第51話 風の魔石
翌朝。
グレンとアイリは、再び冒険者ギルドを訪れていた。
「おはようございます。」
受付にいたミーナが二人へ笑顔を向ける。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「今日はどうされました?」
「ちょっと素材について相談したい。」
「素材ですか?」
「ああ。」
グレンはカウンターへ少し身を乗り出す。
「風属性の魔石って、ギルドで扱ってる?」
「風属性……。」
ミーナが少し考える。
「ありますよ。冒険者から買い取ったものを素材として販売しています。」
「よかった。」
アイリが嬉しそうに笑う。
「何に使われるんですか?」
「アイリの武器。」
「私の?」
ミーナがアイリを見る。
「今使ってるミスリルスタッフとは別に、短剣みたいな武器を作ろうと思ってる。」
グレンが説明する。
「俺、鍛冶スキルを覚えただろ?」
「はい。」
「昨日、鍛冶屋で炉を借りて練習してきた。」
「もうですか?」
「やってみたくて。」
ミーナが少し笑う。
「グレンさんらしいですね。」
「それで。」
グレンは続ける。
「ミスリルで短剣を作ろうと思ってる。」
「ミスリルなら魔力を通しやすいから、杖の代わりにもできるんじゃないかって。」
「なるほど。」
ミーナが頷く。
「ミスリルは魔力伝導率が高いですから、魔法使い用の武器にもよく使われます。」
「やっぱりいけるんだな。」
「はい。」
「それで、魔石を付けたら魔法の威力も上げられる?」
「属性が合っていれば、可能です。」
アイリの顔が明るくなる。
「じゃあ、エアーカッターも?」
「風属性の魔石なら、風魔法の威力を高める効果が期待できます。」
「やった。」
アイリが嬉しそうにグレンを見る。
「今回のレイドで使いたいんだ。」
「ヒュドラの周りに蛇がたくさんいるらしいから。」
「エアーカッターでまとめて倒せるなら、その威力を少しでも上げておきたい。」
「そういうことでしたか。」
ミーナは納得したように頷いた。
「少々お待ちください。」
奥へ向かう。
しばらくして。
小さな箱を持って戻ってきた。
「現在販売できる風属性の魔石はこちらです。」
箱が開かれる。
中には緑色を帯びた魔石がいくつか並んでいた。
「大きさが違うな。」
「はい。」
ミーナが順番に指差す。
「小型、中型、大型があります。」
「大きいほど強い?」
「基本的には、蓄えられている魔力も大きくなります。」
「ただし武器へ取り付ける場合は、大きすぎると重くなりますし、加工も難しくなります。」
「なるほど。」
グレンは魔石を見る。
短剣に付けるなら、大型は明らかに邪魔だ。
「中型かな。」
「私もそれくらいがいいと思う。」
アイリが答える。
「二つ欲しいんだけど。」
「二つですか?」
「ああ。」
グレンは自分が考えている短剣を思い浮かべる。
「鍔と柄の先。」
「そこに魔石を一つずつ入れられるようにしたい。」
「二つとも風属性にするんですね。」
「今回はな。」
「エアーカッターを強くしたいから。」
ミーナが頷く。
「それなら同じ属性の魔石を二つ使うことで、風魔法への補助効果を高められると思います。」
「ただし。」
「ん?」
「魔石を付ければ付けるほど無制限に強くなるわけではありません。」
「武器側が魔力をうまく通せなければ、効果を十分に引き出せないこともあります。」
「そこは作り方次第か。」
「はい。」
グレンは少し考える。
ミスリルなら魔力伝導率は高い。
なら。
「やってみる価値はあるな。」
「うん。」
「中型を二つお願いします。」
アイリが言う。
「かしこまりました。」
ミーナが二つの魔石を選び、別の小箱へ入れる。
価格を聞いて。
「……結構するな。」
グレンが呟いた。
「属性付きの中型魔石ですから。」
「やっぱり高い?」
アイリが聞く。
「いや。」
グレンは首を振る。
「買える。」
最近の階層攻略。
ミノタウロスの討伐。
素材の売却。
以前なら躊躇した金額だが、今なら無理をするほどではない。
「買おう。」
「いいの?」
「ああ。」
「レイドで役立つし、何よりアイリの武器に使うんだから。」
「……うん。」
アイリが嬉しそうに笑う。
代金を支払い。
二つの風属性魔石を受け取った。
「ありがとうございます。」
「こっちこそ。」
グレンは小箱をマジックバッグへしまう。
「そういえば。」
ミーナが二人を見る。
「どんな形の武器になるんですか?」
「まだ完全には決めてない。」
グレンは手で長さを示す。
「このくらいの短剣。」
「でも普通の短剣より少し長めにするかもしれない。」
「アイリが扱いやすくて、魔法を使う時にも構えやすい長さにしたい。」
「私、剣なんて使ったことないけどね。」
「だから本格的に斬り合うためじゃない。」
グレンが答える。
「敵に近付かれた時に距離を取るための武器だ。」
「今はバックラーもあるし。」
「盾で防いで、短剣で牽制できれば逃げる時間くらいは作れる。」
「なるほど。」
ミーナが感心したように頷く。
「それなら後衛のアイリさんにも合いそうですね。」
「それに。」
アイリが少し嬉しそうに言う。
「杖としても使える予定なんです。」
「短剣が杖に?」
「ミスリルだからな。」
グレンが答える。
「魔法を使う時は、短剣そのものを媒体にする。」
「鍔と柄頭に風の魔石。」
「それでエアーカッターを強化する。」
ミーナが短剣の形を想像する。
「面白い武器になりそうですね。」
「だろ?」
グレンが少し得意そうに笑う。
その顔を見て。
「また楽しそう。」
アイリが呟く。
「そりゃ楽しいよ。」
「自分の武器じゃないのに?」
「アイリのだから楽しいんだよ。」
「……。」
アイリが黙る。
「どうした?」
「なんでもない。」
少しだけ頬が赤い。
ミーナはそんな二人を見て、静かに笑っていた。
ギルドを出る。
「このままドランのところ行く?」
アイリが聞く。
「ああ。」
「魔石も手に入ったしな。」
「ミスリルインゴットも持ってる?」
「もちろん。」
マジックバッグの中には。
八階層の隠し部屋で見つけたミスリルインゴット。
そして。
今買った二つの風属性魔石。
「今日はミスリルを叩くの?」
「そのつもり。」
「ドランさん、喜びそう。」
「昨日、絶対先に言えって言われたからな。」
二人は職人街へ向かう。
やがて。
昨日訪れた鍛冶屋へ到着した。
カンッ!
カンッ!
今日も工房から鉄を叩く音が聞こえている。
「ドラン。」
グレンが声を掛ける。
「ん?」
奥から顔を出したドランが二人を見る。
「また来たのか。」
「ああ。」
「今日は何を作る?」
グレンはマジックバッグへ手を入れる。
取り出したのは。
銀色に輝くインゴット。
「……。」
ドランの目が止まった。
「ミスリル。」
「ああ。」
「昨日言ってたやつ。」
さらに。
二つの風属性魔石が入った小箱を見せる。
「今日はこれを使いたい。」
ドランはしばらく黙ったあと。
「店、今日は早仕舞いするか。」
「そこまで?」
「当たり前だ!」
ドランの声が工房に響く。
「ミスリル叩くところなんて滅多に見られねえんだぞ!」
アイリが吹き出した。
「ふふっ。」
「笑うなよ。」
「だって。」
グレンも苦笑する。
「じゃあ。」
ドランが腕をまくる。
「始めるぞ。」
「ああ。」
グレンはミスリルインゴットを見る。
作るのは。
アイリのための新しい武器。
魔法を放ち。
もし敵に近付かれても、自分を守れる。
ミスリルの短剣。
その形が。
ようやく、はっきりと見え始めていた。




