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第4話 初めての合成

「試してみよう」


 グレンの言葉に、アイリも力強く頷いた。


「でも、どうやって使うのかな?」


「さあな」


 グレンは頭を掻く。


 ユニークスキルを覚えたものの、使い方までは分からない。


 頭の中に浮かんだのは、名前だけだった。


「とりあえず、スキルブックを出してみるか」


「うん」


 グレンは立ち上がると、部屋の隅に置かれた古い木箱を持ってきた。


 鍵を外し、蓋を開ける。


 中には何冊ものスキルブックが並んでいた。


「まだこんなに残してたんだ」


「全部売ってたわけじゃないからな」


 グレンは苦笑する。


「安すぎて売る気にならなかった物もあるし、売りに行くのを忘れて、そのまましまい込んだ物もある」


「思い出もあるもんね」


「ああ」


 冒険者になって間もない頃に拾ったスキルブック。


 上位互換を覚えて不要になったスキルブック。


 ほとんど価値が付かない生活系スキル。


 全部で十冊ほど残っていた。


「まずは、この辺かな」


 グレンが取り出したのは、今日拾った『二段斬り』。


 そして、木箱の中から『衝撃』のスキルブックを取り出す。


 どちらも白いスキルブックだ。


「この組み合わせ?」


「ああ」


 グレンは頷いた。


「剣技と衝撃なら、剣技が強くなる気がする」


「私もそんな気がする」


 もっとも、それは二人の予想でしかない。


 ユニークスキルについて知っている者など、この世界にはいないのだから。


「やってみる」


 グレンは二冊のスキルブックを重ねた。


 その瞬間だった。


 二冊が淡い白い光に包まれる。


「えっ!?」


 アイリが目を見開く。


 スキルブックがゆっくりと宙へ浮かび上がった。


「勝手に……!」


 二冊は光へ溶けるように形を失っていく。


 やがて光が一つへ集まり、新しい一冊のスキルブックへ姿を変えた。


 色は――緑。


「成功……した?」


 グレンは慎重に手を伸ばし、新しいスキルブックを手に取る。


「緑になってる……」


「白二冊が、本当に緑になったんだ」


 恐る恐る表紙を開く。


「……スマッシュウェーブ?」


「聞いたことある?」


「いや」


 二人とも首を横へ振る。


 説明を読む。


『武器を振るうことで衝撃波を飛ばし、離れた敵へ攻撃できる。』


「遠距離攻撃……」


 アイリが驚きの声を漏らす。


「剣を振るうだけで?」


「ああ」


 グレンも目を見開いた。


「二段斬りが強くなると思ってた」


「私も」


「まさか、こんなスキルになるなんて」


 予想とはまったく違う。


 だが、剣技と衝撃、その両方の特徴を受け継いでいることは分かった。


 素材によって方向性はある。


 しかし、完成するスキルは予想どおりとは限らない。


「これが合成……」


 グレンは静かに呟いた。


「どうする?」


 アイリが尋ねる。


「覚える?」


 グレンは少しだけ考え込む。


 もしもっと強力なスキルが作れるなら。


 そんな考えも頭をよぎった。


 だが、すぐに首を横へ振る。


「いや、覚えよう」


「いいの?」


「ああ」


 グレンは笑みを浮かべた。


「遠距離攻撃ができるようになれば、今までより安全に戦える」


「うん」


「安全にダンジョンへ潜れるなら、その分スキルブックも集めやすくなる」


 アイリも納得したように頷く。


「確かにそうだね」


「俺たちの目的は、スキルブックを集めることだ」


「だったら、安全に戦える力は必要だね」


「ああ」


 グレンは迷いなくスマッシュウェーブのスキルブックを開いた。


 緑色の光が身体を包み込む。


 しばらくすると光は静かに消え、新しいスキルブックも跡形なく消滅した。


「どう?」


 アイリが心配そうに尋ねる。


 グレンは目を閉じる。


 頭の中へ、新しい技の使い方が自然と流れ込んできた。


「ああ……使える」


「本当?」


「試してみよう」


 二人は庭へ出る。


 グレンは少し離れた切り株へ向かって剣を構えた。


「スマッシュウェーブ」


 剣を横へ振る。


 その瞬間、透明な衝撃波が一直線に飛んだ。


 ドンッ!


 数メートル先の切り株へ命中し、大きく揺れる。


「届いた……」


 グレンは思わず息を呑んだ。


 今までなら絶対に届かなかった距離だ。


「すごい!」


 アイリも目を輝かせる。


「これなら魔物に近付く前に攻撃できるね!」


「ああ」


 グレンはゆっくり頷いた。


「危険が減る」


「うん」


「アイリを危険な場所まで近付かせる場面も減らせる」


「グレン……」


「このスキルは覚えて正解だった」


 グレンは剣を鞘へ納める。


 胸の中には高揚感よりも安心感があった。


 強くなったからではない。


 生きて帰れる可能性が高くなったからだ。


「よし」


 グレンは木箱へ目を向ける。


「明日からは、今まで以上にスキルブックを集めよう」


「合成するため?」


「ああ」


「そして、もっと安全に戦えるスキルを増やしていく」


 アイリは嬉しそうに笑った。


「なんだか、これからが楽しみだね」


「俺もだ」


 価値がないと思っていたスキルブックが、未来を切り開く素材へ変わった。


 その日から、グレンたち夫婦の冒険者人生は、新たな一歩を踏み出したのだった。

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