憩しない方が。」


「鬼か。」


「冗談です。」


 グレンはパンを受け取る。


「ありがとう。」


「どういたしまして。」


 短い休憩。


 そして。


 再開。


「スキルブック合成。」


 青。


「次。」


 青。


「次。」


 青。


 繰り返す。


 最後の二冊。


「これで。」


 光。


 青。


「……終わった。」


 グレンは机へ突っ伏した。


「疲れた。」


 戦闘とは違う。


 身体が疲れたわけではない。


 ただ。


 ひたすら同じ作業。


「もうしばらく合成したくない。」


「終わりましたか!?」


「うわっ!」


 いつの間にか。


 ミーナが扉から覗いていた。


「びっくりさせるな。」


「七十五冊?」


「ああ。」


 青いスキルブック。


 七十五冊。


「ギルド長呼んできます!」


「元気だな……。」


 しばらくして。


 ガレスが来た。


「終わったか。」


「終わった。」


「本当に七十五冊あるな。」


「疑ってた?」


「いや。」


 ガレスは青いスキルブックを見る。


「これだけあれば。」


「ああ。」


「かなりの冒険者を強化できる。」


「使い方は任せる。」


「もちろんだ。」


 ガレスが頷く。


「約束通り。」


 十五冊。


 青いスキルブックを分ける。


「これはお前たちのものだ。」


「ありがとう。」


「十分な報酬になったか?」


「なりすぎ。」


 青十五冊。


 普通に考えれば。


 かなりの価値がある。


「じゃあ。」


 グレンが三冊を取る。


「ここでやるんですか?」


 ミーナが聞く。


「家まで持って帰る意味ないだろ。」


「それもそうですね。」


「スキルブック合成。」


 三冊。


 光。


 青が消え。


 一冊の紫へ。


「おお……。」


 ミーナが見つめる。


「何度見ても不思議ですね。」


「俺も仕組みは分からない。」


 次。


 三冊。


「スキルブック合成。」


 紫。


 次。


「スキルブック合成。」


 紫。


 さらに。


 四冊目。


 五冊目。


 やがて。


 机の上。


 五冊の紫色のスキルブックが並んだ。


「……。」


 グレンが見る。


「五冊。」


「すごいですね。」


「ああ。」


「何のスキルなんですか?」


「まだ分からない。」


「鑑定しないんですか?」


「今からする。」


 グレンが一冊目へ手を伸ばす。


「鑑定。」


【上級鍛冶】


「……。」


「グレンさん?」


 ミーナが首を傾げる。


「どうしました?」


「……出た。」


「何が?」


「上級鍛冶。」


「えっ!?」


 ミーナが叫ぶ。


「昨日言ってた!?」


「ああ。」


 グレン自身も。


 少し信じられない。


「こんなことあるんだな。」


「オリハルコン!」


「ああ。」


「加工できますよ!」


「できる。」


 昨日。


 十階層で手に入れたばかり。


 今の鍛冶では加工できなかった。


 その翌日。


 必要なスキルが。


 偶然。


 手に入った。


「すごい偶然ですね。」


「俺もそう思う。」


「覚えるんですよね?」


「もちろん。」


 紫のスキルブックを使用。


 光。


【上級鍛冶を習得しました】


「これで。」


 グレンが呟く。


「オリハルコンが使える。」


「何作るんですか?」


「まだ決めてない。」


「アイリさんの装備?」


「なんで分かった。」


「グレンさんなので。」


「どういう意味だよ。」


「そのままの意味です。」


 ガレスが笑う。


「残りも見てみろ。」


「ああ。」


 二冊目。


「鑑定。」


【宝箱感知】


「……。」


「今度は?」


「宝箱感知。」


「また便利そうですね。」


「便利どころじゃない。」


 グレンは笑う。


「隠し空間感知と組み合わせれば、宝箱の見落としがかなり減る。」


「覚える?」


 ガレスが聞く。


「ああ。」


 使用。


【宝箱感知を習得しました】


「二冊ともグレンさんですね。」


「次はアイリ向けが出ればいいけど。」


「こればっかりは分からないな。」


 三冊目。


「鑑定。」


【ハイヒール】


「……。」


「どうです?」


「アイリのだ。」


「回復魔法?」


「ああ。」


 グレンが笑う。


「ヒールの上位。」


「アイリさん喜びますね。」


「これは持って帰る。」


 四冊目。


「鑑定。」


【アイスランス】


「氷魔法?」


「ああ。」


「アイリさん、氷魔法持ってませんよね?」


「持ってない。」


「じゃあこれも?」


「アイリだな。」


 そして。


 最後。


 五冊目。


「鑑定。」


【詠唱破棄】


「……。」


「グレン?」


 ガレスが聞く。


「何だ?」


「詠唱破棄。」


「……。」


「それは。」


 ガレスの表情が変わる。


「かなりの当たりだぞ。」


「やっぱり?」


「ああ。」


「魔法を詠唱せず発動できる。」


「回復。」


「支援。」


「攻撃。」


「状況に応じてすぐ切り替えられる。」


 グレンはスキルブックを見る。


「これもアイリだな。」


「五冊全部使えるスキルでしたね。」


 ミーナが言う。


「ああ。」


「しかも。」


 グレンは自分が覚えた二つ。


 そして。


 アイリへ持ち帰る三冊を見る。


「今の俺たちに合ってる。」


「運が良かったですね。」


「本当に。」


 グレンは三冊をストレージへ収納する。


「じゃあ帰る。」


「もう?」


「もうって。」


 グレンは大量の合成を終えた机を見る。


「朝からずっとこれやってたんだぞ。」


「そうでした。」


「アイリが昼飯作って待ってる。」


「もうお昼過ぎてますよ?」


「……。」


 グレンが固まる。


「ミーナ。」


「はい?」


「もっと早く言って。」


「時計ないですから。」


「急いで帰る。」


「お気をつけて!」


 グレンが部屋を出ようとする。


「グレン。」


 ガレスに呼び止められる。


「何?」


「助かった。」


 ガレスが青いスキルブックを見る。


「これで救える冒険者が増える。」


「そうか。」


「ああ。」


 グレンは少し笑う。


「なら。」


「やった甲斐あったな。」


 手を振り。


 ギルドを出る。


 家へ。


 少し早足で戻る。


「ただいま。」


「おかえり。」


 アイリが迎える。


 足元から。


「ミャ!」


『おそい』


「ミケ。」


「お前まで言う?」


「お昼、とっくにできてるよ。」


「ごめん。」


「合成大変だった?」


「大変だった。」


 グレンは椅子へ座る。


「三百冊。」


「もうやりたくない。」


「ふふっ。」


「でも。」


「ん?」


 グレンが笑う。


「報酬はかなり良かった。」


「青十五冊だよね?」


「ああ。」


「全部合成してきた。」


「じゃあ紫五冊?」


「そう。」


「何が出たの?」


 グレンはストレージから。


 三冊。


 紫色のスキルブックを取り出した。


「まず。」


「俺は二冊覚えてきた。」


「何?」


「上級鍛冶。」


「えっ!?」


 アイリが目を見開く。


「昨日のオリハルコン!」


「ああ。」


「使えるようになった。」


「すごい!」


「もう一つは宝箱感知。」


「それも便利そう。」


「かなりな。」


「それで。」


 グレンは三冊をアイリの前へ置く。


「これは全部アイリ。」


「三冊も?」


「ああ。」


 一冊目。


「ハイヒール。」


「……。」


「本当に?」


「本当。」


 アイリの表情が変わる。


 回復役として。


 欲しかった上位回復魔法。


「覚える。」


「即答だな。」


「これは覚えるよ。」


 使用。


 光。


【ハイヒールを習得しました】


「次。」


「アイスランス。」


「氷魔法!」


「ああ。」


「今まで持ってなかった属性だ。」


「覚える。」


 使用。


【アイスランスを習得しました】


「最後。」


 グレンが三冊目を渡す。


「これは結構すごい。」


「何?」


「詠唱破棄。」


「……。」


「詠唱しなくても魔法が使える。」


「えっ?」


「ヒールも。」


「支援も。」


「攻撃魔法も。」


「すぐ発動できるようになるはず。」


「それ。」


「うん。」


「絶対覚える。」


「だよな。」


 使用。


【詠唱破棄を習得しました】


「……。」


 アイリが自分の手を見る。


「試していい?」


「家の中で攻撃魔法はやめて。」


「分かってるよ。」


 アイリがグレンへ手を向ける。


 次の瞬間。


 淡い光。


「身体強化。」


「……速い。」


「ほとんど間がないね。」


「これはすごいな。」


「うん。」


「戦闘中かなり変わる。」


 グレンは笑う。


「いい報酬だったな。」


「うん。」


「ミャ。」


『ごはん』


「……。」


「……。」


 二人がミケを見る。


「そうだった。」


「ご飯食べよう。」


「ミャ!」


『ごはん!』


 上級鍛冶。


 宝箱感知。


 ハイヒール。


 アイスランス。


 詠唱破棄。


 旅立ちを前に。


 二人はまた。


 大きく力を伸ばした。

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