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第3話 ユニークスキル

 フォルンへ戻ったグレンとアイリは、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


「お帰りなさい!」


 受付にいたミーナが笑顔で迎える。


「依頼達成だ」


「確認しますね」


 オークの牙と魔石を提出すると、ミーナは慣れた手つきで確認を終えた。


「問題ありません。こちらが報酬です」


 革袋を受け取り、中身を確認する。


 銀貨が数枚。


 決して多くはないが、二人で生活するには十分な報酬だった。


「今日はスキルブックは出ましたか?」


「ああ、一冊だけ」


「何でした?」


「二段斬り」


「ああ……」


 ミーナが苦笑する。


「またですか」


「まただ」


「売却します?」


 グレンは鞄へ手を添えた。


 赤いスキルブックも、その隣にある二段斬りのスキルブックも、そこに入っている。


「今日はやめておく」


「珍しいですね」


「なんとなくな」


「分かりました」


 ミーナは特に気にする様子もなく頷いた。


 白いスキルブックを持ち帰る冒険者も珍しくはない。


 それ以上、詮索されることはなかった。


「それじゃあ、またお願いします」


「ああ」


 二人は報酬だけを受け取り、ギルドをあとにした。


 家へ帰る道中も、赤いスキルブックの話はしなかった。


 誰に聞かれているか分からない。


 そんな不安があったからだ。


 家へ戻ると、グレンは玄関に鍵を掛ける。


 窓の鍵も確認し、カーテンを閉めた。


 アイリもその様子を黙って見守っている。


「そこまで警戒する?」


「するさ」


 グレンは苦笑した。


「俺たちが見つけたのが本当に伝説のスキルブックなら、慎重すぎるくらいでちょうどいい」


「そうだね」


 二人は向かい合って椅子に座る。


 グレンは鞄から二冊のスキルブックを取り出した。


 一冊は白い『二段斬り』。


 そしてもう一冊は、深紅に輝くスキルブックだった。


 部屋の灯りを受け、その表紙が妖しく輝く。


「やっぱり綺麗……」


 アイリが小さく呟く。


「さて」


 グレンは赤いスキルブックへ視線を落とした。


「どうする?」


 アイリが真剣な表情で尋ねる。


「売る?」


 グレンはゆっくり首を横へ振った。


「いや、売れない」


「私もそう思う」


「もし本物なら、売った瞬間に誰の手へ渡るか分からない」


「買った人が秘密にするとも限らないしね」


「ああ」


 グレンは静かに頷く。


「俺たちが持っていたと知られたら、それだけで狙われる可能性がある」


「盗まれるかもしれない」


「最悪――命までな」


 部屋に静寂が流れる。


 二人とも、その意味を理解していた。


 赤いスキルブックは金貨何枚という話ではない。


 国が動いてもおかしくない代物かもしれないのだ。


「だったら……」


 アイリが赤いスキルブックへ目を向ける。


「使っちゃおう」


「ああ」


 グレンも同意した。


「スキルブックは使えば消える」


「誰にも見られなければ、秘密にできるね」


「それが一番安全だ」


 問題は、もう一つあった。


「でも」


 アイリが首を傾げる。


「どっちが使う?」


 グレンは迷わず答えた。


「俺だ」


「理由を聞いてもいい?」


「もし前衛向けのスキルだったら、アイリが覚えても活かせない」


 アイリは黙って耳を傾ける。


「でも俺なら、回復魔法や支援魔法だったとしても無駄にはならない」


「確かに……」


「前衛が後衛スキルを覚えるのは困らない。でも、後衛が剣技ばかり覚えても意味がないからな」


 アイリは納得したように頷いた。


「グレンらしい考え方だね」


「俺が前に立つ。アイリは後ろから支えてくれ」


「うん」


 そう言って微笑む。


 前世でも、この世界でも。


 二人はずっとそうやって支え合ってきた。


 するとアイリが、ふっと笑った。


「もし料理が上手になるスキルだったら?」


「その時は毎日俺が作る」


「本当に?」


「もちろん」


「期待しちゃおうかな」


「任せろ」


 二人は笑い合う。


 少しだけ緊張がほぐれた。


 グレンは深呼吸を一つすると、赤いスキルブックを両手で持ち上げた。


「じゃあ、使うぞ」


「うん」


 表紙を開いた、その瞬間だった。


 眩い赤い光が部屋中へ溢れ出す。


「っ!」


 思わず目を閉じる。


 光は一瞬でグレンの身体へ吸い込まれ、静かに消えた。


 手の中を見る。


 赤いスキルブックは跡形もなく消えていた。


「グレン!」


「大丈夫だ」


 身体に痛みはない。


 熱もない。


 だが、頭の中へ直接響くような、不思議な声が聞こえた。


『ユニークスキル【スキルブック合成】を習得しました』


 グレンはゆっくりと目を開く。


「……スキルブック合成?」


「何か分かったの?」


 グレンは聞こえた言葉を、そのままアイリへ伝えた。


「ユニークスキル……スキルブック合成?」


「そんなスキル、聞いたことないよ」


「俺も初めてだ」


 二人は顔を見合わせる。


 伝説の赤いスキルブック。


 そこに宿っていた力は、想像していた剣技でも魔法でもなかった。


 だが、グレンには確信があった。


「試してみよう」


「うん」


 アイリも力強く頷く。


 二人はまだ知らない。


 このユニークスキルが、不要だと思われていたスキルブックの価値を、この世界から変えてしまうほどの力を秘めていることを。

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