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第65話 休憩と新しい魔道具

 九階層の探索を始めてから、しばらく。


 グレンとアイリは、いくつかのグールやワイトを倒しながら、地下墓地の奥へ進んでいた。


「……そろそろ休むか。」


 グレンが足を止める。


「うん。」


 アイリも頷いた。


 戦闘自体は問題ない。


 聖光剣。


 ホーリーレイ。


 九階層のアンデッドとは相性がいい。


 だが。


 だからといって、疲れないわけではない。


「休めそうな場所探そう。」


「そうだな。」


 少し先。


 通路から外れた場所に、小さな墓室があった。


 石棺が二つ。


 他に出入口は一つだけ。


 グレンが中を確認する。


「気配なし。」


「罠も?」


「ない。」


 隠し空間感知にも反応はない。


「ここならいいか。」


「うん。」


 二人は墓室へ入る。


 グレンが入口の近くへ座り。


 アイリもその隣へ腰を下ろした。


「はぁ。」


 小さく息を吐く。


「やっぱりダンジョン来ると落ち着くな。」


「それ、普通の人が聞いたら変だと思うよ。」


「そう?」


「地下墓地で言ってるんだよ?」


「……確かに。」


 二人で笑う。


 アイリがストレージから飲み物を取り出した。


「はい。」


「ありがとう。」


 一口。


 冷たい水が喉を通る。


「冷蔵庫に入れてたやつ?」


「うん。」


「持ってきたのか。」


「せっかくだから。」


「冬なのに。」


「いいじゃん。」


 グレンは笑いながら、もう一口飲んだ。


 少し休む。


 だが。


 アイリは何度か墓室の入口へ視線を向けていた。


「落ち着かない?」


「ちょっと。」


「やっぱり?」


「だって。」


 周囲を見回す。


「ここ、地下墓地だよ?」


「それはそうだな。」


「今は気配なくても、休んでる間に来るかもしれないし。」


「見張り交代する?」


「それでもいいけど。」


 アイリが少し考える。


「……ねえ。」


「ん?」


「魔道具で何とかできない?」


「魔道具?」


「うん。」


「暖房とか洗濯機とか作れたんだから。」


「魔物が近付かないようなやつ。」


「魔物避けか。」


 グレンは少し考える。


「……聖属性。」


「え?」


「聖属性の魔石ってあったよな。」


「あるね。」


 冒険者ギルドでも扱われている。


 他の属性より少し高いが、珍しすぎるものではない。


「魔物って基本、聖属性嫌うだろ?」


「うん。」


「アンデッドなら特に。」


「普通の魔物も近寄りたがらないよね。」


「だったら。」


 グレンは床を指差した。


「聖属性の魔石を中心にして、周囲へ聖属性の魔力を広げる魔道具を作れないかな。」


「結界?」


「そんな感じ。」


「おお。」


 アイリの目が輝く。


「それ便利そう。」


「だろ?」


「休憩だけじゃなくて、野営でも使えるよ。」


「ああ。」


「夜寝てる時とか。」


「魔物が近寄りにくくなるだけでも全然違う。」


「欲しい。」


「まだ作れるか分からないぞ。」


「グレンなら作れる。」


「期待が重い。」


「暖房も洗濯機も冷蔵庫も作ったじゃん。」


「全部仕組みは比較的単純だったからな。」


「結界は?」


「ちょっと違う。」


 魔力を一点で使うのではなく。


 一定範囲へ広げ。


 その状態を維持する必要がある。


「でも。」


 グレンが腕を組む。


「魔道具作成の知識的には、できそうな気はする。」


「本当?」


「ああ。」


「魔石から聖属性の魔力を放出させて。」


「一定範囲を覆うように回路を組めば。」


「魔物が嫌がる場所を作れるかもしれない。」


「じゃあ帰ったら作ろう。」


「決定早いな。」


「だって欲しいもん。」


「まあ俺も欲しいけど。」


 グレンも笑う。


「ただ、強い魔物まで完全に止められるとは思わない方がいいな。」


「うん。」


「弱いやつなら近寄らない。」


「普通の魔物も嫌がって避ける。」


「でも強いやつなら、嫌でも入ってくるかもしれない。」


「それでも十分だよ。」


「ああ。」


「何もないよりずっといい。」


「アンデッド相手ならもっと効きそうだし。」


「九階層で試せるね。」


「作れたらな。」


「作れるって。」


「だから期待が重いって。」


 アイリが楽しそうに笑った。


「また新しい魔道具増えるね。」


「今度は家電じゃないけどな。」


「冒険用品。」


「そっちも作れるって分かったら便利だな。」


 グレンは少し考える。


「魔道具作成。」


「思ってたより使い道多いかも。」


「鍛冶選んだ時もそうだったけど。」


「グレン、生活系のスキル好きだよね。」


「生活が楽になるからな。」


「戦うだけが冒険じゃないし。」


「そうだね。」


 しばらく休み。


 二人は立ち上がった。


「もう大丈夫?」


「ああ。」


「アイリは?」


「大丈夫。」


 グレンが入口へ近付く。


 気配察知。


「……いるな。」


「もう来た?」


「通路に二体。」


「やっぱり休憩中も油断できないね。」


「そういうこと。」


 剣を抜く。


 白い光をまとわせる。


「聖光剣。」


 アイリもグリムゾンティアを構えた。


「帰ったら結界魔道具。」


「忘れないよ。」


「絶対だよ?」


「はいはい。」


 二人は墓室を出る。


 通路の先。


 青白い炎の下から。


 二体のワイトが姿を現した。


「いくぞ。」


「うん。」


 ワイトが剣を構える。


 グレンが前へ。


 一体目の斬撃をミスリルバックラーで受け流す。


 そのまま。


「はっ!」


 聖光剣。


 光の刃がワイトを斬り裂く。


 崩れる。


 もう一体が横から迫る。


「ホーリーレイ!」


 白い光。


 まともに受けたワイトが動きを止める。


「グレン!」


「ああ!」


 踏み込む。


 一閃。


 二体目も消滅した。


「やっぱり相性いいね。」


「楽ではあるな。」


「でも。」


 グレンは周囲を見る。


「この先もずっと同じとは限らない。」


「だね。」


 さらに奥へ進む。


 地下墓地は次第に広くなっていった。


 石棺の数も増える。


 壁には古びた彫刻。


 ところどころ。


 崩れた鎧や武器。


「昔、本当に墓地だった場所をダンジョンが再現してるのかな。」


「どうだろうな。」


 グレンが鑑定を使いながら周囲を見る。


「少なくとも雰囲気は本物っぽい。」


「怖いこと言わないで。」


「さっき幽霊見ても平気だっただろ。」


「あれは魔物だから。」


「墓地は?」


「雰囲気が嫌。」


「なるほど。」


 少し先。


 広い場所へ出た。


 中央に一本の石柱。


 その周囲。


 黒い霧が漂っている。


「止まって。」


「いる?」


「ああ。」


 気配察知。


「一体。」


「でも大きい。」


 黒い霧の中。


 ゆっくりと人影が立ち上がった。


 全身を黒いローブで覆い。


 顔は見えない。


 手には長い杖。


「鑑定。」


【ダークプリースト】


【上位アンデッド】


【闇属性魔法と呪術を使用する】


「魔法使いか。」


「遠距離戦になりそう。」


「ああ。」


 ダークプリーストが杖を上げる。


 黒い魔力が集まり始めた。


「来る。」


「プロテクトオーラ!」


 淡い光が二人を包む。


 直後。


 黒い球体が飛んできた。


「アイリ!」


「うん!」


 二人が左右へ分かれる。


 黒い球体が床へ着弾。


 石が黒く変色する。


「嫌な感じ。」


「触らない方がよさそうだな。」


 グレンが走る。


 だが。


 ダークプリーストが次の魔法を放つ。


「させない!」


 アイリがグリムゾンティアを向ける。


「エアーカッター!」


 広がる風刃。


 ダークプリーストの身体を切り裂く。


 だが倒れない。


「ホーリーレイ!」


 続けて聖なる光。


「ギィィィィッ!」


 初めて大きく怯んだ。


「今!」


「ああ!」


 グレンが一気に距離を詰める。


「聖光剣!」


 光をまとったミスリルソード。


 振り下ろす。


 ダークプリーストの身体が白い光に包まれ。


 そのまま崩れ落ちた。


「……終わった。」


「結構強かったね。」


「ああ。」


 グレンは剣を下ろす。


「近付ければどうにかなるけど。」


「魔法連発されたら面倒だった。」


「九階層らしくなってきたね。」


「八階層より一段上がった感じはする。」


 二人は魔石を回収する。


 そして。


「休憩して正解だったな。」


「うん。」


「結界魔道具できたら、もっと安心して休めるね。」


「帰ったら作る。」


「約束ね。」


「ああ。」


 グレンは奥へ続く通路を見る。


 まだ九階層の探索は始まったばかり。


 それでも。


 新しい魔法。


 新しい魔道具の発想。


 少しずつ。


 二人の冒険は、また次の形へ進み始めていた。

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