第57話 レイド決着
二つの頭が同時に口を開いた。
「毒液だ!」
ガレスの声が飛ぶ。
次の瞬間。
紫色の液体が広範囲へ吐き出された。
「グランドシールド!」
巨大な障壁が前方へ展開される。
バシャアアッ!
毒液がぶつかり、障壁の表面を流れ落ちた。
「ポイズンガード!」
続けて支援魔法が広がる。
完全には防ぎきれなかった毒液が、一部の冒険者へ飛び散った。
「毒を受けた!」
「アイリ!」
「行きます!」
アイリがすぐに駆け寄る。
「キュア!」
一人。
「キュア!」
もう一人。
毒を治療していく。
「大丈夫?」
「ああ、助かった!」
「まだ無理しないで!」
その間にも、取り巻き処理班が残った蛇を倒していた。
「こっちはもう少しだ!」
バルガが叫ぶ。
「グレン!」
「ああ!」
残ったスネーク系がまとまって迫る。
グレンは周囲を確認した。
「前を空けろ!」
味方が左右へ散る。
「旋風斬り!」
ザンッ!
近くまで迫っていた蛇をまとめて斬り払う。
さらに後方。
「アイリ!」
「うん!」
グリムゾンティアの風属性魔石が輝いた。
「エアーカッター!」
ヒュオオッ!
広がった風刃が残るスネーク系を一気に切り裂いていく。
数体が倒れる。
残ったものも、周囲の冒険者たちがすぐに仕留めた。
「取り巻き、ほぼ片付いた!」
声が上がる。
ガレスが即座に指示を出す。
「取り巻き処理班!」
「動ける者は本体へ合流!」
「来たぞ!」
バルガが笑う。
「最後だな。」
「ああ。」
グレンもミスリルソードを握り直した。
二人で本体側へ走る。
ヒュドラは残る二本の首を激しく振り回していた。
「ギャオオオオッ!」
「前衛、もう少し耐えろ!」
大盾を持つ冒険者たちが必死に攻撃を受け止める。
グレンはヒュドラの側面へ回った。
「スマッシュウェーブ!」
衝撃波が首の一本へ当たる。
ヒュドラの頭がグレンへ向いた。
「こっちだ!」
「ギャアッ!」
首が伸びる。
巨大な牙。
正面から受ける気はない。
グレンはクイックの効いた身体で横へ跳んだ。
噛みつきが空を切る。
「今だ!」
その隙に。
「ライトニングバースト!」
雷撃が炸裂した。
「ギャアアアアッ!」
「火力集中!」
次々と魔法が飛ぶ。
ファイアランス。
ストーンバレット。
矢。
剣技。
槍。
総攻撃だった。
「一本落ちるぞ!」
深く傷ついた首へ、大剣が振り下ろされる。
ザンッ!
四本目が落ちた。
「焼け!」
炎が切断面を包む。
残る首は一本。
だがヒュドラも限界だった。
巨体が大きくふらつく。
「ここで決めるぞ!」
ガレスの声。
「全員、行け!」
「おおおおっ!」
前衛たちが一斉に踏み込む。
「グレン!」
「分かってる!」
グレンも走った。
ヒュドラが最後の首を振り下ろす。
バックラーを使って軌道を逸らす。
ガキィン!
「ぐっ!」
重い。
それでも。
身体強化。
防御強化。
衝撃耐性。
今のグレンなら、一瞬だけなら耐えられる。
「今!」
アイリの声。
「エアーカッター!」
風刃がヒュドラの顔面へ直撃する。
「ギャアッ!」
一瞬。
動きが止まる。
「行くぞ!」
グレン。
バルガ。
周囲の前衛たち。
一斉に攻撃を叩き込む。
「パワースラッシュ!」
グレンの剣が首元へ深く食い込む。
その直後。
「ライトニングバースト!」
雷撃。
さらに。
「ファイアランス!」
炎。
ヒュドラの巨体が大きく揺れた。
そして。
ドズゥン……。
最後の首が地面へ落ちる。
巨体も続いて崩れ落ちた。
しばらく。
誰も動かなかった。
「……。」
「……倒した?」
誰かが呟く。
ガレスがヒュドラを確認する。
そして。
「討伐完了!」
その声と同時に。
「おおおおおおっ!」
湿地に歓声が響いた。
「やった!」
「終わったぞ!」
「ヒュドラ討伐だ!」
グレンも大きく息を吐く。
「……長かった。」
「ほんとだね。」
いつの間にか、アイリが近くまで来ていた。
「大丈夫?」
「ああ。」
「アイリは?」
「私も大丈夫。」
二人は顔を見合わせる。
「初レイド。」
「うん。」
「無事に終わったな。」
「ちゃんと二人とも帰れそうだね。」
「ああ。」
それが一番だった。
少し離れたところで。
「グレン!」
バルガが手を上げる。
「お前ら二人、いい動きだったな!」
「そっちも。」
「今度また一緒にやろうぜ!」
「機会があれば。」
「絶対だぞ!」
アイリが小さく笑う。
「友達できたね。」
「友達なのか?」
「たぶん。」
「適当だな。」
やがて。
討伐隊は素材の回収を始めた。
ヒュドラの魔石。
牙。
鱗。
毒腺。
スネーク系の素材も大量にある。
個人で持ち帰るのではなく、今回はすべてギルドがまとめて管理し、後日参加者へ報酬として分配されることになった。
「今日はこれ以上戦うな。」
ガレスが全員へ言う。
「怪我人を確認したら帰還する。」
「了解!」
幸い。
重傷者はいたものの、命を落とした者はいなかった。
アイリを含む回復役たちが治療を続ける。
やがて帰還準備が整った。
グレンは湿地を振り返る。
巨大なヒュドラの亡骸。
大量の蛇。
そして。
共に戦った冒険者たち。
「二人だけじゃ絶対無理だったな。」
「うん。」
「でも。」
アイリが笑う。
「みんなで戦うのも悪くなかったね。」
「ああ。」
グレンも頷く。
「たまにならな。」
「たまになんだ。」
「俺はアイリと二人の方が気楽。」
「私も。」
二人は笑う。
初めてのレイド。
五頭ヒュドラ討伐。
こうして二人は。
誰一人欠けることなく、フォルンへの帰路についた。




