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第74話 最深部の報酬

 十階層。


 階層主。


 オーガロードを倒したグレンたちの前には、大きな宝箱が置かれていた。


「最後の報酬か。」


「大きいね。」


「ミャ。」


 アイリの腕の中。


 獣化を解除したミケは、少し疲れた様子で丸くなっている。


『つかれた』


「ミケ、まだ疲れてるって。」


「そりゃそうだろ。」


 グレンはミケの頭を撫でる。


「オーガロードを猫パンチで吹き飛ばしたんだから。」


「ミャ。」


『がんばった』


「うん。頑張ったね。」


 アイリが嬉しそうにミケを撫でる。


「それにしても。」


 グレンは改めてミケを見る。


「獣化か……。」


「びっくりしたね。」


「びっくりで済ませていいのか?」


「ミケだもん。」


「それで全部片付けるのやめない?」


「ミャ?」


「本人は分かってないし。」


「可愛いからいいの。」


「はいはい。」


 グレンは宝箱へ向き直った。


「さて。」


 まず。


「罠察知。」


 反応なし。


「罠はない。」


「開ける?」


「ああ。」


 グレンが宝箱へ手をかける。


 ゆっくりと。


 蓋を開いた。


「……。」


「何が入ってる?」


「ちょっと待って。」


 中には。


 三つ。


 一冊のスキルブック。


 小さな青白い石。


 そして。


 金色に輝く金属の塊。


「三つも?」


「最深部の報酬だからかな。」


 グレンが最初に手に取ったのは。


 スキルブック。


「金色……。」


「金のスキルブック?」


「ああ。」


 グレンは鑑定する。


【ストレージ】


【異空間へ物品を収納する】


【収納容量は使用者の魔力量に依存】


【生物の収納は不可】


「……ストレージ。」


「何するスキル?」


「異空間に物を収納できる。」


「えっ?」


「マジックバッグみたいなものだと思う。」


「すごい!」


「しかも容量は魔力量次第。生き物は入れられないみたいだけど。」


「それでも十分便利だね。」


「ああ。」


 グレンは金色のスキルブックを見つめる。


「これは俺が覚えようか?」


「グレンが?」


「ああ。」


「何か理由あるの?」


「アイリが状態異常になって、魔法を使えなくなった時のため。」


「あ……。」


「麻痺したら、自分にキュアを使えないだろ?」


「うん。」


「そういう時は俺がアイテムでアイリを治さないといけない。」


「そっか。」


「回復薬や状態異常を治す薬を俺のストレージに入れておけば、すぐ使える。」


「うん。その方が安心だね。」


「俺が動けなくなる可能性もあるから、マジックバッグはアイリが持ってればいい。」


「二人で分けて持つんだね。」


「ああ。どっちかに何かあっても対応できるようにな。」


 アイリが嬉しそうに笑う。


「やっぱりグレンらしいね。」


「そうか?」


「うん。」


 グレンは金色のスキルブックを開いた。


「じゃあ、覚えるぞ。」


「うん。」


 光。


 スキルブックが消える。


【ストレージを習得しました】


「覚えた。」


「使ってみて。」


「ちょっと待って。」


 グレンは近くに置いていたマジックバッグを見る。


「ストレージ。」


 意識する。


 すると。


 自分の中に。


 不思議な空間の存在を感じた。


「……分かる。」


「本当に?」


「ああ。」


 マジックバッグから水筒を取り出す。


「これを……。」


 収納。


 次の瞬間。


 水筒が消えた。


「消えた!」


「入った。」


「出せる?」


「やってみる。」


 グレンが手を伸ばす。


 水筒。


 出現。


「おお。」


「便利!」


「これは便利だな。」


 グレンはマジックバッグの中身を見る。


「じゃあ、荷物を分けよう。」


「うん。」


「回復薬と状態異常を治す薬は、俺とアイリの両方が持つ。」


「食料と水も分ける?」


「ああ。」


「どっちかが動けなくなっても、もう片方だけで最低限動けるようにしておこう。」


「分かった。」


 回復薬。


 状態異常治療薬。


 食料。


 水。


 魔石。


 予備の装備。


 結界魔道具。


 野営用品。


 グレンのストレージと。


 アイリのマジックバッグ。


 二つへ分けていく。


「こんなもんかな。」


「うん。」


「じゃあ次。」


 グレンが青白い石を手に取る。


「これは?」


 鑑定。


【帰還転移石】


【ダンジョン内から入口へ転移できる】


【使用者が指定した同行者も同時に転移可能】


【魔力を補充することで繰り返し使用可能】


「……。」


「どうしたの?」


「今日、一番欲しかったかもしれない。」


「そんなに?」


「考えてみろ。」


 グレンが言う。


「今、十階層だぞ。」


「うん。」


「ここから入口まで歩いて戻らなくていい。」


「……。」


 アイリの目が輝いた。


「すごい!」


「だろ?」


「今すぐ使おう!」


「まだ!」


「え?」


「最後の一個見てない。」


「あ。」


「帰りたがりすぎ。」


「だって楽だもん。」


「気持ちは分かる。」


「ミャ。」


『かえる』


「ミケも帰りたいって。」


「お前は疲れてるだけだろ。」


「ミャ。」


『ねる』


「帰ったら寝るって。」


「はいはい。」


 最後。


 金色の金属。


 グレンが手に取る。


「重い。」


「金?」


「違うと思う。」


 表面は淡い金色。


 だが。


 ただの金とは明らかに違う。


 内部から。


 微かな魔力を感じる。


「鑑定。」


【オリハルコンインゴット】


「……。」


「グレン?」


「オリハルコン。」


「聞いたことある。」


「俺も。」


 さらに情報を見る。


【最高位金属の一つ】


【極めて高い強度と魔力伝導率を持つ】


【加工には上級鍛冶スキルが必要】


「……使えない。」


「え?」


「今の俺じゃ加工できない。」


「鍛冶持ってるよね?」


「それじゃ足りない。」


「上級鍛冶が必要だって。」


「そんなスキルあるんだ。」


「みたいだな。」


 グレンはオリハルコンインゴットを見る。


「せっかく最高位の素材を手に入れたのに。」


「残念?」


「いや。」


 グレンは首を振る。


「使えないなら保管するだけ。」


「いつか上級鍛冶を覚えればいい。」


「その時、何作る?」


「決まってるだろ。」


「何?」


「まずアイリの装備。」


「……。」


「どうした?」


「グレンの装備も作ってね?」


「材料が余ったら。」


「もう。」


「冗談だよ。」


「本当?」


「半分くらい。」


「グレン。」


「分かったって。」


 アイリが笑う。


「でも。」


「ん?」


「上級鍛冶、欲しくなったね。」


「ああ。」


「スキルブック合成で出ればいいけど。」


「そんな都合よく出るかな?」


「分からない。」


 グレンはオリハルコンをストレージへ収納する。


「だから面白いんだけどな。」


「それもそうだね。」


「さて。」


 グレンが帰還転移石を持つ。


「今度こそ帰るか。」


「うん!」


「ミャ。」


『かえる』


「全員同意だな。」


 グレンが帰還転移石へ魔力を流す。


「俺。」


「アイリ。」


「ミケ。」


 三人を指定。


 青白い光が広がる。


「お。」


「光ってる。」


「ミャ?」


 次の瞬間。


 景色が消えた。


 そして。


「……。」


「……。」


「ミャ。」


 目の前。


 見慣れた石造りの入口。


「本当に戻った。」


「一瞬だったね。」


「これは便利すぎる。」


 グレンが帰還転移石を見る。


「魔力を補充すればまた使えるんだよな。」


「次から帰りは楽になるね。」


「ああ。」


「問題は。」


「何?」


「もうこのダンジョン、最深部まで攻略したんだよな。」


「……。」


 二人が。


 ダンジョンの入口を見る。


 何度も潜った場所。


 少しずつ。


 少しずつ。


 深い階層へ進んできた。


 そして今日。


 十階層。


 最深部まで到達した。


「終わっちゃったね。」


 アイリが言う。


「ああ。」


「寂しい?」


「少し。」


 グレンは笑う。


「でも。」


「うん。」


「冒険者を辞めるわけじゃない。」


「そうだね。」


「ここを全部攻略したなら。」


 グレンはフォルンの街がある方向を見る。


「次を探せばいい。」


「ミャ。」


『ぼうけん』


「ミケも冒険するって。」


「もちろん。」


 グレンがミケの頭を撫でる。


「今度は三人でな。」


「うん。」


 まずは。


 ギルドへ報告。


 十階層。


 ダンジョン完全攻略。


 その報告をするため。


 三人はフォルンへ戻った。

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