第70話 幼体の実力
翌朝。
グレンとアイリは、ミケを連れてダンジョンへ向かっていた。
「ほんとに連れてくんだな。」
「うん。」
アイリの腕の中。
ミケは大人しく抱かれている。
「ミャア。」
「可愛い。」
「今日何回目?」
「まだ三回くらい。」
「朝から?」
「うん。」
「少ない方なのか……。」
グレンが苦笑する。
もちろん。
今日はミケを戦わせるつもりはない。
まだ孵化したばかりの幼体。
まずはダンジョンの雰囲気に慣れさせる程度。
「危なくなったらすぐ戻るからな。」
「分かってるよ。」
「ミケも。」
「ミャ。」
「返事した?」
「した。」
「ほんとに?」
「したの。」
そんな会話をしながら。
二人と一匹は九階層へ入った。
薄暗い地下墓地。
青白い炎。
石棺。
前回と変わらない不気味な景色。
「ミケ、怖くない?」
「ミャア。」
「大丈夫みたい。」
「ほんとか?」
ミケはむしろ興味深そうに周囲を見ている。
耳をぴくぴく動かし。
時折。
鼻を鳴らしていた。
「魔物だから、こういう場所慣れてるのかな。」
「生まれたの家だぞ。」
「あ、そっか。」
「まだ外出二回目くらいだからな。」
「ミャ。」
しばらく進む。
グレンが足を止めた。
「いる。」
「何体?」
「五。」
前方。
墓石の陰から。
人影が現れる。
「鑑定。」
【ワイト】
【上位アンデッド】
五体。
剣や槍を持っている。
「前と同じだね。」
「ああ。」
グレンがミスリルソードを抜く。
「アイリ、ミケ頼む。」
「うん。」
「戦わせないからね。」
「分かってる。」
アイリはミケを片腕でしっかり抱く。
もう片方の手。
グリムゾンティアを構える。
「身体強化。」
「クイック。」
支援魔法。
グレンが前へ出る。
「聖光剣。」
ミスリルソードが白い光をまとう。
ワイトたちもこちらへ走り出した。
「来るぞ。」
「うん。」
その瞬間。
「ミャ。」
アイリの腕の中で。
ミケの耳がぴくりと動いた。
「ん?」
次の瞬間。
バチッ。
「……え?」
ミケの身体から。
青白い雷が走る。
「ミケ?」
小さな口が開く。
「ミャア!」
バリバリバリッ!!
「うわっ!?」
グレンが思わず足を止めた。
ミケの前方。
眩しい雷撃が一気に広がった。
一本ではない。
地面を走り。
次々と枝分かれし。
五体のワイトをまとめて飲み込む。
「ギィィィィッ!」
轟音。
青白い閃光。
そして。
数秒後。
「……。」
「……。」
ワイトは。
一体も残っていなかった。
「……え?」
グレンが剣を構えたまま固まる。
アイリも固まっている。
「ミャ。」
当のミケだけが。
何事もなかったようにアイリの腕の中で尻尾を揺らした。
「……。」
グレンがゆっくり振り返る。
「今の。」
「うん。」
「アイリじゃないよな?」
「私、雷魔法使えないよ。」
「だよな。」
二人の視線が。
同時にミケへ向く。
「ミャ?」
「……。」
グレンが鑑定する。
「鑑定。」
【ラグナリンクス・幼体】
【属性:雷・土】
【使用魔法:サンダーチェイン】
「サンダーチェイン?」
「なにそれ?」
「中級の雷魔法。」
「中級!?」
「ああ。」
グレンが目の前を見る。
さっきまで五体いたワイト。
完全に消滅している。
「……幼体でこの破壊力なのか!?」
思わず声が大きくなる。
「ミャア。」
「褒められたと思ってるよ。」
「褒めてるというか驚いてるんだよ!」
アイリがミケを持ち上げる。
「すごいね、ミケ!」
「ミャ!」
「嬉しそう。」
「いやいや。」
グレンが剣を下ろす。
「待って。」
「何?」
「生まれてまだ何日だ?」
「二日くらい?」
「それで中級魔法?」
「使っちゃったね。」
「使っちゃったね、じゃないよ!」
アイリが笑う。
「でも。」
「ん?」
「これならミケも戦えるね。」
「いや。」
「まだ早い。」
「でも今全部倒したよ?」
「結果だけ見ればそうだけど。」
グレンはミケを見る。
「魔力どれくらい使ったか分からないし。」
「連発できるかも分からない。」
「それもそうだね。」
「今日は戦わせない。」
「分かった。」
「ミャ。」
「不満そう。」
「気のせい。」
だが。
数分後。
再び敵が現れた。
今度は。
三体のグール。
「来た。」
グレンが剣を構える。
「ミケ。」
アイリが先に言う。
「今度はダメだよ。」
「ミャ。」
グールが走ってくる。
グレンが一歩出る。
その瞬間。
ミケの前足がぴくりと動いた。
バチッ。
「ミケ!」
「ミャア!」
バリッ!
今度は先ほどより小さな雷。
一体のグールへ直撃。
吹き飛ぶ。
「……。」
「……。」
「またやった。」
「やったね。」
「アイリ。」
「なに?」
「止める気ある?」
「あるよ!」
「ほんと?」
「ほんと!」
ミケは得意そうに胸を張っている。
「ミャ。」
「絶対自慢してる。」
「してるね。」
「分かるんだ。」
「分かる。」
残り二体。
今度こそ。
グレンが聖光剣で倒した。
「はぁ。」
剣を下ろす。
「なんか。」
「どうしたの?」
「俺たちよりミケの方が目立ってない?」
「今日は初戦闘だから。」
「そういう問題?」
アイリが笑う。
「でもラグナリンクスって、本当にすごい魔物なんだね。」
「ああ。」
「ガレスが伝説に残ってるって言ってた意味、ちょっと分かった。」
グレンはミケを見る。
まだ小さい。
アイリの腕の中に収まるほど。
なのに。
中級雷魔法。
「土属性もあるんだよな。」
「あるね。」
「……何使うんだろ。」
「楽しみ。」
「怖くない?」
「楽しみ。」
「即答。」
「だってミケだもん。」
「理由になってない。」
「なるの。」
アイリがミケの頭を撫でる。
「ね?」
「ミャア。」
「ほら。」
「はいはい。」
その後。
二人は前回休憩した墓室へ向かった。
「今度こそ。」
グレンがマジックバッグから小箱を取り出す。
「結界魔道具。」
「やっと使えるね。」
「ああ。」
床へ置く。
起動。
聖属性の魔力が。
周囲へ静かに広がっていく。
「ミケは?」
「ミャ。」
普通に結界内へ入っている。
「登録ちゃんと効いてるな。」
「よかった。」
二人は座る。
ミケもアイリの膝の上へ。
「……。」
「どうしたの?」
グレンがミケを見る。
「本当に幼体なんだよな?」
「鑑定でそう出てたよ。」
「成体になったらどうなるんだよ。」
「もっと強くなる?」
「だろうな。」
「楽しみだね。」
「アイリ。」
「ん?」
「俺ちょっと怖くなってきた。」
「大丈夫。」
「何が?」
「ミケはいい子だから。」
「戦闘力の話なんだけど。」
「ミャ。」
「ほら。」
「だから何がほらなんだよ。」
アイリが楽しそうに笑う。
九階層。
久しぶりの冒険。
そのはずだった。
だが。
二人の新しい仲間は。
初めての戦闘で。
早くも。
伝説級魔獣の片鱗を見せ始めていた。




