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第47話 レイドへの準備

 ギルドを出たグレンとアイリは、そのまま家へ帰った。


 五日後には初めてのレイドがある。


 参加すると決めたわけではない。


 だが、参加するつもりなら準備はしておきたかった。


「まずはこれかな。」


 家に戻るなり、グレンはマジックバッグからスキルブックを取り出していく。


 これまでの探索で手に入れたもの。


 重複していたもの。


 使わずに残していたもの。


 テーブルの上へ並べていくと、それなりの数になった。


「結構たまったね。」


「ああ。」


 グレンは嬉しそうに椅子へ座る。


「そろそろまとめて合成してもいいと思ってたんだ。」


「グレン、楽しそう。」


「そりゃ楽しいだろ。」


 何が出るか分からない。


 それでも、白から緑。


 緑から青へ。


 少しずつ上位のスキルへ変わっていく瞬間は、何度経験しても楽しい。


「じゃあ始めるぞ。」


「うん。」


 白いスキルブックを二冊手に取る。


「スキルブック合成。」


 二冊が光に包まれ、一冊の緑色の本へ変わった。


 次。


 さらに次。


 次々と合成を進めていく。


 やがて緑のスキルブックが十冊。


「ここからだな。」


「青が五冊できるんだよね。」


「ああ。」


 二冊ずつ組み合わせていく。


「スキルブック合成。」


 一冊目。


 青。


 二冊目。


 青。


 三冊目。


 四冊目。


 そして最後の一冊。


 テーブルの上に、五冊の青いスキルブックが並んだ。


「できた。」


「何が出たかな。」


「順番に見よう。」


 グレンが一冊目を手に取る。


「これは……。」



【スタミナ強化】


持久力を高め、疲労しにくくする。



「スタミナ強化。」


「長く戦う時に良さそう。」


「ああ。レイドにも向いてるな。」


 グレンが頷く。


 二冊目。



【衝撃耐性】


強い衝撃によるダメージや吹き飛ばしを軽減する。



「これもいいな。」


「ミノタウロスみたいなのに殴られた時とか?」


「そうだな。」


 バックラーで攻撃を受けても、完全に衝撃まで消せるわけではない。


 前衛のグレンには相性が良さそうだった。


「次。」


 三冊目を開く。



【マナリカバリー】


消費した魔力の自然回復を早める。



「あ。」


 アイリの目が輝いた。


「これ欲しい。」


「だろうな。」


 グレンもすぐに頷いた。


 アイリは回復だけではない。


 身体強化。


 防御強化。


 クイック。


 プロテクトオーラ。


 さらに攻撃魔法まで使う。


 戦闘が長引けば、それだけ魔力を消耗する。


「覚えていい?」


「もちろん。」


 アイリが青い本へ手を触れる。


 光が身体へ吸い込まれた。


「どう?」


「うーん……。」


 アイリは自分の身体を確認する。


「今は魔力が減ってないから分からない。」


「そりゃそうか。」


「でも長く戦う時には助かりそう。」


「ああ。」


 残り二冊。


「次は……。」


 グレンが四冊目を開いた。


 そして。


 動きを止める。


「アイリ。」


「なに?」


「これ。」


 スキル名を見せる。



【エアーカッター】


風の刃を放ち、前方の敵を攻撃する。



「風!」


 アイリが声を上げた。


「出たな。」


「これ、攻撃魔法だよね?」


「ああ。」


 二人は顔を見合わせる。


 つい昨日。


 何体もの敵を一度に攻撃できる魔法があれば、と話していたところだった。


「範囲までは書いてないね。」


「そうだな。」


「でも風の刃なら、ファイアボールとは違う使い方ができそうだ。」


「覚えてみる。」


 アイリが本へ触れた。


 青い光が消える。


「エアーカッター……。」


 アイリは嬉しそうに呟いた。


「外で試してみたい。」


「ああ。」


「家の中では絶対やるなよ。」


「しないよ!」


「前に俺が合成した瞬間に試したくなったからな。」


「グレンと一緒にしないで。」


「俺はまだ何も壊してない。」


「まだって言った。」


「……次見ようか。」


「誤魔化した。」


 アイリが笑う。


 そして最後。


 五冊目の青いスキルブックをグレンが手に取った。


「えーっと……。」


 そのまま固まる。


「どうしたの?」


「これ。」


 アイリが覗き込む。



【旋風斬り】


身体を回転させながら剣を振るい、周囲の敵をまとめて攻撃する。



「……え?」


「……出た。」


「グレンも?」


「ああ。」


 二人はしばらく本を見つめた。


 欲しかった。


 確かに欲しかった。


 だが。


「まさか二人とも出るとは思わなかった。」


「私も。」


「しかも同時に。」


 アイリが笑い始める。


「すごいね。」


「ああ。」


「こういう時もあるんだな。」


 グレンも笑いながら、旋風斬りのスキルブックを使用する。


 青い光が身体へ吸い込まれた。


「よし。」


「残り二つは?」


「俺が覚えていいか?」


「もちろん。」


 スタミナ強化。


 そして衝撃耐性。


 二冊の青いスキルブックもグレンが使用した。


 これで五冊すべてがなくなった。


「一気に増えたね。」


「ああ。」


 グレンは椅子にもたれる。


「特に範囲攻撃が二つ出たのは大きい。」


「早く試したい。」


「じゃあ外へ行くか。」


「うん!」


 二人は近くの訓練場へ向かった。


 朝の時間帯だからか、使っている冒険者は少ない。


 端の空いている場所を借りる。


「先に私からいい?」


「ああ。」


 アイリがミスリルスタッフを構える。


 少し離れた場所に置かれた複数の木製標的を見る。


「一番真ん中を狙ってみる。」


「分かった。」


 アイリが杖を向けた。


「エアーカッター!」


 次の瞬間。


 ヒュンッ!


 鋭い風切り音。


 一本の風刃が飛ぶ。


 ――のではなかった。


「えっ!?」


 杖の先から生まれた複数の風刃が、扇状に一気に広がった。


 ザザザザザッ!


 中央だけではない。


 左右に並んでいた木製標的までまとめて切り裂く。


 グレンが目を見開いた。


「範囲、広っ!」


「私もびっくりした!」


 アイリ自身も杖を構えたまま固まっている。


「一体を狙っただけなのに。」


「前にかなり広がるんだな。」


 中央の標的だけでなく、その左右まで傷だらけになっている。


「これなら蛇が何体もいたら……。」


「まとめて狙えるな。」


「すごい!」


 アイリが嬉しそうに笑う。


 ただ。


「でも、ファイアボールより魔力を使った感じがする。」


「範囲が広い分かな。」


「たぶん。」


 アイリは少し待つ。


「……あ。」


「どうした?」


「魔力が戻ってくる感じがする。」


「マナリカバリーか。」


「うん。」


 劇的に一瞬で回復するわけではない。


 だが、何もしない時より明らかに早い。


「これ、二つ一緒に出てよかったかも。」


「長期戦にはかなり助かりそうだな。」


「うん。」


 そして。


「次は俺か。」


 グレンがミスリルソードを抜く。


 周囲を確認する。


「旋風斬り。」


 地面を踏み込む。


 身体を回転させながら、一気に剣を振るった。


 ブンッ!


 鋭い風切り音と共に、剣が大きな円を描く。


 近くに並べられていた三つの木製標的へ、ほぼ同時に刃が走った。


「おお。」


「グレンも広い!」


「ああ。」


 グレンは剣を構え直す。


「俺を囲んだ相手をまとめて攻撃できる。」


「蛇相手に良さそう。」


「だな。」


 ただし。


「使う時は周りに味方がいないか気をつけないとな。」


「あ。」


「レイドだと特にな。」


「確かに。」


 二人だけで戦う時とは違う。


 周囲には他の冒険者がいる。


 便利な範囲攻撃だからこそ、使う場所を選ぶ必要がある。


「でも。」


 グレンは剣を鞘へ戻す。


「かなり戦いやすくなった。」


「うん。」


 アイリも嬉しそうに杖を抱える。


 エアーカッター。


 旋風斬り。


 そして長期戦を支えるマナリカバリーとスタミナ強化。


 偶然生まれたスキルばかりだった。


 それでも。


 五日後のレイドに向けて。


 二人の戦い方は、確実に広がっていた。

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