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第34話 アルファウルフ

 グレンは石扉へ手を掛けた。


「行こう。」


「うん。」


 二人はゆっくりと扉を押し開ける。


 重い音が部屋中へ響いた。


 その先には、広い空間が広がっていた。


 部屋の中央。


 一匹の巨大な狼が静かに座っている。


 黒銀色の毛並み。


 鋭い牙。


 通常のシャドウウルフより一回り以上大きな身体。


 その瞳がゆっくりと二人を捉えた。


「鑑定。」


 グレンが小さく呟く。



【アルファウルフ】


七階層の階層主。


群れを率いる狼。


圧倒的な敏捷性と強靭な肉体を持つ。



「やっぱりボスか。」


 グレンはミスリルソードを構えた。


 アルファウルフがゆっくり立ち上がる。


 そして。


「ガアアアアアッ!!」


 咆哮と同時に、一瞬で距離を詰めてきた。


「速い!」


 グレンは横へ飛ぶ。


 爪が床を抉った。


「クイック!」


 アイリの魔法がグレンを包む。


 身体が軽くなる。


「ありがとう!」


 グレンはすぐに距離を取り直した。


「スマッシュウェーブ!」


 衝撃波がアルファウルフへ命中する。


 しかし。


 数歩下がっただけだった。


「やっぱり硬い!」


 アルファウルフが再び飛び込む。


 今度は右から。


 グレンはミスリルソードで受け流す。


 金属音が響く。


「重い……!」


 押し込まれる。


「ファイアボール!」


 アイリの火球が横から命中した。


 一瞬だけアルファウルフの動きが止まる。


「今だ!」


 グレンが踏み込む。


「連続斬り!」


 二撃。


 しかし浅い。


 アルファウルフは後ろへ跳び、距離を取った。


「速いな。」


「ああ。」


「今までで一番だ。」


 アルファウルフは低く唸ると、再び突進してきた。


 グレンは正面から迎え撃つ。


 ギリギリまで引き付ける。


「今!」


 身体を半歩だけずらす。


 爪が空を切った。


「パワースラッシュ!」


 渾身の一撃がアルファウルフの脇腹へ叩き込まれる。


 ドゴォッ!!


 アルファウルフが大きく吹き飛んだ。


 すぐに立ち上がろうとする。


「アイリ!」


「うん!」


「ファイアボール!」


 火球が命中する。


 一瞬だけ足が止まる。


 その隙をグレンは見逃さなかった。


「これで終わりだ!」


 連続斬り。


 一撃。


 二撃。


 三撃目が首元を捉えた。


 アルファウルフは大きく吠える。


 そして静かに光へ包まれた。


 部屋に静寂が戻る。


「勝った……。」


 アイリが大きく息を吐く。


「ああ。」


 グレンも剣を納めた。


「今までで一番速い相手だった。」


「クイックがなかったら危なかったね。」


「ああ。」


 新しい魔法のおかげで勝てた戦いだった。


 その時だった。


 アルファウルフが消えた場所へ、一つの宝箱が現れる。


「また宝箱だ。」


 二人は慎重に近付く。


 罠察知。


 反応はない。


「開けるぞ。」


 ゆっくりと蓋を開く。


 中には、美しく輝く小型の盾が入っていた。


「盾?」


 グレンは手に取り、小さく笑う。


「バックラーか。」


 驚くほど軽い。


 それでいて、しっかりとした造りだった。


 続いて取り出したのは、銀色に輝く軽鎧だった。


「軽い……。」


 アイリが両手で持ち上げる。


 胸や肩など急所だけをミスリルで守り、関節部分は革で作られている。


「ライトアーマーかな。」


 グレンが頷く。


「神官でも動きやすいように作られてるんだろう。」


 アイリはしばらく装備を眺めていたが、少し頬を赤くした。


「でも……。」


「どうした?」


「ちょっとだけ……。」


 アイリは照れくさそうに笑う。


「こういうライトアーマーって、少しセクシーじゃない?」


 グレンは一瞬きょとんとしたあと、改めてライトアーマーを見る。


「そうか?」


「ほら。」


 アイリは胸当てや腰の部分を指差した。


「動きやすいように隙間があるから。」


「なんだか恥ずかしくて。」


 グレンは苦笑する。


「俺は似合うと思うぞ。」


「本当?」


「ああ。」


「それに、動きやすい方がいい。」


「アイリが無事に帰って来られる方が、俺は安心だ。」


 その言葉に、アイリは嬉しそうに微笑んだ。


「……うん。」


「じゃあ頑張って着る。」


 最後に革袋を開く。


 中には金貨がぎっしり詰まっていた。


「今回も大当たりだね。」


「ああ。」


 グレンはバックラーを腕へ当てながら笑う。


「また装備が良くなった。」


 二人は顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべる。


 七階層を攻略した証が、静かに二人の手へ渡されたのだった。

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