第63話 魔道具の注文
翌朝。
グレンとアイリは、再び冒険者ギルドを訪れていた。
「おはようございます!」
受付にいたミーナが、いつもより少し嬉しそうに頭を下げる。
「おはよう。」
「おはよう、ミーナちゃん。」
グレンはカウンターの前に立つと、メモを取り出した。
「昨日の分、材料を買いに来た。」
「私の魔道具ですね!」
「そう。」
暖房魔道具。
洗濯魔道具。
冷蔵庫。
三つ作るとなれば、それなりの数の魔石が必要になる。
「火属性と風属性。それから水属性と氷属性。」
「大きさは昨日使ったのと同じくらいでいいかな。」
「分かりました。確認してきますね。」
ミーナが奥へ向かおうとして。
「あ、それと。」
「ん?」
「グレンさんとアイリさん、ギルド長がお呼びです。」
「……。」
グレンがミーナを見る。
「ミーナ?」
「はい?」
「もう話したの?」
「……話しちゃいました。」
ミーナが笑った。
「早いな!」
「だって昨日戻ったら、ギルド長に何してたのか聞かれたので。」
「それで全部?」
「暖房魔道具の話をしたら興味を持たれて……。」
「洗濯魔道具と冷蔵庫も?」
「話しちゃいました。」
「二回言った。」
アイリがくすくす笑う。
「別に隠してないんだからいいじゃない。」
「まあ、そうだけど。」
「じゃあ材料を用意しておきますので、先にギルド長のところへどうぞ。」
「ああ。」
二人は受付を離れ、ギルド長室へ向かった。
扉を叩く。
「入れ。」
「失礼します。」
中へ入ると、ガレスが机の向こうに座っていた。
「来たか。」
グレンとアイリが椅子へ座る。
「ミーナから聞いたよ。」
グレンが言う。
「俺たちに用があるって?」
「ああ。」
ガレスは二人を見る。
「お前、魔道具まで作り始めたそうだな。」
「覚えたから試してみただけだよ。」
「それで暖房と洗濯、それに食料を冷やして保存する箱を作ったと。」
「冷蔵庫。」
「その冷蔵庫というやつだ。」
ガレスが腕を組む。
「ミーナから一通り聞いた。」
「全部話されてた。」
「秘密だったのか?」
「いや。」
「なら問題ないだろう。」
「まあね。」
ガレスは少し笑ったあと、本題に入った。
「それでだ。」
「うん。」
「暖房魔道具を、ギルドにも一つ作ってもらえないか。」
「ギルドに?」
「ああ。」
「受付の辺りに置きたい。」
ガレスが扉の向こうへ視線を向ける。
「冬場は依頼帰りの冒険者が濡れたまま戻ってくることもある。」
「待合も冷える。」
「火を焚いてはいるが、人が多いと十分とは言えん。」
「なるほど。」
アイリが頷く。
「暖房魔道具なら煙も出ないしね。」
「そういうことだ。」
グレンは少し考える。
「作るのはいいけど。」
「条件はミーナと同じでいい?」
「材料費と、お前たち二人が冒険に出られない間の日当だったな。」
「うん。」
「構わん。」
即答だった。
「むしろそれでいいのか?」
「俺たちが損しなければいいよ。」
「魔道具屋になる気はないし。」
「欲がないな。」
「冒険者だから。」
「そうだったな。」
ガレスが苦笑する。
「では正式にギルドから依頼する。」
「了解。」
話がまとまり。
二人はギルド長室を出た。
受付へ戻ると、ミーナの前にはいくつもの小箱が並んでいた。
「必要そうな魔石を用意しました。」
「ありがとう。」
「それと……。」
ミーナが少し不安そうに聞く。
「ギルド長、何の話でした?」
「暖房が欲しいって。」
「ああ。」
「やっぱり。」
「やっぱり?」
「暖房魔道具の話をした時、すごく興味を持ってたので。」
「それで全部話したの?」
「……話しちゃいました。」
「まあ、別に隠してないからいいけど。」
アイリがくすくす笑う。
「これで作るの一つ増えたね。」
「すみません。」
「いいよ。ちゃんと依頼として受けるんだし。」
グレンが笑う。
「ミーナの三つを先に作るよ。」
「本当ですか!」
ミーナの顔がぱっと明るくなる。
「やった!」
「そこは嬉しいんだ。」
「もちろんです!」
グレンは必要な魔石を確認する。
ミーナ用の暖房に火と風。
洗濯魔道具に水と風。
冷蔵庫に氷。
そしてギルド用の暖房にも火と風。
「結構あるな。」
「大丈夫?」
「作ること自体は。」
「ただ、今日と明日はほぼこれで終わるな。」
「じゃあ頑張ろう。」
「ああ。」
代金を支払い。
二人は魔石を持って家へ戻った。
まずはミーナ用から。
昨日までに一度作っているため、最初ほど手探りではない。
「暖房からいくか。」
「うん。」
箱を組み。
火属性の魔石と風属性の魔石を取り付ける。
魔力回路を刻み。
熱量と風量を調整する。
自宅用で気になった部分も少し改良した。
「前より早いね。」
「一回作ってるからな。」
昼前には暖房魔道具が完成。
「試すぞ。」
「うん。」
起動。
暖かな風が流れる。
「問題なし。」
「一個目完成。」
「次、洗濯。」
こちらも基本構造は同じ。
「ミーナ、一人暮らしだよな?」
「そうだね。」
「なら俺たちのより少し小さくていいか。」
「その方が置きやすそう。」
大きさを調整。
水を溜め。
回転させ。
排水。
さらに水切り。
「よし。」
「二個目。」
「次は冷蔵庫。」
「今日全部作るの?」
「できるところまで。」
氷属性の魔石を使い。
箱の内部だけを冷やす。
こちらも自宅用より少し小型にした。
夕方。
「……できた。」
グレンが椅子へ座り込む。
「三つ。」
アイリが並んだ魔道具を見る。
「お疲れさま。」
「鍛冶とはまた違う疲れ方するな。」
「ずっと集中してたもんね。」
「ああ。」
アイリがお茶を差し出す。
「はい。」
「ありがとう。」
一口飲む。
「でも。」
グレンが三つを見る。
「昨日よりだいぶ早く作れた。」
「慣れてきた?」
「少しは。」
「じゃあ明日はギルドの暖房?」
「ああ。」
「それ作ったら終わり。」
「冒険行きたい?」
「行きたい。」
グレンは即答した。
アイリが笑う。
「私も。」
「魔道具作るのも楽しいけどな。」
「でもずっと家にいると、なんか落ち着かない。」
「五年も冒険者やってるからね。」
「完全に染まってるな。」
「お互いに。」
翌日。
今度はギルド用の暖房魔道具に取りかかる。
受付と待合を暖めるため、自宅用より少し大きい。
「これくらいなら足りるかな。」
「人の出入りが多いから、風は少し強め?」
「そうだな。」
「熱量も上げる。」
「でも熱すぎるのは危ないね。」
「ああ。」
魔力回路を調整し。
火属性の魔石から出る熱を一定に保つ。
風属性の魔石で広い範囲へ暖気を送る。
昼過ぎ。
「完成。」
「これで全部?」
「ああ。」
ミーナ用三つ。
ギルド用一つ。
「運ぶ?」
「ストレージに入れる。」
「便利。」
「ほんとな。」
二人は完成した魔道具を収納し、ギルドへ向かった。
「こんにちは。」
「あ!」
ミーナが二人を見るなり立ち上がった。
「もしかして!」
「できたよ。」
「三つとも!?」
「ああ。」
「本当ですか!」
「声大きい。」
「すみません。」
そう言いながら、全く反省していない顔だった。
「まずギルドの暖房から出すぞ。」
グレンは受付近くの壁際へ暖房魔道具を設置した。
周囲を確認する。
「この辺なら邪魔にならないかな。」
「大丈夫です。」
「じゃあ起動。」
魔石が光る。
暖かな風が流れ始める。
「おお……。」
近くにいた冒険者たちが振り向いた。
「なんだこれ?」
「暖かいぞ。」
「火じゃないのか?」
すぐに人が集まり始める。
「近い近い。」
グレンが苦笑する。
「壊すなよ。」
「これ、お前が作ったのか?」
「まあ。」
「すげえな。」
受付にいたミーナも手をかざす。
「やっぱりいいですね……。」
「ミーナのも同じだよ。」
「!」
「今から渡す。」
「はい!」
三つの魔道具をミーナへ引き渡す。
暖房。
洗濯。
冷蔵庫。
「本当に全部できた……。」
「使い方は昨日説明したのと同じ。」
「分からなかったら聞いて。」
「ありがとうございます!」
ミーナは大事そうに魔道具を見る。
「今日帰ったらすぐ使います。」
「暖房はすぐ使うだろうな。」
「洗濯もします。」
「今日?」
「します。」
「溜めてた?」
「少しだけ。」
「このために?」
「……少しだけ。」
グレンが笑った。
「楽しみにしてたんだな。」
「はい。」
そこへ。
「終わったか。」
ガレスが奥から出てきた。
「ああ。」
「ギルドの分も設置したよ。」
ガレスが暖房魔道具の前へ立つ。
「なるほど。」
手をかざす。
「これはいいな。」
「だろ?」
「薪もいらないんだったな。」
「ああ。」
「魔石の魔力が減ったら補充すればいい。」
「補充?」
「魔力を持ってる人なら誰でもできるよ。」
ガレスが眉を上げる。
「誰でも?」
「ああ。」
「魔石に直接魔力を流せばいい。」
「属性は関係ないの?」
アイリが尋ねる。
「補充するだけなら関係ない。」
「火属性の魔石だからって、火魔法を使える必要はないよ。」
「なるほど。」
ガレスがもう一度暖房魔道具を見る。
「それなら維持も簡単だな。」
「ギルドなら魔力持ってる人はいくらでもいるだろ。」
「ああ。」
「職員でも冒険者でも補充できる。」
「なら問題ない。」
ガレスは周囲を見る。
すでに何人もの冒険者が暖房の近くに集まっていた。
「……置く場所を考え直した方がいいかもしれんな。」
「なんで?」
「人が集まりすぎる。」
「知らないよ。」
アイリが吹き出した。
「人気だね。」
「冬だからな。」
ガレスは少し笑う。
「代金は受付で受け取ってくれ。」
「ああ。」
ミーナの分とギルドの分。
材料費。
そして製作に使った日数分の、二人の冒険者としての日当。
すべて受け取る。
「これで終わり。」
ギルドを出たあと。
グレンが大きく伸びをした。
「やっと冒険に行ける。」
「そんなに?」
「二日もずっと魔道具作ってたからな。」
「楽しかったくせに。」
「楽しかったよ。」
「でも別。」
「ふふっ。」
アイリが笑う。
「じゃあ次は?」
「九階層。」
グレンが迷わず答える。
「久しぶりにダンジョン行こう。」
「うん。」
魔道具作りは一段落。
暖かな家も。
便利になった生活も悪くない。
それでも。
二人はやっぱり冒険者だった。




