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第44話 八階層最奥

 隠し部屋を出た二人は、古代遺跡の奥へ進んでいた。


 しばらく歩くと、通路の幅が少しずつ広くなっていく。


「さっきまでと造りが違うね。」


「ああ。」


 グレンは壁や床を確認する。


 天井も高くなっていた。


 崩れた柱や瓦礫も少なくなり、まっすぐ先まで見通せる。


「気配察知。」


 反応はない。


 罠察知にも反応なし。


 二人は周囲を警戒しながら進んでいく。


 しばらくすると。


「反応。」


 グレンが足を止めた。


「何体?」


「五体。」


 二人は足音を抑え、通路の角から先を確認する。


 スケルトンソルジャーが三体。


 スケルトンアーチャーが二体。


「またこの組み合わせか。」


 グレンはミスリルソードを抜く。


 左腕にはミスリルバックラー。


 アイリもミスリルスタッフを構えた。


「クイック。」


 いつものように魔法を掛けようとして。


「あ。」


 アイリが止まる。


「どうした?」


「ねえ、グレン。」


「ん?」


「クイックって速さを上げる魔法でしょ?」


「ああ。」


「身体強化も、身体能力そのものを上げるよね。」


「そうだな。」


 アイリは少し考える。


「じゃあ……二つとも掛けたらどうなるんだろう?」


 グレンが瞬きをする。


「重ねがけ?」


「うん。」


「今までやったことなかったね。」


「確かに。」


 二人とも、クイックを覚えてからは速さを上げる時にはそればかり使っていた。


「試してみる?」


「ああ。」


「危なそうならすぐ言う。」


「分かった。」


 アイリが杖を向ける。


「身体強化。」


 淡い光がグレンの身体を包む。


 続けて。


「クイック。」


 二つ目の光が重なった。


「……お?」


 グレンが軽く足を動かす。


「どう?」


「かなり違う。」


 身体強化だけでも筋力や脚力は上がる。


 そこへクイックが重なったことで、足運びも反応もさらに軽くなっていた。


「速さだけじゃないな。」


「剣も振りやすそう?」


「ああ。」


 グレンは少し笑う。


「これ、もっと早く試せばよかったな。」


「私も今思いついた。」


「じゃあ今日から使おう。」


「うん。」


 二人が通路から飛び出す。


 すぐにアーチャー二体が弓を引いた。


 ヒュッ!


 二本の矢が放たれる。


 一本はグレン。


 もう一本はアイリへ。


「アイリ!」


 グレンは一歩横へ踏み込む。


 いつもより速い。


 ガキン!


 自分へ向かってきた矢をバックラーで弾く。


 そのまま地面を蹴った。


 身体強化で増した脚力。


 クイックで高まった速度。


 二つが重なり、一気にアイリの前へ回り込む。


 ガンッ!


 二本目もバックラーで受け止めた。


「速い!」


「俺もびっくりしてる!」


「じゃあ私も!」


「頼む!」


「ファイアボール!」


 火球がアーチャーへ飛ぶ。


 だが、その前へソルジャーが割り込んだ。


 火球が胸へ直撃する。


 骨が弾け飛ぶ。


 しかし魔石は砕けていない。


「スマッシュウェーブ!」


 グレンが剣を振るう。


 衝撃波が前方へ走り、二体のソルジャーをまとめて吹き飛ばした。


 残る一体が距離を詰める。


 剣が振り下ろされた。


 ガンッ!


 バックラーで受け止める。


「おっ!」


 いつもより衝撃が軽い。


 身体強化で腕力も増している。


 グレンはそのまま相手の剣を外へ押し流した。


「連続斬り!」


 一撃。


 二撃。


 胸の骨が砕ける。


 露出した魔石へ剣を突き立てた。


 パリン!


 一体目。


 ヒュッ!


 再び矢が飛ぶ。


 グレンは反射的にバックラーを上げる。


 ガキン!


「反応も速くなってるな。」


「やっぱり効いてる?」


「ああ!」


「先にアーチャーを倒す!」


「頼む!」


 アイリが杖を向ける。


「ファイアボール!」


 火球がアーチャーへ命中する。


 炎と共に骨が散り、胸の魔石が砕けた。


「あと三体!」


「ああ!」


 吹き飛ばされたソルジャー二体が起き上がり始める。


 その後ろでは、残るアーチャーが次の矢をつがえていた。


 グレンは一気に距離を詰める。


 身体が軽い。


 だが、速さだけではない。


 地面を蹴る力も、剣を振る力も増している。


 ソルジャーの一体が立ち塞がった。


 剣を振るう。


 グレンはバックラーで受け流した。


 相手の身体がわずかに開く。


「パワースラッシュ!」


 強烈な一撃。


 胸部が大きく砕け、魔石が露出する。


「ファイアボール!」


 アイリの火球が飛び込む。


 パリン!


 二体目。


「いい連携!」


「まだ来るぞ!」


 最後のソルジャーがグレンへ。


 同時にアーチャーが狙いを定める。


 今度の狙いはアイリだった。


「させるか!」


 グレンはソルジャーの剣をバックラーで弾く。


 そのまま横へ跳ぶ。


 ヒュッ!


 矢が飛ぶ。


 ガキン!


 アイリの前でバックラーが矢を受け止めた。


「やっぱり速いね!」


「これは使える!」


 すぐにソルジャーへ向き直る。


「連続斬り!」


 胸の骨を砕き、続く一撃で魔石を破壊する。


 残るはアーチャー一体。


「ファイアボール!」


 アイリの魔法が先に届いた。


 火球が胸へ直撃する。


 パリン!


 最後の魔石が砕けた。


 広い通路に静けさが戻る。


「ふぅ……。」


 グレンは剣を下ろした。


「さっきまでより楽だったな。」


「やっぱり重ねがけできるんだね。」


「ああ。」


 グレンは自分の手を開いたり閉じたりする。


「クイックだけより動きやすいし、力も出る。」


「身体強化で身体全体を底上げして、その上からクイックで速さを上げる感じかな。」


「たぶんな。」


 アイリは少し嬉しそうに笑った。


「思いついてよかった。」


「ああ。」


 グレンも笑う。


「これから使わせてもらう。」


「任せて。」


 二人は討伐証明を回収する。


「それにしても。」


 アイリが倒れたスケルトンたちを見る。


「やっぱり数が多いと時間は掛かるね。」


「ああ。」


「まとめて攻撃できたら、もっと楽なんだけど。」


「俺のスマッシュウェーブも、相手がうまく並んでくれないと全員は巻き込めないしな。」


「私も一体ずつだし。」


「まあ、今は今あるスキルでやるしかない。」


「そうだね。」


 アイリが笑う。


「いつか、ぶわーってできる魔法が出るかもしれないし。」


「まだそれ言うのか。」


「分かりやすいでしょ?」


「分かりやすいけど。」


 二人は笑いながら歩き出した。


 そこから先は、不思議なほど魔物と遭遇しなかった。


「静かだね。」


「ああ。」


 グレンは気配察知を使う。


 反応なし。


 罠察知にも何も掛からない。


 そのまま進むと、通路はさらに広くなっていった。


 壁に並んでいた石像もなくなり、代わりに巨大な石柱が左右へ並んでいる。


「なんか……。」


 アイリが周囲を見回す。


「最奥って感じがする。」


「俺もそう思う。」


 二人はさらに進む。


 やがて。


 通路の先に、大きな石扉が見えてきた。


 今まで見てきた扉とは明らかに違う。


 二人の身長を遥かに超える巨大な扉。


 表面には複雑な模様が刻まれている。


 その中央には。


 牛の頭を持つ、人型の魔物の姿が彫られていた。


 グレンとアイリは足を止める。


「ここか。」


「うん。」


 グレンは扉を見上げた。


「八階層の階層主の部屋。」


 アイリも小さく頷く。


 二人は巨大な石扉を前に、しばらく黙ってその先を見つめていた。

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