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第62話 三つの魔道具

 翌朝。


 グレンとアイリは冒険者ギルドを訪れていた。


「おはようございます。」


 受付にいたミーナが二人に気付き、笑顔を向ける。


「おはよう。」


「おはようございます。」


「今日は依頼ですか?」


「いや。」


 グレンは首を振る。


「氷属性の魔石が欲しくて。」


「氷属性ですか?」


「ああ。」


「中型くらいのがあれば二つほど見せてほしい。」


「分かりました。」


 ミーナが奥へ向かおうとして。


 ふと足を止めた。


「あ。」


「ん?」


「そういえば!」


 ミーナがアイリを見る。


「洗濯魔道具、できたんですか!?」


 アイリの顔がぱっと明るくなる。


「できたよ。」


「本当ですか!?」


「うん。ちゃんと水も入るし、勝手に洗ってくれるよ。」


「水切りもある程度できる。」


 グレンが補足する。


「……完成したんですね。」


「まあ、試作品だけどな。」


「見たいです!」


 即答だった。


「そんなに?」


「見たいですよ!」


 ミーナが身を乗り出す。


「冬の洗濯が楽になるんですよね?」


「かなり楽になったよ。」


 アイリが嬉しそうに頷く。


「水も冷たくないし、洗ってる間に他のことできるし。」


「……。」


 ミーナの表情が真剣になる。


「今日、仕事が終わったら見に行ってもいいですか?」


「いいよ。」


「本当ですか?」


「うん。夕方なら家にいるから。」


「行きます!」


「すごい食いつきだな。」


「だって気になりますから。」


 ミーナは少し恥ずかしそうに笑う。


「じゃあ、氷属性の魔石を確認してきますね。」


「ああ。お願い。」


 しばらくして。


 ミーナが小箱を持って戻ってきた。


「こちらが現在販売できる中型の氷属性魔石です。」


 箱の中には、淡い青色の魔石が三つ並んでいた。


「綺麗。」


 アイリが覗き込む。


「氷属性の魔石って何に使うんです?」


 ミーナが聞く。


「冷蔵庫。」


「……れいぞうこ?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「食べ物を冷やして保存する箱。」


「冷やして?」


「ああ。」


「肉とか魚とか、傷みやすいものを低い温度で保存するんだ。」


「そんな魔道具まで作るんですか?」


「これから試す。」


「……。」


 ミーナは氷属性の魔石を見る。


「それも見たいです。」


「今日来たら、完成してれば見られるよ。」


「今日作るんですか?」


「そのつもり。」


「グレン、昨日からずっと楽しそうなんだよ。」


「アイリだって洗濯魔道具できた時かなり喜んでただろ。」


「それはそうだけど。」


 二人のやり取りにミーナが笑う。


「じゃあ、夕方楽しみにしてますね。」


「ああ。」


 グレンは氷属性の魔石を二つ購入した。


 二人はギルドを出て、そのまま家へ戻る。


 扉を開ける。


「暖かい。」


 アイリがすぐに上着を脱いだ。


 壁際では暖房魔道具が動いている。


 外は冬。


 だが家の中は快適だった。


「これ、ミーナちゃん絶対驚くよ。」


「暖房?」


「うん。」


「洗濯魔道具だけ見に来るつもりだもんな。」


「気付かないわけないよね。」


「まあ、別に隠してないし。」


 グレンは買ってきた氷属性の魔石をテーブルへ置く。


「それより冷蔵庫作るぞ。」


「うん!」


 用意していたのは、断熱性の高い木材で作った箱。


 高さはアイリの腰ほど。


 前面には開閉できる扉。


 中には棚を二段取り付けてある。


「前世の冷蔵庫ほど複雑にはしない。」


「箱の中を一定以上冷やせればいい。」


「氷属性の魔石二つ使うの?」


「一つでも動くと思う。」


「もう一つは温度を安定させる補助にする。」


「なるほど。」


 グレンは魔道具作成を使い、箱の内部へ魔力回路を刻んでいく。


 魔石から発生する冷気。


 それを箱の内部へ均等に行き渡らせる。


 冷えすぎないよう魔力を抑える回路も組み込む。


「冷凍庫は?」


「いきなり要求増やすな。」


「聞いただけ。」


「まず冷蔵庫が成功してから。」


「じゃあ成功したら?」


「そのうち考える。」


「覚えとく。」


「忘れていいよ。」


 しばらくして。


「よし。」


 二つの氷属性魔石を取り付ける。


「起動。」


 淡い青色の光。


 箱の中へ冷気が広がっていく。


 扉を閉める。


「待つか。」


「水入れとこう。」


 アイリが水の入った容器を中へ置いた。


 しばらくして。


「そろそろ?」


「ああ。」


 扉を開く。


 ひんやりとした空気が流れ出した。


「わ。」


 アイリが手を入れる。


「冷たい。」


「水は?」


 取り出す。


 一口飲む。


「冷えてる!」


「よし。」


「成功だね。」


「ああ。」


 アイリは嬉しそうに冷蔵庫の中を見る。


「これでお肉も長く置ける。」


「作り置きもできるな。」


「うん。」


「夏になったら冷たい飲み物も飲める。」


「それ大事。」


「やっぱりそっちもか。」


 グレンが笑う。


 こうして。


 暖房魔道具。


 洗濯魔道具。


 冷蔵庫。


 三つの生活魔道具が家に揃った。


 そして夕方。


 コンコン。


「来たみたい。」


 アイリが玄関へ向かう。


 扉を開けると、外套を着込んだミーナが立っていた。


「こんばんは。」


「いらっしゃい。」


「寒かったでしょ?」


「今日はかなり冷えますね。」


「せっかくだから上がって。」


「お邪魔します。」


 ミーナが家へ入る。


 そして。


 居間へ足を踏み入れた瞬間。


「……え?」


 立ち止まった。


「どうしたの?」


「……暖かい。」


 ミーナが部屋を見回す。


「火、焚いてないですよね?」


「うん。」


「じゃあ、なんで……。」


「あ。」


 アイリが壁際を指差した。


「これだよ。」


 暖かい風を送り続けている箱型の魔道具。


「これ……何ですか?」


「暖房魔道具。」


「昨日グレンが作ったの。」


「昨日!?」


 ミーナが近付く。


 手をかざす。


「暖かい……。」


「火属性の魔石で熱を作って、風属性の魔石で部屋に広げてる。」


 グレンが説明する。


「薪はいらないんですか?」


「いらない。」


「煙も?」


「出ない。」


「……。」


 ミーナは暖房魔道具の前から動かなくなった。


「ミーナちゃん?」


「これ、欲しいです。」


「まだ洗濯魔道具見に来たばっかりだろ。」


「それとこれは別です。」


 アイリが笑う。


「じゃあ洗濯魔道具も見せるね。」


「お願いします!」


 三人で洗濯魔道具のところへ移動する。


「これ。」


 ミーナが見る。


「……桶?」


「見た目はね。」


 アイリが笑う。


 グレンが水属性の魔石を起動する。


 桶へ水が溜まっていく。


「えっ。」


「水まで勝手に入るんですか?」


「ああ。」


 洗濯物と洗剤を入れ、蓋を閉じる。


「次。」


 風属性の魔石を起動。


 ゴウン。


 ゴウン。


 中で衣類と水が回り始める。


「放っておけばいいんですか?」


「洗ってる間はな。」


「終わったら水を抜いて、少し速く回す。」


「そうしたらある程度水も切れるよ。」


 アイリが説明する。


「……。」


 ミーナがじっと洗濯魔道具を見る。


「欲しいです。」


「やっぱり。」


「これは絶対欲しいです。」


「分かる。」


 アイリが強く頷く。


「特に冬!」


「ですよね!」


 女性二人が盛り上がる。


 グレンは少し離れたところで苦笑した。


「洗濯ってそんなに大変なんだな。」


 二人が同時に振り向いた。


「大変だよ。」


「大変です。」


「……はい。」


 洗濯魔道具を一通り見せたあと。


 三人は居間へ戻った。


「何か飲む?」


 アイリが聞く。


「いただきます。」


「冷たいのでいい?」


「冷たい?」


 ミーナが首を傾げる。


「外、冬ですよ?」


「まあ飲んでみて。」


 アイリが部屋の隅に置かれた箱へ向かう。


 扉を開く。


 中から水の入った容器を取り出した。


「はい。」


 ミーナが受け取り、一口飲む。


「……冷たい。」


「でしょ?」


「でも今、この部屋暖かいですよね?」


「うん。」


 ミーナがゆっくり箱を見る。


「それは……?」


「冷蔵庫。」


「また知らない名前が出てきました。」


 グレンが笑う。


「食べ物や飲み物を冷やして保存する魔道具。」


「今日作った。」


「今日!?」


「氷属性の魔石を買っただろ?」


「あれ、このためだったんですか!」


「そう。」


 ミーナが冷蔵庫へ近付く。


 扉を開く。


「本当に中だけ冷たい……。」


「肉とかも長持ちするよ。」


 アイリが説明する。


「冬は外でも冷やせるけど。」


「夏でも使える。」


 グレンが付け加える。


「夏でも?」


「ああ。」


「冷たい飲み物も飲める。」


「……。」


 ミーナが扉を閉めた。


「それも欲しいです。」


「三つ全部?」


「はい。」


 即答。


「暖房。」


「欲しいです。」


「洗濯魔道具。」


「絶対欲しいです。」


「冷蔵庫。」


「欲しいです!」


 グレンが笑う。


「分かった分かった。」


「でも材料費は出してもらうぞ。」


「もちろんです。」


「あと、作ってる日は俺だけじゃなくアイリも冒険に行けない。」


「だから二人分の日当も――」


「払います!」


「まだ言い終わってない。」


「それでも払います。」


「まだ値段も出してないよ?」


 アイリが笑う。


「欲しいんです。」


 ミーナは真剣だった。


 グレンは少し考える。


「まあ、いいか。」


「材料代と、作る日数分の俺たち二人の日当。」


「それでいい。」


「ありがとうございます!」


「ただし一気には作れないぞ。」


「冒険もあるし。」


「大丈夫です。」


「急ぎません。」


 ミーナが暖房魔道具の前へ移動する。


「……でも暖房だけは早めだと嬉しいです。」


「冬だもんな。」


「はい。」


 暖かい風に手をかざす。


「これ、一度知ったら戻れないですよ。」


「アイリも昨日同じこと言ってた。」


「だって本当だもん。」


 アイリが笑った。


 ミーナもしばらく暖房の前で暖まったあと。


「これ、ギルド長も欲しがると思いますよ。」


「別に頼まれたら作るよ。」


「いいんですか?」


「ああ。」


「魔道具作成自体は別に秘密じゃないし。」


 グレンは冷蔵庫を見る。


「同じものを作れる魔道具師が出てきても構わない。」


「俺は魔道具屋になりたいわけじゃないからな。」


「冒険者が本業だもんね。」


「ああ。」


「頼まれて、俺たちが損しないなら作る。」


「それくらいでいい。」


 ミーナが少し呆れたように笑う。


「グレンさん、商売には向いてなさそうですね。」


「アイリにも言われた。」


「だって本当だもん。」


「でも。」


 アイリが暖房魔道具を見る。


「こういうのが増えたら、みんな楽になるよね。」


「ああ。」


 グレンも頷く。


 自分たちの暮らしを少し楽にするために作っただけだった。


 それでも。


 三つの生活魔道具は。


 少しずつ、二人の家の外へも広がり始めようとしていた。

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