↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/50

第49話 初めての紫

 レイドへの参加申し込みを済ませてから二日後。


 グレンとアイリは、買い物のついでに冒険者ギルドへ立ち寄っていた。


「おはようございます。」


 受付にいたミーナが二人に気付いて笑顔を向ける。


「おはよう。」


「おはようございます。」


「今日は依頼ですか?」


「いや。」


 グレンは首を振った。


「レイドまでは休むつもりだから、今日は特に。」


「そうでしたね。」


 ミーナが頷く。


「しっかり身体を休めておいてくださいね。」


「ああ。」


 その時。


 受付の奥からガレスが姿を現した。


「グレン。」


「ん?」


「ちょうどよかった。」


 ガレスは二人へ近付いてくる。


「少し時間をもらえるか?」


 グレンはアイリを見る。


「いい?」


「うん。」


 二人はガレスに案内され、以前にも使った奥の部屋へ入った。


 扉が閉じられる。


「レイドには正式に参加すると聞いた。」


「ああ。」


「だからこそ、その前に頼んでおきたい仕事がある。」


 グレンはすぐに察した。


「またスキルブック?」


「そうだ。」


 ガレスが頷く。


「前回の結果が良かったからな。」


「今回は何冊?」


「六十冊だ。」


「六十?」


 グレンが少し驚く。


 前回の四十冊より、さらに多い。


「ずいぶん集めたな。」


「ギルドには白のスキルブックがかなり眠っている。」


 白のスキルブックは珍しいものではない。


 冒険者から買い取ったものの、需要が低く、長期間保管されたままの本も多かった。


「前回までは青までだったが。」


 ガレスはグレンを見る。


「今回は、その先まで頼みたい。」


「紫?」


「ああ。」


 グレンの目が少し輝いた。


 白六十冊。


 白二冊で緑一冊。


 緑二冊で青一冊。


 青三冊で紫一冊。


「白六十なら……。」


「緑三十。」


 アイリが続ける。


「青十五。」


「そこから紫五冊だな。」


「そういうことだ。」


 ガレスが頷く。


「今回のレイドはヒュドラに加えて、多数のスネーク系が確認されている。」


「青でも十分戦力にはなる。」


「だが、紫がどれほどの力を持っているのか、一度確認しておきたい。」


「レイドに使えるものが出るとは限らないぞ?」


「分かっている。」


 ガレスは迷わなかった。


「何が出るか分からないことも、同じものが出る可能性があることも承知している。」


「それでも紫まで?」


「ああ。」


「倉庫で白のまま眠らせておくより、今後も含めて価値がある。」


「なるほど。」


 グレンは納得した。


「報酬は?」


「前回と同じ割合だ。」


 ガレスは指を一本立てる。


「完成した紫五冊のうち、一冊をお前が選んでいい。」


「紫を一冊?」


「ああ。」


 グレンはアイリを見る。


 アイリも少し驚いている。


 青でもかなり価値が高い。


 それが紫。


「いいのか?」


「六十冊を紫まで加工してもらうんだ。当然だろう。」


「じゃあ、やる。」


 即答だった。


「グレン、ちょっと楽しそう。」


「そりゃ初めての紫だからな。」


 ガレスが苦笑する。


「仕事だということも忘れるなよ。」


「分かってる。」


 大きな箱が運び込まれる。


 中には白いスキルブックがぎっしりと詰め込まれていた。


「じゃあ始めるか。」


 グレンが最初の二冊を手に取る。


「スキルブック合成。」


 光。


 二冊の白い本が一冊の緑へ変わる。


 次。


 また次。


 同じ作業を繰り返す。


 アイリが出来上がった本を数えていく。


「二十八。」


「二十九。」


「三十。」


 テーブルの上に緑のスキルブックが三十冊並んだ。


「次は青だ。」


 再び合成。


 緑二冊が青一冊へ。


 十五回。


 やがて十五冊の青いスキルブックが完成した。


 そして。


 グレンは三冊の青を手に取った。


「とうとうだな。」


「うん。」


 アイリも少し身を乗り出す。


 ガレスも黙って見ていた。


「スキルブック合成。」


 三冊の青が強い光に包まれる。


 光が一つへ集まり。


 そこに現れたのは。


 紫色のスキルブック。


「おお……。」


 グレンが思わず声を漏らす。


「紫。」


「本当にできたね。」


「ああ。」


 初めて見る紫のスキルブック。


 青とは明らかに雰囲気が違う。


「まだ四冊あるぞ。」


 ガレスに言われ。


「分かってる。」


 グレンは次の三冊を手に取った。


 合成。


 二冊目。


 三冊目。


 四冊目。


 そして。


「スキルブック合成。」


 五冊目。


 テーブルの上に、五冊の紫色のスキルブックが並んだ。


「すごいね……。」


 アイリが見つめる。


「じゃあ、中身を確認するぞ。」


 グレンが一冊目を開いた。



【ハイヒール】


重い傷を癒やす高位回復魔法。



「おお。」


 アイリが反応する。


「ヒールの上位だな。」


「これはかなり使えそう。」


 ガレスも頷く。


「レイドの回復役に渡せば大きな戦力になる。」


 二冊目。



【ポイズンガード】


一定時間、自身と周囲の仲間の毒への抵抗力を大きく高める。



「これは今回にぴったりだな。」


 グレンが思わず笑う。


「ヒュドラにスネーク系。」


「ああ。」


 ガレスの表情も明るい。


「レイド本隊に回す。」


 三冊目。



【グランドシールド】


広範囲に防御障壁を展開し、味方への攻撃を軽減する。



「これもレイド向きだね。」


「複数人を守れるなら大きいな。」


 三冊続けて、かなり有用なスキルだった。


「紫ってやっぱりすごいな。」


「青より明らかに一段上だね。」


「次。」


 四冊目。


 グレンが内容を確認する。



【ライトニングバースト】


雷撃を広範囲へ放つ高位攻撃魔法。



「範囲攻撃。」


 アイリが目を丸くする。


「しかも雷か。」


「これも強そう。」


「魔法使いに回せば役立つだろう。」


 ガレスが頷く。


「最後だな。」


「ああ。」


 グレンは五冊目を手に取る。


 開く。


 そして。


「……ん?」


「どうしたの?」


 アイリが覗き込む。



【鍛冶】


武器や防具を製作・加工するための生産スキル。


素材の特性を引き出し、高品質な装備を製作できる。



「鍛冶……。」


 アイリが呟く。


「戦闘スキルじゃないね。」


「ああ。」


 ガレスも本を見る。


「紫で生産スキルか。」


 グレンは黙って鍛冶の本を見つめていた。


「グレン?」


「……これにする。」


「え?」


 アイリが顔を見る。


「報酬。」


 グレンは鍛冶のスキルブックを指差した。


「俺はこれが欲しい。」


「ハイヒールじゃなくて?」


「ハイヒールも欲しい。」


「グランドシールドも強そうだし、ライトニングバーストもかなり強い。」


「でも。」


 グレンはアイリを見る。


「これがいい。」


「鍛冶?」


「ああ。」


「どうして?」


 グレンは少し笑った。


「アイリの武器を作りたい。」


「……私の?」


「ああ。」


 グレンはアイリが持つミスリルスタッフへ目を向ける。


「今のスタッフもいい武器だ。」


「でも、敵に接近された時は何もできないだろ?」


「まあ……うん。」


「前に考えただろ。」


 アイリが思い出した。


「杖として使えて、短剣にもなる武器?」


「それ。」


 グレンが頷く。


「作れるかどうかはまだ分からない。」


「鍛冶だけで杖の機能まで付けられるかも分からないしな。」


「でも、作れるようになるための最初の一歩にはなる。」


 アイリはしばらくグレンを見つめる。


「自分の武器じゃなくていいの?」


「俺はミスリルソードがある。」


「それに。」


 グレンは当然のように言った。


「アイリが自分を守れるようになった方が、俺も安心できる。」


「……そっか。」


 アイリが少し嬉しそうに笑った。


「じゃあ、お願いしようかな。」


「ああ。」


 グレンはガレスを見る。


「これをもらっていい?」


「約束だからな。」


 ガレスが頷く。


「好きな一冊を選べ。」


「ありがとう。」


 グレンは鍛冶のスキルブックへ手を置いた。


 紫色の光が溢れる。


 その光が身体へ吸い込まれていった。


 スキル――鍛冶。


 習得。


「どう?」


 アイリが聞く。


「……なんとなく分かる。」


「何が?」


「金属の扱い方とか。」


「武器を作る手順とか。」


 今まで知らなかった知識が、頭の中に自然と浮かんでくる。


「でも。」


 グレンは苦笑する。


「道具もない。」


「あ。」


「炉も金床もない。」


「そりゃそうか。」


 二人で笑う。


「まずは鍛冶場をどうするかだな。」


「借りられるところとかあるかな?」


「探してみよう。」


 そこでグレンがふと思い出す。


「それに素材なら一つある。」


「素材?」


「八階層で見つけたミスリルインゴット。」


「あ!」


 アイリも思い出す。


「売らずに取っておいたやつ。」


「ああ。」


「あれを使えるかもしれない。」


 アイリの顔が嬉しそうにほころぶ。


「なんか楽しみになってきた。」


「まだ作れるって決まったわけじゃないぞ。」


「でも、グレンが作ってくれるんでしょ?」


「作れるように頑張るよ。」


「うん。」


 残る四冊。


 ハイヒール。


 ポイズンガード。


 グランドシールド。


 ライトニングバースト。


 どれもギルドのものとなった。


「ポイズンガードは今回のレイドに回す。」


 ガレスが言う。


「グランドシールドも参加者の中から適任を選ぶ。」


「ハイヒールも回復役に?」


「ああ。」


「ライトニングバーストも含めて、誰に習得させるかは慎重に決める。」


 ガレスは四冊を箱へしまった。


「今回は想像以上の成果だった。」


「俺も。」


 グレンは自分の手を見る。


 初めての紫。


 そして、初めての生産スキル。


「まさか鍛冶が出るとは思わなかった。」


「何が出るか分からないもんね。」


「ああ。」


 だから。


 面白い。


 部屋を出ようとすると、ガレスが二人へ声を掛ける。


「レイド前だ。」


「鍛冶に夢中になって徹夜するなよ。」


「しないよ。」


 グレンが答える。


 横から。


「怪しい。」


 アイリが呟く。


「なんでだよ。」


「絶対すぐ試したくなるでしょ?」


「……少しは。」


「ほら。」


 ガレスが呆れたように笑った。


「ちゃんと休め。」


「ああ。」


 ギルドを出た二人は並んで家へ向かう。


「ねえ、グレン。」


「ん?」


「どんな武器になるかな。」


「まだ分からない。」


「短剣みたいな形?」


「それが使いやすそうだな。」


「でも魔法も使いたい。」


「ああ。」


「そこは今後考えよう。」


 鍛冶だけでは足りないかもしれない。


 別の技術やスキルが必要になる可能性もある。


 それでも。


「まずは作ってみる。」


「うん。」


 グレンが作る。


 アイリのための武器。


 二人に、新しい楽しみが一つ増えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。