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第58話 レイド報酬

 ヒュドラ討伐レイドから二日後。


 グレンとアイリは冒険者ギルドを訪れていた。


「おはようございます。」


 受付にいたミーナが二人へ笑顔を向ける。


「おはよう。」


「おはようございます。」


「今日はレイド報酬の受け取りですね。」


「ああ。」


 グレンが頷く。


「素材の査定、終わった?」


「はい。ヒュドラの素材もスネーク系の素材も、すべて査定が終わっています。」


「結構な量だったもんね。」


 アイリが思い出す。


 ヒュドラの鱗。


 牙。


 毒腺。


 巨大な魔石。


 それに大量のスネーク系素材。


 個人で運ぶには多すぎるため、すべてギルドがまとめて回収していた。


「参加人数と役割、それから戦闘への貢献を合わせて分配されています。」


「俺たちはどれくらい?」


 ミーナが手元の書類を確認する。


「その件なんですが。」


 少しだけ声を落とした。


「ギルド長から直接お話があるそうです。」


「ガレスから?」


「はい。」


 グレンとアイリは顔を見合わせる。


「また何か頼まれるのかな。」


「ありそうだな。」


「聞こえてますよ。」


 ミーナが苦笑する。


「では、奥へどうぞ。」


 二人はいつもの部屋へ案内された。


 中ではガレスが待っていた。


「来たか。」


「ああ。」


「レイドの報酬だって聞いたけど。」


「その話だ。」


 二人が座ると、ガレスも向かいへ腰を下ろした。


「まず。」


 机の上へ一枚の紙を置く。


「今回のレイド、ご苦労だった。」


「初参加にしては十分以上に働いてくれた。」


「アイリのキュアはかなり助かったらしいな。」


「毒と麻痺の人が多かったから。」


 アイリが答える。


「エアーカッターも取り巻き処理にかなり貢献している。」


「グレンも気配察知と範囲剣技、それに前衛としてよく動いていた。」


「バルガからも評価が高かったぞ。」


「バルガが?」


「ああ。」


 ガレスが少し笑う。


「また一緒に仕事をしたいと言っていた。」


「本人にも言われたよ。」


「気に入られたんだね。」


 アイリが笑う。


「まあ、その話はいい。」


 ガレスが紙を指差す。


「これが二人分の報酬だ。」


 グレンが金額を見る。


「……え?」


 もう一度見る。


「こんなに?」


「レイドだからな。」


 ガレスは平然としている。


「ヒュドラは希少素材が多い。」


「それに今回は大型個体だった。」


「蛇の素材も大量に回収できたし、討伐依頼そのものの報奨金もある。」


 アイリも横から覗き込む。


「すごい……。」


 普段のダンジョン探索とは桁が違う。


「これだけあれば。」


 グレンが少し考える。


「しばらく休んでも全然平気だな。」


「そうだね。」


 家賃。


 食費。


 装備の手入れ。


 それらを考えても、かなり余裕がある。


「それでだ。」


 ガレスが続ける。


「報酬について一つ相談がある。」


「相談?」


「ああ。」


 やっぱり何かあった。


 グレンは少し笑う。


「言ってみて。」


「本来なら全額を金貨で支払う。」


「だが。」


 ガレスが一度言葉を切る。


「半分を金貨。」


「残り半分を白のスキルブックで支払う形でも構わないか?」


「……白のスキルブック?」


 アイリが瞬きをする。


 グレンは数秒黙った。


「もちろん。」


 ガレスが続ける。


「ギルドの買い取り価格で換算して、金貨と同額になる分を渡す。」


「報酬を減らすわけではない。」


「いや。」


 グレンが手を上げる。


「それでいい。」


「即答か。」


「むしろありがたい。」


 ガレスが小さく笑う。


「そう言うと思った。」


「グレン、顔が嬉しそう。」


「そりゃそうだろ。」


「白でも俺には素材だからな。」


 以前なら。


 白のスキルブックは、覚える必要がなければ売るものだった。


 だが今は違う。


 二冊あれば緑。


 さらに重ねれば青。


 その先には紫。


「ギルドとしても助かる。」


 ガレスが言う。


「白のスキルブックは買い取る量に対して、出ていく量が少ない。」


「倉庫にかなり残っている。」


「前にも言ってたな。」


「ああ。」


「金貨を全部支払うより、一部を在庫で渡せるならギルド側にも都合がいい。」


「俺たちは素材が手に入る。」


「そういうことだ。」


 双方に損はない。


「じゃあ、それでお願いします。」


 アイリも頷く。


「決まりだな。」


 ガレスが机の横に置かれていた箱を引き寄せる。


「今回の二人の取り分の半額に相当する白スキルブックだ。」


 蓋を開ける。


 中には。


 白い本が何冊もぎっしりと並んでいた。


「うわ。」


 アイリが驚く。


「結構あるね。」


 グレンは数える。


「十……二十……。」


 まだある。


「四十冊。」


「そんなに?」


「ああ。」


 ガレスが頷く。


「白四十冊と、残り半分を金貨で支払う。」


 グレンの頭がすぐに動き始める。


「四十冊なら。」


「また始まった。」


 アイリが笑う。


「白四十。」


「緑二十。」


「青十。」


「そのままなら紫三冊作って、青が一冊余る。」


「ほら。」


 アイリがガレスを見る。


「もう計算してる。」


「分かりやすい男だな。」


「しょうがないだろ。」


 グレンは白い本を見る。


 それだけで少し楽しくなってくる。


「でも。」


 アイリが箱を覗き込む。


「全部すぐ合成するの?」


「うーん。」


 グレンは少し考える。


「そこは中身も見ながらかな。」


「白や緑で覚えたいのが出るかもしれないし。」


「全部上まで持っていく必要はない。」


「そっか。」


「それに。」


 グレンが笑う。


「今回は俺たちの本だ。」


「好きに使える。」


「嬉しそうだね。」


「嬉しい。」


 即答だった。


 ガレスが呆れたように笑う。


「レイドで疲れてるんだから、今日は合成するなよ。」


「え?」


「え、じゃない。」


「また夜までやりそうだから言ってる。」


「そんなこと……。」


 グレンが言いかける。


 横から。


「やると思います。」


 アイリが即答した。


「アイリ?」


「だってグレンだもん。」


「信用ないな。」


「違うよ。」


 アイリが笑う。


「こういうところだけ信用してる。」


「意味が違うだろ。」


 ガレスも笑った。


「まあ、今日は報酬を受け取って帰れ。」


「九階層へ行くつもりなんだろ?」


「ああ。」


「でも明日すぐってわけじゃない。」


「そうか。」


 ガレスが頷く。


「ならしっかり休め。」


「九階層から先は、八階層までよりさらに危険になる。」


「分かってる。」


「無理はしない。」


「それならいい。」


 手続きを終え。


 金貨と白スキルブック四十冊をマジックバッグへしまう。


 ギルドを出たところで。


 アイリが横からグレンを見る。


「ねえ。」


「ん?」


「帰ったらどうする?」


「……。」


「合成?」


「少しだけ。」


「やっぱり。」


「少しだけだって。」


「何冊?」


「とりあえず……。」


 グレンが考える。


「全部。」


「全然少しじゃない!」


 街中にアイリの声が響く。


「冗談だよ。」


「今、一瞬本気だったでしょ?」


「……まあ。」


「もう。」


 アイリは呆れながらも笑っていた。


 レイドを終え。


 報酬も受け取った。


 そして次に待つのは。


 ダンジョン九階層。


 二人の冒険は、また一つ先へ進もうとしていた。

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