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第61話 洗濯魔道具

 翌日。


 グレンとアイリは再び冒険者ギルドを訪れていた。


「おはようございます。」


 ミーナが笑顔で迎える。


「おはよう。」


「おはようございます。」


「今日は依頼ですか?」


「いや。」


 グレンは首を振る。


「また魔石について相談したい。」


「またですか?」


「また。」


 ミーナが少し笑う。


「今度は何を作るんです?」


「洗濯機。」


「……せんたくき?」


 聞き慣れない言葉に、ミーナが首を傾げる。


 アイリが横から説明した。


「服を勝手に洗ってくれる魔道具。」


「勝手に?」


「水を入れて、服と洗剤を入れて、動かしたら洗ってくれるの。」


「そんなもの作れるんですか?」


「これから試す。」


 グレンが答える。


「必要なのは水属性の魔石と、桶の中の水を動かすための魔石。」


「風属性で回転させるつもり?」


 アイリが聞く。


「ああ。」


「水を出すだけなら水属性。」


「それをぐるぐる回せば、洗濯できると思う。」


「前世の洗濯機みたいに?」


「そこまで複雑なのは無理。」


 グレンは苦笑する。


「まずは自動で洗ってくれる桶くらいで十分だろ。」


「十分!」


 アイリは即答した。


「絞るところまでやってくれたら最高だけど。」


「要求上がってない?」


「希望です。」


「はいはい。」


 ミーナは二人の会話を聞きながら、不思議そうな表情をしていた。


「とりあえず。」


 グレンがカウンターを見る。


「中型の水属性魔石と風属性魔石ってある?」


「確認してきますね。」


 しばらくして。


 ミーナが二つの小箱を持って戻ってきた。


「どちらも中型があります。」


「じゃあ一つずつ。」


「かしこまりました。」


 代金を支払う。


「完成したらどんなものか教えてくださいね。」


「興味ある?」


「ありますよ。」


 ミーナが笑う。


「服を勝手に洗ってくれるなんて、本当ならすごく便利じゃないですか。」


「だよね!」


 アイリが強く頷く。


「洗濯って毎日じゃなくても、結構大変なんだから。」


「分かります。」


「特に冬!」


「水、冷たいですよね。」


「そうなの!」


 いつの間にか二人で盛り上がっている。


 グレンは少し離れたところで待った。


「……帰る?」


「あ。」


 アイリが振り向く。


「ごめん。」


「いいけど。」


 ミーナも笑う。


「完成、楽しみにしてます。」


「ああ。」


 二人は魔石を受け取り、家へ戻った。


 家に入ると。


「暖かい。」


 アイリが嬉しそうに上着を脱ぐ。


 昨日作った暖房魔道具が、今日も居間を暖めていた。


「これだけでも作ってよかったな。」


「ほんと。」


「もう前の生活に戻れない。」


「一日しか経ってないぞ?」


「それでも無理。」


 グレンは笑いながら、買ってきた魔石をテーブルへ置く。


「じゃあ作るか。」


「うん!」


 まず用意したのは、大きめの木製桶だった。


「木で大丈夫かな。」


「内側を加工する。」


 グレンは魔道具作成の知識を頼りに、桶の内側へ魔力回路を刻んでいく。


 水属性の魔石。


 風属性の魔石。


 水を溜め。


 風の力で内部の水を回転させる。


「こんな感じか。」


「本当に回る?」


「やってみないと分からない。」


 魔石を取り付ける。


「起動。」


 水属性の魔石が光った。


 桶の中へ水が少しずつ溜まっていく。


「おお。」


「ちゃんと出た。」


 適量で止める。


「次。」


 風属性の魔石へ魔力を流す。


 ゴポッ。


 水面が揺れた。


 そして。


 ぐる。


 ぐるぐる。


「回った!」


 アイリが身を乗り出す。


「本当に回ってる!」


「ああ。」


 だが。


 次の瞬間。


 バシャッ!


「きゃっ!」


 水が桶の外へ飛び散った。


「うわ!」


 グレンが慌てて止める。


「……。」


「……。」


 二人は濡れた床を見る。


「勢い強すぎたね。」


「ああ。」


「掃除増えた。」


「ごめん。」


「ふふっ。」


 アイリが笑う。


「でも失敗しながら作るの、ちょっと面白いね。」


「使う側は楽しいだろ。」


「作る側も楽しそう。」


「まあな。」


 風量を調整。


 回転を少し弱くする。


 桶の縁も少し高くした。


「もう一回。」


「うん。」


 今度は水が外へ飛び出さない。


 ゆっくり。


 しかししっかりと、水が回転している。


「これならいけるかも。」


 アイリが洗濯物を数枚持ってくる。


「試していい?」


「ああ。」


 服を入れる。


 洗剤も少量。


「起動。」


 水が回り始めた。


 衣類が桶の中を動いていく。


「……。」


 二人でじっと見る。


「洗ってる。」


「たぶん。」


「たぶん?」


「まだ出来上がり見てないから。」


「そっか。」


 しばらく回したあと。


 停止。


 水を抜く。


「排水もできるようにした方がいいね。」


「確かに。」


「毎回桶ひっくり返すの面倒。」


「改良する。」


 まずは服を取り出す。


 アイリが確認する。


「……綺麗になってる。」


「本当?」


「うん!」


 嬉しそうに広げる。


「ちゃんと汚れ落ちてる!」


「よし。」


 グレンも笑う。


「成功だな。」


「でも。」


「ん?」


 アイリが濡れた服を持ち上げる。


「びしょびしょ。」


「そりゃ洗ったからな。」


「絞るのも自動にできない?」


「やっぱり言うと思った。」


「できそう?」


 グレンは少し考える。


「水を抜いたあとに、高速で回せば。」


「遠心力で水を飛ばす?」


「ああ。」


 前世の知識。


 そのまま再現できなくても、原理くらいは覚えている。


「ただ、さっきみたいに水が飛び散るぞ。」


「蓋。」


「……あ。」


「蓋付ければいいんじゃない?」


 グレンがアイリを見る。


「それだ。」


「私すごい?」


「すごい。」


「もっと褒めて。」


「調子乗るからやめとく。」


「もう。」


 二人で笑う。


 木製の蓋を作り。


 内部の回転を強くするため、魔力回路を少し調整。


「やってみる。」


「うん。」


 服を戻す。


 蓋を閉める。


「起動。」


 ヴンッ。


 先ほどより速い回転。


 桶全体が少し震える。


「大丈夫?」


「たぶん。」


「またたぶん。」


「試作だからな。」


 しばらくして停止。


 蓋を開ける。


 服を取り出す。


「あ。」


 アイリが驚く。


「さっきより全然水少ない。」


「絞れてる?」


「うん。」


「干したらすぐ乾きそう。」


「じゃあ完成かな。」


「うん!」


 アイリが洗濯魔道具を見る。


「これ、すごい。」


「暖房より?」


「悩む。」


「そんなに?」


「だって洗濯が楽になるんだよ?」


「そこまで大変だったんだな。」


「今さら気付いたの?」


「すみません。」


 グレンが素直に謝る。


 アイリが笑った。


「でも。」


 グレンが完成した魔道具を見る。


「見た目は洗濯機っていうより。」


「魔法の桶だね。」


「だな。」


「名前どうする?」


「洗濯機でいいでしょ。」


「そのままだな。」


「前世でもそうだったもん。」


「確かに。」


 アイリが満足そうに頷く。


「これで冬に冷たい水で洗濯しなくていい。」


「良かったな。」


「ありがとう、グレン。」


「ああ。」


 その笑顔を見ると。


 作った時間なんて、まったく惜しくなかった。


「次は冷蔵庫?」


 アイリが聞く。


「そうだな。」


「それとも冷房?」


「今冬だぞ。」


「あ、そっか。」


「冷房は春以降でいい。」


「じゃあ冷蔵庫。」


「ああ。」


 グレンは少し考える。


「氷属性の魔石が必要だな。」


「またミーナちゃんのところ?」


「まただな。」


 アイリが笑う。


「そろそろ『今度は何ですか?』って言われそう。」


「たぶん言われる。」


 暖房。


 洗濯機。


 少しずつ。


 二人の家は。


 前世で暮らしていた家に近づき始めていた。

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