第28話 七階層へ
翌朝。
グレンは目を覚ますと、しばらく天井を見つめていた。
「静かだな。」
隣ではアイリがまだ眠っている。
隙間風の音もない。
床が軋む音も聞こえない。
昨日まで当たり前だった古い借家とは、まるで違っていた。
思わず笑みがこぼれる。
「本当に引っ越したんだな。」
やがてアイリも目を覚ました。
「おはよう。」
「おはよう。」
アイリは嬉しそうに部屋を見回す。
「何だか夢みたい。」
「昨日、お風呂に入ったのに。」
「朝起きてもまだここだった。」
グレンは思わず吹き出した。
「夢じゃないさ。」
「俺たちの家だ。」
アイリは照れくさそうに笑った。
「えへへ。」
◇
朝食を終えた二人は、いつものように冒険者ギルドへ向かった。
「おはようございます!」
ミーナが笑顔で迎えてくれる。
「引っ越し、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
グレンが笑う。
「昨日はお世話になった。」
「いえ。」
「そういえば。」
ミーナは依頼書を一枚取り出した。
「六階層を攻略したお二人なら、七階層の依頼も受けられます。」
グレンは依頼書へ目を向ける。
『七階層調査依頼』
「調査?」
「はい。」
「七階層へ入れるようになったばかりの冒険者向けの依頼です。」
「魔物を何体倒す、といった依頼ではありません。」
「七階層を探索し、安全に戻ってきていただければ達成です。」
アイリが少し安心したように言う。
「いきなり討伐じゃないんだね。」
「はい。」
「七階層は未知の部分も多いですから。」
「まずは地形や魔物を知ることが大切なんです。」
グレンは依頼書を受け取った。
「俺たちに合ってるな。」
「安全第一ですから。」
ミーナも笑顔で頷く。
◇
ダンジョン入口。
グレンはミスリルソードへ手を添える。
「行こうか。」
「うん。」
二人は六階層を抜け、初めて七階層へ続く石階段を下りていく。
やがて景色が変わった。
「これは……。」
アイリが思わず足を止める。
七階層は六階層とはまったく違っていた。
天井は高く、壁には青白く輝く鉱石が無数に埋め込まれている。
淡い光が通路全体を照らし、幻想的な景色を作り出していた。
「綺麗……。」
「ああ。」
グレンも思わず見とれる。
だが、その表情はすぐに引き締まる。
「景色に見惚れるのは後だ。」
「まずは気配察知。」
目を閉じる。
しばらく集中したあと、小さく頷いた。
「今のところ魔物はいない。」
「良かった。」
「でも。」
グレンはゆっくり周囲を見渡した。
「六階層とは空気が違う。」
「ああ。」
「ここからが本当の挑戦だ。」
二人はゆっくりと七階層への第一歩を踏み出した。




