第59話 四冊の紫
ギルドから帰宅したグレンは、マジックバッグをテーブルの横へ置いた。
「……さて。」
アイリがじっと見る。
「やるんだ。」
「ああ。」
「やっぱり。」
「今日はレイドも終わったし、もう休んだだろ?」
「まあね。」
グレンは嬉しそうに、白いスキルブックを一冊ずつ取り出していく。
全部で四十冊。
さらに。
「これも。」
別に保管していた青いスキルブックを二冊。
「集中強化と水耐性だね。」
「ああ。」
以前、ギルドから合成を頼まれた時に報酬として受け取った二冊。
すぐに覚えず、紫へ合成するために残していた。
「まずは白からだな。」
「うん。」
グレンが二冊を手に取る。
「スキルブック合成。」
光。
白二冊が緑一冊へ変わる。
次。
また次。
何度も繰り返していく。
「十九。」
「二十。」
アイリが数える。
緑二十冊。
「次は青。」
「ここから十冊だね。」
「ああ。」
緑を二冊ずつ。
「スキルブック合成。」
青。
さらに青。
十回。
テーブルの上に青いスキルブックが十冊並んだ。
そこへ。
保管していた二冊を加える。
「青、十二冊。」
アイリが少し嬉しそうに笑う。
「ってことは。」
「ああ。」
グレンも笑った。
「紫四冊。」
「とうとう自分たちのために作れるね。」
「前はギルドの依頼だったからな。」
グレンは青い本を三冊手に取る。
少しだけ緊張する。
「行くぞ。」
「うん。」
「スキルブック合成。」
青い光が重なる。
強く。
さらに強く。
そして。
一冊の紫色のスキルブックが現れた。
「一冊目。」
続ける。
二冊目。
三冊目。
そして。
「スキルブック合成。」
四冊目。
テーブルの上。
紫色の本が四冊並んだ。
「すごい。」
「こうして見ると、なんか豪華だな。」
「何が出たかな。」
「順番に見よう。」
グレンが一冊目を手に取る。
⸻
【聖光剣】
武器へ聖なる光をまとわせる剣技。
アンデッドや邪属性の魔物に対して高い効果を発揮する。
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「おお。」
グレンの目が輝く。
「これ、九階層で使えそう。」
「アンデッドが多そうだもんね。」
「ああ。」
「覚える。」
迷う理由はなかった。
紫のスキルブックへ触れる。
光がグレンの身体へ吸い込まれる。
「聖光剣。」
ミスリルソードを見る。
「これで聖属性を乗せられるのか。」
「私にも見せてね。」
「九階層でな。」
「楽しみ。」
二冊目。
今度はアイリが覗き込む。
⸻
【ホーリーレイ】
広範囲へ聖なる光を放つ高位攻撃魔法。
アンデッドに対して高い威力を持つ。
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「私のだ。」
「だな。」
「しかも範囲。」
「エアーカッターとはまた違うな。」
「アンデッド相手ならこっちの方が強そう。」
アイリが迷わず本へ触れる。
紫の光が身体へ入っていく。
「ホーリーレイ。」
「早く使ってみたい。」
「家では絶対使うなよ。」
「分かってるって。」
「念のため。」
「信用ないなあ。」
「エアーカッターの時もすぐ試したそうだっただろ。」
「グレンも旋風斬りすぐ使ったでしょ?」
「……次行こう。」
「また誤魔化した。」
三冊目。
⸻
【リジェネ】
対象へ継続回復効果を付与する。
一定時間、傷を少しずつ回復させ続ける。
⸻
「あ。」
アイリの表情が変わる。
「これ欲しかったやつ。」
「ああ。」
「ヒールとは使い方が違うね。」
「戦う前とか、長期戦に良さそう。」
「うん。」
これもアイリが習得する。
紫の光が消える。
「リジェネ。」
アイリが嬉しそうに手を握る。
「これで回復もかなり楽になるかも。」
「無理して魔力使いすぎるなよ。」
「マナリカバリーもあるから大丈夫。」
「大丈夫って言うやつほど心配なんだよ。」
「それ、グレンにも言えるよ?」
「……そうだな。」
残る一冊。
「最後。」
グレンが手に取った。
そして。
「……ん?」
「なに?」
「これ。」
アイリが横から見る。
⸻
【魔道具作成】
魔石や各種素材を利用し、魔法効果を持つ道具を製作・加工できる。
用途や構造を明確に思い描くことで、さまざまな魔道具を作成できる。
⸻
「魔道具作成……。」
アイリが呟く。
「これも生産系だね。」
「ああ。」
「鍛冶の次は魔道具か。」
グレンは説明を何度も読む。
用途。
構造。
魔石。
魔法効果。
「……。」
「グレン?」
「アイリ。」
「なに?」
「これ。」
グレンの顔がゆっくり明るくなる。
「かなり使えるかもしれない。」
「武器に?」
「それもあるけど。」
グレンは前世を思い出す。
冷たい飲み物。
食材を長く保存する箱。
洗濯物を自動で洗ってくれる機械。
夏の暑さ。
冬の寒さ。
「……冷蔵庫。」
「え?」
「冷蔵庫、作れるんじゃないか?」
アイリが固まった。
「……冷蔵庫?」
「ああ。」
「氷属性か冷却系の魔石を使って、箱の中だけ冷やせば。」
アイリの目が徐々に大きくなる。
「作れるの?」
「まだ分からない。」
「でも、理屈としてはできそう。」
「作って。」
即答だった。
「早いな。」
「だって冷蔵庫だよ?」
「肉も野菜も長く置けるんだよ?」
「まあ、そうだな。」
「作って。」
「分かった分かった。」
グレンが笑う。
「それだけじゃない。」
「まだあるの?」
「ああ。」
少し考える。
「洗濯機。」
「……。」
アイリがまた止まる。
「グレン。」
「ん?」
「それも作って。」
「やっぱり?」
「絶対。」
アイリの食いつきが明らかに違った。
「洗濯って結構大変なんだから。」
「知ってる。」
「冒険から帰った後とか、本当に面倒なの。」
「うん。」
「作れるなら絶対作って。」
「はい。」
グレンは苦笑する。
さらに。
「冷房もできるかも。」
「冷房?」
「ああ。」
「エアコンそのものは難しくても、風属性と氷属性の魔石を使って冷たい風を出す魔道具なら。」
「……作って。」
「また?」
「夏、暑いでしょ?」
「暑いな。」
「じゃあ必要。」
「冬は?」
「火属性の魔石で暖房。」
「それも作って。」
「全部じゃん。」
「全部欲しい。」
アイリが真顔で答える。
グレンは笑った。
「分かったよ。」
「でも材料が必要だからな。」
「魔石も安くないし。」
「少しずつでいいよ。」
アイリが嬉しそうに笑う。
「グレンが作ってくれるなら。」
「……。」
「どうしたの?」
「いや。」
グレンも笑う。
「鍛冶よりこっちの方が、アイリを楽にできるかもしれないなって。」
「鍛冶も嬉しかったよ。」
アイリは腰のグリムゾンティアへ手を添える。
「これ、すごく気に入ってるから。」
「そっか。」
「うん。」
グレンは最後の紫のスキルブックへ触れた。
光。
身体へ吸い込まれていく。
スキル――魔道具作成。
習得。
「……なるほど。」
「分かる?」
「ああ。」
「魔石から魔力を引き出して、目的に合わせて流す。」
「素材に簡単な魔力回路を刻んで……。」
頭の中に、今までなかった知識が浮かんでくる。
「これなら本当に作れるかもしれない。」
「冷蔵庫?」
「冷蔵庫も。」
「洗濯機?」
「それも。」
「冷房。」
「はいはい。」
「暖房も。」
「分かったって。」
アイリが満足そうに笑った。
四冊の紫。
聖光剣。
ホーリーレイ。
リジェネ。
そして魔道具作成。
「全部覚えちゃったね。」
「ああ。」
「金まで貯めなくてよかった?」
グレンは少し考えた。
「いいと思う。」
「まだ紫で欲しいスキルもいっぱいあるし。」
「それに。」
アイリを見る。
「今使えるものを我慢してまで、先を急ぐ必要もないだろ。」
「うん。」
二人はこれまでもそうしてきた。
無理をしない。
焦らない。
必要なものを少しずつ増やしていく。
「じゃあ次は。」
アイリが笑顔で言う。
「冷蔵庫だね。」
「九階層じゃないの?」
「その前に試作。」
「……そっちが先?」
「そっちが先。」
迷いのない返事だった。
グレンは思わず笑う。
「分かった。」
冒険のための力だけではない。
毎日の暮らしを楽にする力。
グレンのユニークスキルは。
二人の生活まで、少しずつ変え始めていた。




