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第60話 暖房魔道具

 翌朝。


 グレンは家の居間で、テーブルの上にいくつかの素材を並べていた。


「今日はダンジョン行かないの?」


 アイリが聞く。


「ああ。」


「せっかく魔道具作成を覚えたんだ。」


「まず試してみたい。」


「冷蔵庫?」


「それも作りたいけど。」


 グレンは窓を見る。


 外は冬。


 昨日より冷え込みが強く、窓の向こうには薄く霜が付いている。


「先に暖房。」


「暖房!」


 アイリがすぐに食いついた。


「それがいい。」


「だろ?」


 今の家は以前住んでいた古い借家よりずっと暖かい。


 隙間風も少ない。


 風呂もある。


 それでも冬は寒い。


 特に朝と夜は、火を焚いていなければ室内でも上着が欲しくなる。


「作れるの?」


「たぶん。」


「たぶん?」


「昨日覚えたばっかりだからな。」


「そっか。」


 グレンは苦笑する。


「でも、仕組み自体はそんなに難しくないと思う。」


 必要なのは。


 熱を発生させるもの。


 それを安全に制御するもの。


 そして、室内へ広げる仕組み。


「前世の暖房機そのものを作る必要はない。」


「火属性の魔石で熱を作って。」


「風属性の魔石で暖かい空気を広げればいい。」


「なるほど。」


 アイリが感心したように頷く。


「魔石は?」


「昨日、ギルドで少し買ってきた。」


「いつの間に。」


「魔道具作成を覚えた後。」


「グレン。」


「ん?」


「私、ずっと一緒にいたよ?」


「……そうだった。」


「楽しみすぎて記憶飛んでない?」


「否定できない。」


 アイリが笑う。


 テーブルには。


 小型の火属性魔石。


 小型の風属性魔石。


 それから魔力を通しやすい金属線と、木製の箱。


「まずは小さいので試す。」


「いきなり部屋全部暖めるの作らないんだ。」


「失敗したら怖いだろ。」


「それはそうだね。」


 グレンは木箱へ魔力回路を刻んでいく。


 魔道具作成。


 スキルを意識すると、どこへどのように魔力を流せばいいかが自然と頭へ浮かんでくる。


「ここから火の魔石へ。」


「そこから熱を……。」


 さらに風属性の魔石へ回路をつなぐ。


 暖めた空気を外へ送り出す。


「なんか本当に家電作ってるみたい。」


「俺もそう思う。」


「前世じゃ絶対できなかったけどな。」


「そりゃそうだよ。」


 しばらくして。


「できた。」


 小さな箱型の魔道具。


 正面には空気を出すための穴。


 横には簡単な起動部分。


「見た目は……。」


 アイリが眺める。


「地味。」


「試作品だからいいの。」


「はいはい。」


 グレンが魔道具へ魔力を流す。


「起動。」


 カチッ。


 火属性の魔石が淡く赤く光る。


 続いて風属性の魔石も輝いた。


 ブォ……。


 弱い風が吹き出す。


「どう?」


 アイリが手を近付ける。


「……あったかい。」


「本当?」


「うん!」


 さらに手を近付ける。


「ちゃんと暖かい風が出てる!」


「よし。」


 グレンも手を当てる。


「熱すぎない。」


「これなら火傷もしにくそう。」


 火を直接使わない。


 煙も出ない。


 薪を足す必要もない。


「これ、いい。」


 アイリの目が輝く。


「すごくいい。」


「そんなに?」


「だって。」


 アイリが魔道具の前へ座る。


「暖かい。」


「それは暖房だから。」


「ずっとここにいたい。」


「まだ試作品だぞ。」


「試作品でも暖かい。」


 グレンは笑った。


「じゃあ、本番作るか。」


「うん!」


 今度は居間全体を暖められる大きさ。


 とはいっても、大型にする必要はない。


 魔石を少し大きくして。


 風量を増やして。


 熱が一か所に集中しないように回路を調整する。


 昼を過ぎる頃。


 二台目が完成した。


「置くならここかな。」


 居間の壁際。


「やってみるぞ。」


「うん。」


 起動。


 暖かい風がゆっくりと室内へ広がっていく。


 数分。


 さらに数分。


「……。」


 アイリが上着を脱いだ。


「暖かい?」


「うん。」


 嬉しそうに笑う。


「部屋全部、ちゃんと暖かくなってきた。」


「よかった。」


 グレンも椅子へ座る。


 外は冬。


 窓の向こうは冷たい風が吹いている。


 なのに。


 室内は暖かい。


「なんか。」


 アイリがぽつりと言う。


「前世の家みたい。」


「そこまでじゃないだろ。」


「でも。」


 アイリは両手を暖房魔道具へ向ける。


「冬に家の中が暖かいって、やっぱり幸せ。」


「……そっか。」


「うん。」


 その言葉だけで。


 作った意味は十分だった。


「じゃあ次は冷蔵庫だな。」


「洗濯機。」


「冷蔵庫じゃないの?」


「洗濯機。」


「そっち優先?」


「絶対そっち。」


「そんなに洗濯嫌いだった?」


「嫌いじゃないよ。」


「でも楽になるなら楽したい。」


「正論だな。」


 グレンは笑う。


「じゃあ洗濯機から考えるか。」


「やった。」


「ただし。」


「ん?」


「水属性の魔石と、動かすための魔石がいる。」


「またギルド?」


「たぶんな。」


 アイリが暖房魔道具を見る。


「ねえ。」


「ん?」


「これ、他の人も欲しがりそう。」


「そうだろうな。」


「作ってあげる?」


 グレンは少し考える。


「頼まれたらな。」


「でも材料代はもらう。」


「うん。」


「それと。」


「作ってる日は俺たち二人とも冒険に行けない。」


 アイリが頷く。


「じゃあ、二人分の日当も。」


「それくらいでいいと思う。」


「グレン、商売する気ないもんね。」


「魔道具屋になるつもりはないからな。」


「冒険者が本業。」


「ああ。」


「でも。」


 グレンは暖房魔道具を見る。


「こういうのでアイリが楽になるなら、作るのは結構好きかもしれない。」


「じゃあ。」


 アイリがにっこり笑う。


「洗濯機、楽しみにしてる。」


「はいはい。」


 冬の寒さの中。


 二人の家には。


 この世界ではまだ珍しい、暖かい風が流れ続けていた。

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