第5話 初めての実戦
翌朝。
「よく眠れた?」
朝食を並べながら、アイリが微笑む。
「ああ」
グレンは頷いた。
昨日は興奮して眠れないかと思ったが、不思議とぐっすり眠ることができた。
今朝も身体は軽い。
何より、新しいスキルを試せることが楽しみだった。
「今日は昨日と同じダンジョン?」
「ああ」
グレンはパンをちぎりながら答える。
「まずはスマッシュウェーブを試してみたい。」
「無理はしないでね。」
「もちろん。」
グレンは笑う。
「試すだけだ。」
「それなら安心。」
朝食を終えた二人は冒険者ギルドへ向かった。
受付には、いつものようにミーナがいる。
「おはようございます!」
「おはよう。」
「今日も依頼ですか?」
「ああ。昨日と同じくらいの討伐依頼を頼む。」
「でしたら、オーク五体ですね。」
「それで。」
手続きを済ませると、二人は街を出た。
歩きながらアイリが小声で話しかける。
「本当に誰にも話さなくていいの?」
「話せないよ。」
「そうだね。」
「スキルブック合成なんて知られたら、普通の生活は終わる。」
「秘密だね。」
「ああ。」
二人だけの秘密。
それが何よりも大切だった。
ダンジョンへ到着し、五階層へ向かう。
昨日と変わらない静かな通路。
グレンは剣へ手を添えた。
「いた。」
少し離れた場所に、オークが一体。
こちらにはまだ気付いていない。
「ちょうどいいね。」
「ああ。」
グレンは深呼吸する。
「少し離れる。」
「分かった。」
アイリは後方で杖を構えた。
「身体強化。」
淡い光がグレンを包む。
「ありがとう。」
グレンは剣をゆっくり構えた。
頭の中で、新しいスキルを思い浮かべる。
「スマッシュウェーブ。」
剣を横へ薙ぐ。
ブォンッ――。
目には見えない衝撃波が一直線に飛び、十メートルほど先にいたオークの胸へ命中した。
ドンッ!
「グオォッ!」
オークが大きくのけぞる。
「当たった!」
アイリが思わず声を上げた。
グレンも驚いている。
ここまで届くとは思わなかった。
オークは怒りながらこちらへ走ってくる。
「もう一発!」
スマッシュウェーブ。
再び衝撃波が飛ぶ。
今度は肩へ命中した。
体勢を崩したオークへ、グレンは落ち着いて近付く。
「連続斬り!」
二連撃。
オークは光となって消えた。
「……すごい。」
アイリが目を丸くする。
「戦う時間が全然違う。」
「ああ。」
グレンも剣を見つめる。
「近付く前に二回攻撃できる。」
「その分、安全だね。」
「そういうことか。」
グレンは納得した。
スマッシュウェーブは派手な必殺技ではない。
だが、一撃先に入れられる。
それだけで戦いは驚くほど楽になる。
「これなら。」
グレンは周囲を見回した。
「今までより一段深い階層も、安全に探索できるかもしれない。」
「でも無理はしないよ?」
「もちろん。」
その時だった。
通路の奥から、もう一体のオークが現れる。
先ほどの戦闘音を聞きつけたのだろう。
「ちょうどいい。」
グレンは剣を構えた。
「今度は距離を変えてみる。」
「研究だね。」
「ああ。」
スマッシュウェーブ。
衝撃波が飛ぶ。
今度は少し離れすぎていた。
オークの手前で衝撃波が霧のように消える。
「届かない?」
「距離に限界があるみたいだ。」
グレンは小さく頷いた。
「これも大事な情報だ。」
「何でも試してみないと分からないね。」
「ああ。」
もう一度距離を詰める。
スマッシュウェーブ。
今度は命中した。
「このくらいか。」
グレンは心の中で距離を覚える。
このスキルも万能ではない。
射程には限界がある。
連発にも体力を使う。
だからこそ、正しく使えば強い。
「本当に研究してるね。」
アイリが笑う。
「せっかく世界で一つだけのスキルなんだ。」
グレンも笑い返した。
「ちゃんと使いこなさないともったいない。」
二人はその後も探索を続けた。
昨日より少しだけ安全に。
昨日より少しだけ余裕を持って。
そして、その成果はすぐに現れる。
「グレン!」
「ん?」
「またスキルブック!」
アイリが指差した先。
オークが消えた場所に、一冊の白いスキルブックが落ちていた。
グレンはそれを拾い上げ、嬉しそうに笑う。
「よし。」
「また合成できるね。」
「ああ。」
価値がないと思っていた白いスキルブック。
今では二人にとって、何よりも嬉しい戦利品だった。




