第30話 七階層の奥
七階層へ入ってから一時間ほど。
グレンとアイリは慎重に探索を続けていた。
狼との戦闘にも少しずつ慣れ、危なげなく討伐を重ねていく。
「三体。」
グレンが小さく呟く。
「少し先だ。」
気配察知のおかげで、不意打ちを受けることはない。
「行こう。」
「うん。」
曲がり角を利用し、一体ずつ確実に倒していく。
ファイアボールで動きを止める。
グレンが前へ出る。
パワースラッシュ。
連続斬り。
気付けば、狼たちも脅威ではなくなっていた。
「少し休もう。」
壁際へ腰を下ろす。
アイリは水筒を取り出し、小さく首を傾げた。
「あ。」
「どうした?」
「もう少ししか残ってない。」
「そうか。」
七階層は思っていた以上に広い。
探索時間も自然と長くなっていた。
アイリは笑いながら杖を構える。
「ウォーターボール。」
小さな水球が空中へ現れる。
それを水筒へ流し込む。
「これで大丈夫。」
グレンは思わず笑った。
「やっぱり便利だな。」
「戦うだけじゃないね。」
「ああ。」
「覚えて正解だった。」
二人は水を飲み、一息つく。
休憩を終え、再び歩き始める。
しばらく進んだところで、グレンが足を止めた。
「反応。」
「狼?」
「いや。」
「一体だけ。」
しかも。
「大きい。」
アイリも表情を引き締める。
二人は慎重に近付いた。
岩陰からそっと様子を窺う。
「……。」
そこにいたのは、今までの狼より一回り大きな個体だった。
黒に近い灰色の毛並み。
鋭い牙。
そして、周囲を警戒するようにゆっくり歩き回っている。
「強そう。」
「ああ。」
グレンも小さく頷く。
「でも。」
「一体だけだ。」
ミスリルソードを静かに抜く。
「やる?」
アイリが尋ねる。
グレンは少しだけ考えた。
「いや。」
首を横へ振る。
「今日はやめよう。」
「え?」
「相手のことを何も知らない。」
「依頼でもない。」
「無理をする理由がない。」
アイリは安心したように微笑む。
「うん。」
「安全第一だもんね。」
「ああ。」
二人は音を立てないように、その場をゆっくり離れた。
黒い狼は、最後までこちらへ気付くことはなかった。
帰り道。
グレンは静かに笑った。
「今日は十分だな。」
「あの狼も見られたし。」
「うん。」
「七階層には、まだ強い魔物がいる。」
「ああ。」
「焦る必要はない。」
「少しずつ慣れていけばいい。」
二人は夕暮れ前にダンジョンを出る。
今日は無理をしなかった。
だからこそ、また明日も挑戦できる。
それがグレンたちの冒険だった。




