第27話 約束の家
翌日。
朝食を食べ終えたグレンは、木箱の中の金貨を机へ並べていた。
昨日手に入れたボス報酬。
これまで少しずつ貯めてきた貯金。
一枚ずつ数えていく。
「結構あるね。」
アイリが隣で微笑む。
「ああ。」
グレンも頷いた。
「今なら約束を守れそうだ。」
「約束?」
「忘れたのか?」
グレンが笑う。
「お風呂付きの家だ。」
その言葉に、アイリの表情がぱっと明るくなった。
「本当に?」
「ああ。」
「今日は依頼を休もう。」
「家を探しに行く。」
「やった!」
◇
二人は不動産屋を訪れた。
年配の男性店主が笑顔で迎えてくれる。
「借家をお探しで?」
「ああ。」
グレンは頷いた。
「夫婦二人で住める家を探してる。」
「予算はこのくらいです。」
金貨を見せると、店主は少し考え込んだ。
「それでしたら。」
「ちょうど空いた家があります。」
「見に行きますか?」
「お願いします。」
◇
案内された家は、今の借家より少しだけ街の中心へ近かった。
「ここです。」
扉を開ける。
中は決して広くない。
だが。
「綺麗……。」
アイリが思わず呟いた。
床も新しく、窓もしっかり閉まる。
そして。
「グレン!」
アイリが嬉しそうに手招きする。
「見て!」
案内された先には、小さな浴室があった。
「お風呂!」
木製の浴槽。
決して大きくはない。
それでも、二人だけで入るには十分だった。
「これなら毎日入れるね。」
アイリは本当に嬉しそうだった。
グレンはそんな姿を見て笑う。
「気に入ったか?」
「うん!」
「すごく!」
店主も嬉しそうに頷いた。
「この家でしたら、今のお二人でも無理なく借りられますよ。」
グレンはもう一度部屋を見渡した。
隙間風はなさそうだ。
屋根もしっかりしている。
冬でも安心して暮らせる。
「ここにします。」
「ありがとうございます。」
◇
その日のうちに荷物を運び終えた。
といっても、荷物はそれほど多くない。
机。
椅子。
ベッド。
食器。
服。
二人で運べば、夕方には終わってしまった。
「終わったね。」
「ああ。」
グレンは新しい家を見回す。
「なんだか、まだ実感がないな。」
その時。
アイリが少し照れながら言った。
「ねぇ。」
「お風呂……入ってきてもいい?」
グレンは思わず笑う。
「もちろん。」
「今日からこの家のお風呂だからな。」
「ありがとう!」
アイリは嬉しそうに浴室へ向かっていった。
◇
しばらくして。
「ふぅ……。」
頬を少し赤くしたアイリが戻ってくる。
「どうだった?」
グレンが尋ねる。
アイリは幸せそうに微笑んだ。
「すごく温かかった。」
「誰にも気を使わなくていいし。」
「好きなだけ入れる。」
「それに。」
少し照れながら続ける。
「やっぱり家のお風呂っていいね。」
グレンも自然と笑顔になる。
「そうか。」
「約束、守れたな。」
「うん。」
アイリは何度も頷いた。
「ありがとう。」
その一言だけで十分だった。
グレンは、この家を借りて本当に良かったと思えた。
豪華な屋敷ではない。
広い家でもない。
それでも。
二人で笑って暮らせる場所がある。
それが今は、何より幸せだった。
窓の外では夕日が街を優しく照らしている。
新しい家。
新しい生活。
そして次はいよいよ、七階層への挑戦が始まるのだった。




