第12話 新しい魔法
六階層から戻った二人は、帰り道に五階層で依頼分のオークを討伐し、夕方にはフォルンへ戻ってきた。
討伐報告を終えると、そのまま市場へ向かう。
「今日は何を買う?」
グレンが尋ねると、アイリは嬉しそうに肉屋を指差した。
「もちろん、お肉!」
「やっぱりか。」
「今日は六階層まで行ったんだから、ご褒美。」
「そうだな。」
二人は少し奮発して肉を買い、野菜も籠へ入れる。
以前なら少し値段を見て悩んでいた。
だが最近は、そこまで神経質にならなくてもよくなってきた。
「少しだけ生活が楽になったね。」
アイリが微笑む。
「ああ。」
グレンも頷く。
「でも、まだまだこれからだ。」
「うん。」
二人は笑いながら家へ帰った。
◇
夕食は香草で焼いた肉と野菜のスープ。
久しぶりに少し贅沢な食卓だった。
「いただきます。」
「いただきます。」
一口食べたグレンは自然と笑みを浮かべる。
「うまい。」
「本当?」
「ああ。」
「やっぱりアイリの料理は最高だ。」
「またそんなこと言って。」
照れ笑いを浮かべるアイリ。
それでも嬉しそうだった。
食後のお茶を飲み終えると、グレンは木箱を机の上へ置く。
「さて。」
「研究の時間だね。」
アイリも椅子へ座った。
木箱には今日まで集めてきたスキルブックが残っている。
グレンは一冊ずつ確認しながら並べていった。
「今日は攻撃魔法を狙いたい。」
「うん。」
「六階層で分かった。」
「アイリも攻撃できた方が安全だ。」
アイリは少し照れたように笑う。
「役に立てるかな。」
「立つさ。」
グレンは迷いなく答えた。
「アイリが一発撃てるだけで、俺はかなり楽になる。」
「そう言ってもらえると嬉しい。」
グレンは二冊のスキルブックを手に取った。
一冊は『火種』。
火を起こすだけの生活系スキルだ。
もう一冊は『魔力操作』。
魔力を扱いやすくする基礎スキルである。
「この組み合わせなら……。」
「火の魔法になりそう?」
「そんな気がする。」
もちろん確証はない。
合成結果はランダムだ。
だが、方向性は素材によって決まりやすい。
「やってみよう。」
二冊を重ねる。
淡い光が部屋を包み込み、二冊のスキルブックがゆっくりと溶け合っていく。
やがて一冊の緑色のスキルブックが机の上へ落ちた。
「できた。」
グレンは慎重に表紙を確認する。
そして。
「……ファイアボール。」
「えっ!」
アイリが立ち上がった。
「本当に?」
「ああ。」
説明を開く。
『火球を放ち、対象を攻撃する。』
短い説明だった。
だが二人には十分だった。
「狙いどおりだ。」
グレンは笑顔でスキルブックをアイリへ差し出す。
「アイリ。」
「うん。」
「これはアイリが覚えてくれ。」
「いいの?」
「もちろんだ。」
「今日の戦闘で分かった。」
「俺一人で戦うより、二人で攻撃できた方が安全だ。」
アイリは嬉しそうにスキルブックを受け取った。
「ありがとう。」
ゆっくりと本を開く。
柔らかな光がアイリを包み込み、新たな知識が身体へ流れ込んでいく。
数秒後。
光は静かに消え、スキルブックも跡形なく姿を消した。
「どう?」
グレンが尋ねる。
アイリは目を閉じたまま、小さく頷く。
「うん。」
「撃てそう。」
右手を軽く前へ向ける。
魔力を集める感覚が自然と分かった。
今は家の中だ。
撃つわけにはいかない。
それでも、魔法が使えるという確信だけはあった。
「明日試してみよう。」
グレンが笑う。
「六階層で。」
「うん。」
アイリも笑顔で頷いた。
支援だけではなく、攻撃もできるようになった。
それがどれだけ戦いを変えるのか。
二人とも、明日の探索が楽しみで仕方なかった。




