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第68話 領主様からの依頼

 翌朝。


「あっ……。」


 朝食を食べていたグレンが、突然手を止めた。


「どうしたの?」


 向かいに座っていたアイリが首を傾げる。


「結界の魔道具作るの忘れてた。」


「……あ。」


「アイリも忘れてた?」


「ミケが可愛かったから。」


「理由になってない。」


「グレンも忘れてたじゃん。」


「それはそう。」


「ミャア。」


 足元でミケが鳴く。


 アイリがすぐに抱き上げた。


「ほら、ミケもそう言ってる。」


「絶対言ってない。」


「言ってるもん。」


「はいはい。」


 グレンは残りの朝食を口へ運ぶ。


「今日は聖属性の魔石買いに行くか。」


「うん。」


「結界魔道具作ってから、また九階層行こう。」


「今度こそ忘れないようにね。」


「誰のせいで忘れたと思ってるんだ。」


「ミケ?」


「ミケのせいにするなよ。」


「ミャ。」


 朝食を終え。


 二人はミケを連れて冒険者ギルドへ向かった。


 ミケの首には。


 昨日グレンが作った首輪。


 アイリの指には、それと対になる指輪。


 街中を歩く間も。


 ミケはアイリの腕の中で大人しくしていた。


「おはようございます。」


 ギルドへ入ると。


 受付にいたミーナが笑顔を向ける。


「おはよう。」


「おはよう、ミーナちゃん。」


「ミャア。」


「あ、ミケちゃん。」


 ミーナの表情が一気に緩む。


「今日も可愛いですね。」


「でしょ?」


 アイリが嬉しそうに答える。


「……あれ?」


 ミーナがミケの首元を見る。


「その首輪、昨日の登録用ですよね?」


「登録証は付いてるけど。」


 アイリが首輪を少し見せる。


「首輪自体はグレンが作ったの。」


「グレンさんが?」


「ああ。」


「せっかく付けるならと思って。」


 ミーナが首輪を覗き込む。


 中央。


 登録証の横に、小さな魔石が埋め込まれている。


「これ、魔道具なんですか?」


「そう。」


 アイリが自分の手を見せた。


「こっちの指輪と対になってるの。」


「指輪?」


「ミケがどこにいるか分かるんだよ。」


「……え?」


 ミーナが固まった。


「どこにいるか?」


「方向と、だいたいの距離だけだけどな。」


 グレンが説明する。


「首輪と指輪に同じ魔力反応を持たせてある。」


「アイリが指輪に魔力を流せば、ミケがどっちにいるか分かる。」


「……。」


 ミーナが首輪。


 指輪。


 そしてグレンを見る。


「それ。」


「ん?」


「テイマーの人に売れませんか?」


「また売る話?」


「だって便利ですよ!」


 ミーナが身を乗り出す。


「森やダンジョンでテイムモンスターとはぐれたら大変なんですよ?」


「飛べる魔物や、足の速い魔物ならなおさらです。」


「まあ。」


 グレンが頷く。


「確かに使い道はあるな。」


「ありますよ!」


 アイリがくすくす笑う。


「ミーナちゃん、商売の話になると早いね。」


「ギルド職員ですから!」


「胸張って言うこと?」


「大事なことです。」


 ミーナは真顔だった。


「これ、欲しがるテイマーかなりいると思います。」


「注文が来たら作るくらいならいいけど。」


「量産はしないよ。」


「分かってます。」


 グレンが頷く。


「それより今日は聖属性の魔石を買いに来た。」


「聖属性?」


「ああ。」


「九階層で休憩してる時に思いついて。」


「魔物避けの結界魔道具作れないかなって。」


「……。」


 ミーナがまた止まる。


「今度は結界ですか?」


「まだ作れるって決まってない。」


「でも作るつもりなんですよね?」


「試すだけ。」


「それも売れそうですね。」


「早い早い。」


「冒険者なら欲しいと思いますよ。」


「野営中に魔物が近寄りにくくなるんですよね?」


「上手くいけば。」


「絶対需要あります。」


「まだ完成してないから。」


「完成したら教えてください。」


「また?」


「はい。」


 グレンが苦笑する。


「分かったよ。」


 ミーナが聖属性の魔石を用意しようとしたところで。


「あー。」


 何か思い出したように声を漏らした。


「そういえば。」


「ん?」


「頼まれるなら。」


 ミーナがにっこり笑う。


「もう来てますよ?」


「……何が?」


「依頼です。」


「誰から?」


「領主様からです。」


「……は?」


「魔道具を作ってほしいそうです。」


「早くない!?」


 アイリが吹き出した。


「もう領主様まで知ってるんだ。」


「昨日、ギルドの暖房魔道具を見た商人の方から話が広がったみたいです。」


「早すぎるだろ……。」


「領主様のところにも話が届いたそうです。」


 グレンが額を押さえる。


「何を作ってほしいって?」


「詳しい話はギルド長から聞いてください。」


「またガレス?」


「はい。」


「最近呼ばれすぎじゃない?」


 アイリが笑う。


「グレンが色々作るからでしょ。」


「俺のせい?」


「たぶん。」


 ミーナも頷く。


「グレンさんのせいですね。」


「二対一かよ。」


「ミャ。」


「ミケまで?」


 ミーナに聖属性の魔石を取り置いてもらい。


 二人はギルド長室へ向かった。


 扉を叩く。


「入れ。」


「失礼します。」


 中へ入ると。


 ガレスが机の上の書類を見ていた。


「来たか。」


「また呼ばれた。」


「嫌そうだな。」


「嫌じゃないけど。」


「冒険に行く暇なくなってきてる。」


「それは知らん。」


 ガレスが書類を一枚持ち上げる。


「領主様から依頼が来ている。」


「ミーナから聞いた。」


「内容は?」


「生活魔道具一式。」


「一式?」


「暖房魔道具。」


「冷蔵庫。」


「洗濯魔道具。」


「まあ、その三つだよな。」


「数は?」


 ガレスが書類を見る。


「暖房魔道具。」


「領主館の全室分。」


「……全部?」


「ああ。」


「何台?」


「二十四台。」


「多いよ!」


 アイリが笑いを堪えている。


「領主様のお屋敷だもんね。」


「分かるけど。」


「冷蔵庫は?」


「厨房用の大型を三台。」


「洗濯魔道具は?」


「大型を四台。」


「……。」


 グレンが黙った。


「冒険行けないじゃん。」


「依頼だからな。」


「断っても構わんぞ。」


 ガレスが言う。


「本当に?」


「ああ。」


「領主様も強制するつもりはない。」


「金額についても、お前たちの条件で構わないそうだ。」


「材料費と。」


「製作中に俺とアイリが冒険へ行けない分の日当?」


「ああ。」


「そこまで了承済みだ。」


「話早いな。」


「それくらいは先に確認してある。」


 グレンは少し考える。


「どうする?」


 アイリが聞く。


「うーん。」


 暖房二十四台。


 大型冷蔵庫三台。


 大型洗濯魔道具四台。


 かなりの数。


 だが。


「同じものばっかりなんだよな。」


「そうだね。」


「一度作ったやつなら、最初ほど時間かからない。」


 実際。


 ミーナ用の魔道具を作った時も。


 二台目。


 三台目。


 どんどん早くなっていた。


「大型は少し調整必要だけど。」


「暖房はほぼ同じ構造でいける。」


「じゃあ受ける?」


「……やってみるか。」


「よし。」


 ガレスが頷く。


「では正式に受注ということでいいな。」


「ああ。」


「材料も領主側で用意するそうだ。」


「魔石も?」


「ああ。」


「必要な属性と数を伝えれば用意する。」


「それはありがたい。」


 グレンが立ち上がる。


「じゃあ作るよ。」


「頼む。」


 数日後。


 二人の家には。


 大量の素材と魔石が運び込まれていた。


「……。」


「すごい量だね。」


「分かってたけど。」


 グレンがため息をつく。


「二十四台は見ると多いな。」


「頑張ろう。」


「アイリは手伝えるところ頼む。」


「任せて。」


 まずは暖房魔道具。


 一台目。


 箱を組み。


 魔力回路を刻み。


 火と風の魔石を取り付ける。


「完成。」


「早い。」


「慣れた。」


 二台目。


 三台目。


 四台目。


「……。」


「グレン。」


「ん?」


「どんどん早くなってない?」


「俺も思ってた。」


 同じ魔力回路。


 同じ構造。


 何度も繰り返しているうちに。


 ほとんど迷わなくなっている。


「最初の暖房作った時、かなり時間かかったよね。」


「ああ。」


「今は?」


「一台作るのに、あの時の半分もかかってない。」


「職人みたい。」


「冒険者なんだけどな。」


「魔道具師でもあるよ。」


「そういえばそうだった。」


 二人で笑う。


 翌日。


「十二台。」


「半分。」


「思ったより早い。」


「もう少し頑張る?」


「ああ。」


 さらに。


 十三。


 十四。


 十五。


 同じ作業を繰り返す。


 魔道具作成のスキルも。


 経験を積むほど扱いやすくなっていく。


 数日後。


「……二十四。」


 グレンが最後の暖房魔道具を置いた。


「終わった!」


「暖房だけね。」


「言うな。」


 アイリが笑う。


「次は冷蔵庫三台。」


「大型。」


「それから洗濯魔道具四台。」


「大型。」


「……。」


「冒険行きたい?」


「行きたい。」


「もうちょっと。」


「分かってる。」


 大型冷蔵庫は。


 自宅用より広い箱を作り。


 複数の氷属性魔石を使って内部を均等に冷却する。


 厨房で大量の食材を保存できるように。


 棚も多く。


 扉も大きい。


「こんな感じかな。」


「これなら肉いっぱい入るね。」


「領主館だからな。」


 三台。


 こちらも。


 一台目より二台目。


 二台目より三台目。


 早く完成した。


 最後。


 大型洗濯魔道具。


「これが一番面倒かも。」


「水量多いもんね。」


「回転させる力も必要。」


 水属性。


 風属性。


 複数の魔石を使い。


 大量の衣類を一度に洗えるようにする。


「動く?」


「試す。」


 起動。


 大量の水。


 ゆっくり回転。


 徐々に速度を上げる。


「問題なし。」


「四台作ろう。」


「はい。」


 そして。


 さらに数日。


「……終わった。」


 グレンが床へ座り込んだ。


「全部?」


「ああ。」


「暖房二十四。」


「冷蔵庫三。」


「洗濯四。」


「全部完成。」


「お疲れさま。」


 アイリが隣へ座る。


「思ったより早かったね。」


「最初に聞いた時はもっとかかると思った。」


「慣れってすごいな。」


「同じもの作るなら、もうかなり早くできる。」


「ほんとに職人だね。」


「だから冒険者。」


「はいはい。」


 納品の日。


 大量の魔道具は領主館へ運び込まれた。


 暖房魔道具は各部屋へ。


 大型冷蔵庫は厨房へ。


 大型洗濯魔道具は洗濯場へ。


 一つずつ設置し。


 動作を確認していく。


「問題なし。」


「こっちも大丈夫。」


 最後の一台まで確認を終える。


 領主館の担当者が、並んだ魔道具を見ながら感心したように息を吐いた。


「これほど早く全て完成するとは思いませんでした。」


「俺もです。」


「グレン。」


「本当だから。」


 アイリが笑う。


「こちらが今回の報酬になります。」


 担当者から袋を受け取る。


 グレンが中を確認し。


「……ん?」


 もう一度見る。


「多くない?」


「はい。」


「最初に聞いてた金額よりかなり多いけど。」


「領主様からの謝礼が加えられております。」


「謝礼?」


「これだけの数を、予定していたよりも早く仕上げていただきましたので。」


 担当者が穏やかに笑う。


「領主様から、相応の評価をするようにとのことでした。」


「でも。」


「材料費と、俺たち二人の日当はもう入ってるんだよな?」


「もちろんです。」


「その上での謝礼です。」


「……。」


 グレンがアイリを見る。


「どうする?」


「どうするって。」


 アイリが笑う。


「領主様がくださるって言ってるんだから、ありがたくいただこうよ。」


「そうだな。」


 グレンは担当者へ頭を下げる。


「ありがとうございます。」


「領主様にもお伝えください。」


「承知しました。」


 領主館を出る。


 帰り道。


 グレンが改めて報酬袋を見る。


「……。」


「どうしたの?」


「これ。」


「ん?」


「下手なダンジョン探索より稼げない?」


 アイリがグレンを見る。


「グレン。」


「はい。」


「冒険行きたいんでしょ?」


「行きたい。」


「じゃあ考えない。」


「はい。」


「ふふっ。」


 グレンも笑う。


「次こそ九階層。」


「その前に。」


「ん?」


「結界魔道具。」


「……。」


「あ。」


「また忘れてた?」


「忘れてた。」


「ミケのせい?」


「今回は領主様のせい。」


「人のせいにしないの。」


「はい。」


「ミャア。」


「ミケまで怒るなよ。」


 こうして。


 大量の魔道具作りを終えた二人は。


 今度こそ。


 冒険へ戻るための準備を始めるのだった。

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