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第48話 久しぶりのデート

 翌朝。


 グレンとアイリは冒険者ギルドを訪れていた。


「おはようございます。」


 受付にいたミーナが二人に気付く。


「おはよう。」


「おはようございます。」


 グレンは受付の前へ立った。


「この前のレイドの件なんだけど。」


「はい。」


「参加する。」


 ミーナの表情が明るくなる。


「ありがとうございます。では、参加登録をしておきますね。」


「ああ。」


「打ち合わせはレイド前日の午後に行われます。それまでに一度ギルドへ来てください。」


「分かった。」


「場所や編成についても、その時に説明があります。」


 ミーナが手続きを進めていく。


「これで登録完了です。」


「ありがとう。」


「お二人とも、無理はしないでくださいね。」


「もちろん。」


 グレンは頷いた。


 初めてのレイド。


 興味はある。


 だが、準備もなく飛び込むつもりはない。


 幸い、レイドまではまだ数日ある。


 ギルドを出ると、アイリが隣を歩きながら聞いてきた。


「ねえ、グレン。」


「ん?」


「レイドまでは休むんだよね?」


「ああ、そのつもり。」


 ここ最近は七階層、八階層と続けて攻略していた。


 討伐報酬も素材の売却額も増えている。


 以前のように、休んだらその日の生活費が心配になるほど余裕がないわけではない。


「何日か休んでも問題ないだろ。」


「ほんと?」


「たまには身体を休めないとな。」


 そう答えると。


 アイリが少しだけ嬉しそうな顔をした。


「じゃあ……。」


「ん?」


「デートしたい。」


 グレンが足を止める。


「デート?」


「うん。」


 アイリも立ち止まった。


「最近ずっとダンジョンばっかりだったでしょ?」


「まあ……そうだな。」


「せっかくお休みなんだから、二人で街を歩きたい。」


「二人なら毎日一緒にいるけど。」


「それとデートは違うの。」


「そういうもんか?」


「そういうものです。」


 少し頬を膨らませるアイリを見て。


 グレンは笑った。


「分かった。」


「ほんと?」


「ああ。」


「デートしよう。」


「やった。」


 途端にアイリの機嫌が戻る。


「何したい?」


「うーん。」


 アイリは考えながら歩き始める。


「まず街を見て回りたい。」


「それから?」


「お昼はちょっといいところで食べたい。」


「いいな。」


「あと服も見たい。」


「服?」


「普段着。」


 アイリが自分の服を見る。


「最近、冒険用のものばっかり買ってるから。」


「確かに。」


 装備はずいぶん良くなった。


 ミスリルスタッフ。


 ミスリルライトアーマー。


 そして昨日手に入れたミスリルバックラー。


 だが、普段着まで新しくしていたわけではない。


「じゃあ見に行くか。」


「うん。」


 二人は商業区へ向かった。


 朝の通りにはすでに多くの店が開いている。


 食品。


 日用品。


 服。


 武器や防具。


 魔道具。


 以前なら値段を見て素通りしていた店にも、今なら少しくらいなら入れる。


「なんか不思議だな。」


「なにが?」


「前は、この辺の店ってあんまり見なかっただろ。」


「高かったからね。」


「ああ。」


「今でも高いものは高いけど。」


 アイリが笑う。


「見るくらいはできるようになったね。」


「そうだな。」


 最初に入ったのは服屋だった。


 冒険者向けではなく、普段着を扱う店。


 アイリは楽しそうに店内を見て回る。


「これ、どう?」


 しばらくして、淡い色のワンピースを手に取った。


「似合うと思う。」


「ほんと?」


「ああ。」


「じゃあ試着してくる。」


 奥へ消える。


 少しして。


「グレン。」


 振り向く。


 試着室から出てきたアイリが、少し照れながら裾を整えていた。


「どう?」


 グレンは一瞬黙る。


「……可愛い。」


「え?」


「似合ってる。」


 言い直したが遅かった。


 アイリが嬉しそうに笑う。


「今、可愛いって言った。」


「言ったけど。」


「もう一回。」


「なんでだよ。」


「いいから。」


 グレンは周囲を見る。


 店員が少し笑っている。


「……可愛いよ。」


「ふふっ。」


「満足か?」


「うん。」


 結局、そのワンピースを買うことになった。


「グレンも何か買えば?」


「俺はいいよ。」


「だめ。」


「なんで。」


「デートなんだから。」


「関係ある?」


「ある。」


 押し切られ。


 グレンも普段着を一着選ぶことになった。


 服屋を出たあとは、少し高めの食堂へ入った。


 肉料理。


 焼きたてのパン。


 スープ。


「おいしい。」


 アイリが嬉しそうに食べる。


「たまにはこういうのもいいな。」


「でしょ?」


「ああ。」


 以前なら値段を気にして頼まなかった料理だ。


 それでも今は、今日一日くらいなら何も問題ない。


 食事を終えて再び街を歩く。


 その途中。


 アイリが一軒の店の前で立ち止まった。


「ここ見ていい?」


 冒険者向けの衣料品店だった。


「いいよ。」


 二人で中へ入る。


 服屋とは違い、並んでいるのは鎧の下に着るインナーや丈夫な肌着。


 さらに奥には、付与魔法が施された商品も並んでいた。


「こういうのもあるんだ。」


 アイリが一着を手に取る。


 普通の薄手のインナーに見える。


 だが札には説明が書かれていた。


「疲労軽減……。」


 グレンも覗き込む。


「長時間の活動による疲労を軽減する付与魔法付き、だって。」


「へえ。」


 他にも並んでいる。


 体温調節。


 衝撃軽減。


 魔力回復補助。


 汗や湿気を逃がすもの。


「色々あるんだな。」


「ね。」


 アイリは疲労軽減のインナーを触ってみる。


「これ、鎧の下に着たら楽そう。」


「確かに。」


 グレンは値札を見る。


「……結構するな。」


「やっぱり高い?」


「普通のインナー何着分だろうな。」


 アイリはそっと棚へ戻そうとする。


「じゃあ、やめとく?」


「いや。」


 グレンが止めた。


「買おう。」


「いいの?」


「ああ。」


「最近は余裕もあるし、毎回使うものだからな。」


「でも二人分だよ?」


「だからこそだろ。」


 ダンジョンでは何時間も歩き続ける。


 鎧を着て戦う。


 疲れが少しでも減るなら、その分だけ集中力も保てる。


「身体を守るための金なら惜しまなくていい。」


「……うん。」


 アイリが嬉しそうに笑う。


 二人分の疲労軽減インナーを購入することにした。


 店員にサイズを確認してもらい、商品を受け取る。


 店を出ると。


 アイリが袋を持ちながら笑った。


「なんか今日、いっぱい買ったね。」


「たまにはいいだろ。」


「うん。」


「まだどこか行きたい?」


「そうだなぁ。」


 アイリが少し考える。


 そして。


「甘いもの食べたい。」


「さっき昼飯食ったばっかりだぞ?」


「甘いものは別。」


「前世でも言ってたな、それ。」


「今も同じです。」


 グレンは笑う。


「じゃあ探すか。」


「うん!」


 二人は並んで歩き出した。


 ダンジョンも。


 レイドも。


 今日は関係ない。


 久しぶりに。


 ただの夫婦として過ごす一日だった。

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