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第71話 九階層のボス

 休憩を終えたグレンたちは、さらに九階層の奥へ進んでいた。


 結界魔道具の効果も確認できた。


 休憩中。


 何度か遠くに魔物の気配はあったが。


 こちらへ近付いてくることはなかった。


「ちゃんと効いてたな。」


「うん。」


「ミケも平気だったし。」


「ミャア。」


 アイリの腕の中で、ミケが鳴く。


「これなら野営でも使えそう。」


「ああ。」


「でも。」


 グレンが苦笑する。


「ミーナにはまだ言わない。」


「なんで?」


「売ろうとするから。」


「ふふっ。」


「しばらく魔道具作らないって決めたの。」


「はいはい。」


 そんな会話をしながら。


 二人と一匹は、やがて大きな扉の前へたどり着いた。


「ここか。」


「ボス部屋だね。」


 今までにも何度も見てきた。


 階層の最奥にある、巨大な扉。


「ミケ。」


「ミャ?」


「今度は雑魚じゃないからな。」


「戦わなくていいぞ。」


「ミャ。」


「分かってるかな?」


「分かってるよ。」


「アイリが言うと信用できない。」


「なんで?」


「ミケの言葉、全部都合よく解釈するから。」


「そんなことないもん。」


「ミャア。」


「ほら。」


「何がほらなんだよ。」


 グレンが笑う。


 そして。


 表情を引き締めた。


「行くぞ。」


「うん。」


 扉を開ける。


 その先。


 広い円形の石室。


 壁には青白い炎。


 中央。


 一体の騎士が立っていた。


「……。」


 黒い全身鎧。


 右手には巨大な剣。


 そして。


 首から上がない。


「やっぱりアンデッドだね。」


「ああ。」


 グレンが鑑定を使う。


【デュラハン】


【上位アンデッド】


【高い身体能力と耐久力を持つ首なし騎士】


【闇属性の力を纏った強力な斬撃を使用する】


「デュラハン。」


「強そう。」


「九階層のボスだからな。」


 グレンがミスリルソードを抜く。


「聖光剣。」


 白い光。


 アイリも支援を重ねる。


「身体強化。」


「クイック。」


「防御強化。」


「プロテクトオーラ。」


 淡い光が二人を包む。


「ミケは私が抱いてる。」


「頼む。」


「ミャ。」


 デュラハンが動いた。


 速い。


「来る!」


 グレンが前へ出る。


 巨大な剣。


 振り下ろされる。


「っ!」


 ミスリルバックラーで受けるのではなく。


 軌道をずらす。


 ガァン!


 大剣が石床へ叩きつけられた。


「重っ……!」


 まともに受ければ危険。


 グレンはそのまま横へ回り込む。


「はっ!」


 聖光剣。


 白い刃がデュラハンの脇腹を斬る。


 光が弾ける。


 だが。


「浅い!」


 黒い鎧が硬い。


 デュラハンが即座に振り返る。


 横薙ぎ。


 グレンが後ろへ飛ぶ。


 剣先が胸元を掠めた。


「グレン!」


「大丈夫!」


「ホーリーレイ!」


 アイリの放った聖なる光が、デュラハンを正面から包む。


 ジュッ!


 黒い鎧から煙が上がる。


 デュラハンが一歩下がった。


「効いてる!」


「ああ!」


 グレンが踏み込む。


「パワースラッシュ!」


 重い斬撃。


 デュラハンの大剣とぶつかる。


 ガァン!


「っ!」


 押し返される。


「力強いな!」


 デュラハンがさらに一歩踏み込む。


 大剣を振り上げた。


 黒い魔力が刃へ集まっていく。


「グレン、避けて!」


「ああ!」


 振り下ろされる。


 黒い斬撃が地面を走った。


 グレンが横へ飛ぶ。


 石床が大きく抉れる。


「これは食らいたくないな。」


「次来るよ!」


 デュラハンが再び剣を構える。


 だが。


 今度は。


 グレンではなく。


 後方のアイリへ身体を向けた。


「アイリ!」


「大丈夫!」


 アイリがミスリルバックラーを構える。


 しかし。


 デュラハンが走り出す。


 重装甲とは思えない速度。


「くそっ!」


 グレンが追う。


 間に合う。


 だがその時。


「ミャア!」


 アイリの腕の中。


 ミケが鋭く鳴いた。


「ミケ?」


 小さな前足が動く。


 床へ向けるように。


 次の瞬間。


 ゴゴッ!


「え?」


 石床が揺れた。


 デュラハンの足元。


 亀裂。


 そして。


 ズガガガガッ!


 地面から。


 鋭い岩の棘が一斉に突き出した。


「なっ!?」


 一本。


 二本。


 三本。


 複数の岩棘が。


 デュラハンの脚。


 鎧の隙間。


 そして胴体付近を貫く。


 ガァン!


 デュラハンの身体が止まった。


「……。」


「……。」


 グレンとアイリが固まる。


「今の……。」


 アイリがミケを見る。


「土魔法?」


「ミャ!」


 ミケが得意そうに鳴く。


「ミケみたい。」


「雷だけじゃないのは分かってたけど……!」


 デュラハンが大剣を振る。


 岩棘を砕こうとしている。


 だが。


 脚を固定され。


 すぐには動けない。


「グレン!」


「ああ!」


 今が好機。


 アイリがグリムゾンティアを向ける。


「ホーリーレイ!」


 白い光。


 動けないデュラハンへ直撃する。


 黒い鎧が大きく焼ける。


 デュラハンの動きが鈍る。


「これで!」


 グレンが走る。


 聖光剣。


 白く輝くミスリルソードを両手で構える。


 狙うのは。


 ホーリーレイで傷んだ胸部。


「はぁっ!」


 一閃。


 聖なる刃が。


 デュラハンの鎧を深く斬り裂いた。


 白い光が傷口から溢れる。


 デュラハンの身体が大きく揺れ。


 大剣が床へ落ちた。


 そして。


 ゆっくりと。


 崩れ落ちる。


「……終わった?」


 アイリが聞く。


 グレンは少し待つ。


 気配察知。


「……ああ。」


「終わった。」


「やった!」


「ミャア!」


「ミケもやったね!」


 アイリがミケを持ち上げる。


「ミャ!」


「すごかったよ!」


「……。」


 グレンがデュラハンの足元を見る。


 今も。


 地面から伸びた岩棘が残っている。


「鑑定。」


【アーススパイク】


【中級土属性魔法】


【地面から鋭い岩棘を発生させ、対象を攻撃・拘束する】


「やっぱり中級か。」


「雷の時と同じ?」


「ああ。」


「攻撃しながら動きまで止める魔法。」


「便利だね。」


「便利ってレベルかな……。」


 グレンがミケを見る。


 まだ小さい。


 アイリの腕の中に収まっている。


「幼体で中級雷魔法。」


「中級土魔法。」


「うん。」


「成体になったらどうなるんだよ。」


「強くなる。」


「それは分かる。」


「楽しみだね。」


「アイリは怖くないの?」


「全然。」


 即答。


「だってミケだもん。」


「またそれ。」


「ミャア。」


 グレンが笑う。


「でも助かったのは間違いないな。」


「あのままでも何とかできたと思うけど。」


「かなり楽になった。」


「ミケのおかげだね。」


「ああ。」


 グレンがミケの頭を軽く撫でる。


「ありがとな。」


「ミャ。」


「嬉しそう。」


「分かるの?」


「分かる。」


「はいはい。」


 二人はデュラハンの魔石を回収する。


 そして。


 部屋の奥。


 ボスを倒したことで。


 宝箱が現れていた。


「あった。」


「開ける?」


「その前に。」


「罠察知?」


「ああ。」


 確認。


「問題なし。」


 グレンが宝箱を開く。


 中には。


 金貨。


 素材。


 そして。


 一冊のスキルブック。


「お。」


「何色?」


 グレンが取り出す。


「青。」


「いいね。」


「鑑定してみる。」


 本の表紙へ意識を向ける。


【魔力感知】


「魔力感知。」


「どんなスキル?」


「周囲の魔力反応を感知できるみたい。」


「便利そう。」


「ああ。」


 魔物の魔力。


 魔道具。


 魔法の発動。


 そういったものを察知できるなら。


 探索にも戦闘にも使える。


「これは覚えていいな。」


「うん。」


 グレンがスキルブックを使用する。


 淡い光となって消える。


「どう?」


「……分かる。」


 意識を広げる。


 隣。


 アイリの魔力。


 その腕の中。


 小さな身体なのに。


「……。」


「どうしたの?」


「ミケ。」


「ん?」


「魔力、結構あるぞ。」


「そうなの?」


「ああ。」


「アイリと比べても?」


「さすがにアイリの方が上だけど。」


 グレンがミケを見る。


「幼体にしては明らかに多い。」


「やっぱりすごいね。」


「そうだな。」


「ミャ。」


 ミケ本人は。


 褒められていることだけは分かっているのか。


 得意そうに尻尾を揺らしていた。


「じゃあ。」


 アイリが奥を見る。


 ボス部屋の先。


 十階層へ続く階段。


「次は十階層だね。」


「ああ。」


「でも今日は戻る。」


「うん。」


「ミケも結構魔法使ったし。」


「そうだな。」


「初めてのダンジョンで無理させる必要ない。」


 グレンが頷く。


「帰ろう。」


「うん。」


「ミャア。」


 二人と一匹。


 九階層攻略。


 そして。


 初めて挑んだボス戦。


 ミケはそこで。


 ただ守られるだけの存在ではなく。


 もう立派に。


 二人の冒険を助ける仲間になり始めていた。

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